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3-7 野薔薇のロザリオ

「デスゲームって……」


 絶句した俺を前にしても、女将ベルヴィルは微笑むだけだ。


「悪いけれど、無理に決まっているわね」


 マルグレーテが首を振った。


「わたくしたちは全員、モーブとだけでなく仲間と強く心が繋がっている。殺し合いなんて、もっての他よ」

「ああすみません。言葉が足りませんでしたね」


 申し訳無さそうに、女将は眉を寄せてみせた。


「皆様の存在を装備ごとアバターとしてコピーし、アバターが戦うのです。バーチャルコロシアムで。ですからご本人にはなんのダメージもありません」


 それならまあ、話がわからなくはない。


「それをリゾート客に観戦させるというわけですね」


 リーナ先生は、茶のカップを置いた。


「ちょうどポルト・プレイザーで、モーブくんやランちゃんたちのパーティーがすごろくに挑戦したときのように」

「はい。あのすごろくやビーチバレーの噂は、当リゾートのお客様やカジノリゾートマネジャーから伺っております。……なんでもものすごい盛り上がりようだったとか」


 ブラックスーツをびしっと着こなすイケオジマネジャーの顔を、俺は思い浮かべた。俺達を歓待してくれたいい男だが、それ以上にやり手だった。このリゾートの先代の頃から、情報を交換する仲だったに違いない。


「なるほど。いつまでも古臭い『寛ぎリゾート』だけでは未来がない。派手なショーで、エスタンシア・モンタンナ改革の狼煙を上げたい……ってことか」

「はいモーブ様。ご協力頂ければ……という前提ですが、イベントの際に、食堂の料理や客室設備などもリニューアルする覚悟です」

「でもなんか、あたしは嫌だな」


 レミリアが口を挟んできた。嫌だと言う割にはひょいぱくひょいぱくと、ホールケーキ退治を続けている。


「だあってさあ、ヴェーヌスにハイキックもらって鼻血と共に顔が腫れ上がるとか、マルグレーテの風魔法で流血の末、首が飛んだりするんでしょ。いくらアバターと言っても、見てて気持ち悪いよ」

「そこはご安心下さい。流血や切断はありません。ヒットした部分に表示が出るだけ。蓄積ダメージは数字で示され、HPゼロになったら敗退です」


 はあ、格ゲーみたいなもんか。ならまあ、見ている側にも罪悪感なんかないな。


「ところで、招待状には謝礼の話があった」


 ずけずけと、ヴェーヌスが踏み込む。


「具体的にはなんだ」

「はい……」


 俺をじっと見る。


「我がデュール家に代々伝わる、野薔薇のロザリオです」

「知らんな。……少なくとも魔族では知られておらん」

「僕も知りません。どういう効果があるんですか」


 ニュムは背筋をまっすぐ伸ばしている。はるか古代から孤立していたアールヴだから最近のアイテムなんか知らないだろうが、逆に旧いものなら知っていそうだ。ましてニュムは巫女筋だし。


「それとも貴重な品で高値がつくとか」


 ニュムもヴェーヌスも知らないのなら、それはかなりのレア物、ないし無名品ということだ。みると他も全員、知らない様子だ。もちろん俺も知らない。原作ゲームでも出てきていないし。


「古代の品なので、たしかに高く売れるでしょう。おそらく皆様が十年は暮らせるくらいに」


 ベルヴィルは頷いた。


「ですがそれ以上の価値があります。特別な効果を持つと伝えられていますので」

「それは」

「邪の目、つまり暗黒面に落ちる魂の救済効果」


 ロザリオ……つまり聖遺物のアクセサリー的な奴だもんな。わからなくはない。


「正直、これを売ってリゾート存続費用とすることも考えました。ですがそれはただの弥縫策びほうさく。死にかけの病人をわずかに生きながらえさせるだけの効果しかありません。それよりは、根本的な解決になるほうが……と」

「なるほど」


 それなら話はわかる。


「どうする、モーブ」


 隣に座るランが、俺を見上げた。


「私は……力になってあげてもいいと思うけど……。困っている人を助ける話だし」

「そうだな……」


 人助けもそうだが実は、俺もこの案件には興味があった。


 というのも、この話に乗れば、仲間の力をしっかり把握できる。モンスター戦だとこっちは十人チームだから個々人の能力をじっくり見ているわけにもいかないし。しかし仲間が一対一で試合をできるなら、それが掴める。現実には本気での戦いなどできないが、アバター戦なら生死や怪我を考慮せずに済むし。だが……。


「そうだな……。俺は乗ってもいい」

「本当ですか」


 ベルヴィル女将の瞳が輝いた。


「ただ、ひとつだけ条件があります」

「条件……。謝礼とかですか。それでしたら──」

「いえ、そんなんじゃない」


 俺は首を振った。


「別に金なんかどうでもいい。なんならそのロザリオだっていらない。そうではなくて……」


 それに続く俺の話に、女将は頷いた。



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