3-9 トーナメント表の狙い
「エスタンシア・モンタンナ 山と森の夏を楽しむ ──バーチャルトーナメント」(仮題)トーナメント表
■一回戦■
●第一試合●
森エルフレミリアVSダークエルフ魔法戦士シルフィー
●第二試合●
のぞみの神殿獣人巫女アヴァロンVS霊力に優れたハイエルフ・カイム
●第三試合●
特異な一族ソールキン家リーナ先生VSハイエルフ幻のアールヴ・ニュム
●第四試合●
回復魔道士ランVS攻撃魔道士マルグレーテ
●一回戦シード枠●
謎の魔族・ヴェーヌス
「二回戦は、それぞれの勝ち残りで戦う。第一試合勝者はシード枠。第二試合と第三試合の勝者。第四試合勝者と、ヴェーヌス」
「二回戦の勝者と二回戦シード枠の三人で、決勝戦というわけですね、モーブ様」
「そういうことだな、アヴァロン」
「マルグレーテちゃんになんか勝てないよ、私」
「あら、ランちゃんだって強いわよ。装備効果だってあるしね。正直、勝負はわからないと思うわ」
ランの装備には、HP/MP無限回復や魔法耐性、物理攻撃低減やら状態異常耐性、即死回避とか、強力な特殊効果がてんこ盛りだ。
「うーん……。どうかなあ」
ランは唸っている。
「でもまあ、よく考えてはあるのう、たしかに」
ヴェーヌスは、紙をぴんと弾いた。
「まず第一試合が、ほとんどのヒューマンが見たことすらないエルフ対決だから、最初からイベント盛り上がる」
「弓使いと魔法戦士の戦いだものね、見た目も派手で、オープニングにふさわしいわ」
「第二試合は、言ってみれば霊力対決。第一試合とはまた趣の異なる、知力対決になる」
「第三試合は優しいお姉さん枠に、ボーイッシュ枠。面白いだろ」
「モーブくんって、ときどき変態ぽくなるわね」
リーナ先生は苦笑いだ。
「まあ、戦うのはアバターだしね。ショーとしては受けるのかも。……でも呪力を駆使するニュムちゃんでしょ、相手」
「いえリーナさん、やってみないとわかりませんよ。僕にも」
ニュムは真剣な瞳だ。
「優しいのね、ニュムくん」
「リーナ先生の例の能力も封印してもらったしね」
「ああそうだ、マルグレーテ。あの能力を使われたら、相手は瞬殺確定。ポルト・プレイザーのすごろく一位記録者、リオール・ソールキン無双のようにな。ショーとしては面白くない。それにソールキン一族の力は、あまり他人に見せたくはない」
「王宮はソールキン一族を監視しているものね」
「そういうことさ」
トーナメント表を、俺はとんとん叩いた。
「第四試合は、学園同期の親友対決か」
呆れたような瞳で、シルフィーに見つめられた。
「なかなかえげつないな、モーブは」
「いやそういうキャッチーなのがいいんだって。実況だって盛り上がるだろ」
「まあ……たしかに、ポルト・プレイザーのビーチバレーとかは、あの解説バニーと芸人さんのMCで盛り上がったけれど」
マルグレーテが、ほっと息を吐いた。
「そして謎の魔族がシード枠ね」
「まさか魔王の娘と明かすわけにもいかないしな。でも強キャラ魔族なんて、特別だ。シードにすることで、その特別感を強調できる。ほとんどの客は、魔族なんて恐い敵だとしか思ってない上にそもそも、見たことすらないからな」
「モーブあなた、ショービジネスでもやっていけそうね」
「前世が底辺社畜だからな。新製品販促イベントで外注費用削ってのコストダウンのために、なんだってやらされたんだわ」
それが実際こうして役立ってるからな。なんだって経験しといて良かったのかもな。あの当時は地獄の日々だったけどさ。
「その調子で当日も盛り上げてよね」
「任せろ」
「ひとつ提案がある」
ヴェーヌスが手を上げた。
「なんだよ。初戦シードが気に入らない。とっとと戦わせろってか」
ヴェーヌスは戦闘大好きだからな。
「まあそんなところだ。一回戦であたしと戦うのは、猫のシュレ。それでシードが消えて、全員に対戦相手が存在することになる」
大真面目な顔つきだ。
「んなーん」
猫まで鳴いてやがる。今鳴いたら賛成してるみたいだぞ、アホ。
「いや……それは……」
「なに、この猫だって意外に強いやもしれん」
「その……」
「えーと……」
それはさすがになあ……。ただただ魔族娘の動物虐待シーンになっちまう。みんなも口をもごもごするばかりだ。
「冗談だ」
猫を撫でるヴェーヌスは、素の顔のままだ。
「魔族の冗談は笑えないんだっての」
軽くデコを押してやった。
「お前もやっぱ魔王の娘だな」
「魔王の冗談も笑えなかったものね」
ランがくすくす笑い始めた。
「『父上』と呼べ……とか、モーブをからかって」
「そうそう。モーブったら、『お父様』とか『父上』とか……。声が裏返ってたし、うわごとみたいだったわよね」
それを思い出させるな。黒歴史だわ。




