表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

386/463

3-5 森林リゾート、エスタンシア・モンタンナ

「見えてきたぞモーブ。あれがエスタンシア・モンタンナだろう」


 馬車の御者席から、シルフィーが荷室を振り返った。周囲の木々が、御者席にまだらに光を落としていく。太陽は午前十時頃の高さだ。心地良い森風が、馬車内に吹き込んでくる。


「やっとか」


 俺はブランケットの中。汗だくで夢うつつのレミリアを、後ろ抱きにしている。


 例の猫──命名シュレ──が、荷物のひときわ高い場所で香箱座りして、俺を見下ろしていた。猫って奴は、その場で一番心地良い場所を探し出して、我が物顔で陣取るからな。ごろごろ言ってやがるわ。


「起きるぞ、レミリア。ほら」

「うーん……」


 キスしてやると、ようやく目を開けた。


「モーブ……激しかった」

「お前がかわいいからだよ」

「えへへへ……お腹減った」


 ぐうーっ。例によってレミリアの腹が鳴った。まあこいつ、例の「迷いの森」で自分の命がやばかったときも、腹は別だったからな。まあそりゃそうだろう。


「服着ておやつ食べてろ。どうやらリゾート着だ」

「うん」


 ごそごそし始めたレミリアを残し、俺は御者席に。今日の担当は、シルフィー、アヴァロン、ランだ。俺が移ると、シルフィーは身軽に屋根に飛び移った。メインの場所を空けてくれたんだ。


「結構遠かったな」

「二週間ほど掛かりましたね。ご招待を受けてから」


 アヴァロンが、俺の腿に手を置いた。


「きれいな森だねー、モーブ」

「そうだな、ラン」


 ゴーゴン孤児院のあたりは本当に辺境の田舎森って感じで、森の木々や山道もタフで凶悪な感じだった。だがこの辺は木々の密集具合もまばらで、その分、巨大な落葉樹が目一杯枝を伸ばし、大量の葉を広げている。だから森自体が上品だ。相当手が入っている証拠だろう。


 それに山道とは言え、道路も広い。邪魔な岩や雑草などは排除されているようで、走り心地も最高だ。


 だから馬車で飛ばしているだけで、なんだかうきうきしてくる。リゾートへのエントランスロードとしての機能を、十二分に発揮していると言えるだろう。


「これなら金使いたくなるな」

「ええ。それにリゾート側の森は高さや間引きもしっかり管理されていますね。だからほら、徐々に見えてくる建物が、否が応でも期待を高めます」

「たしかに」


 アヴァロンの言う通りだ。左手の樹木越しに、芝生並に手入れされた低丈草原が続いており、その先の大きな湖へと繋がっている。風に湖が白い波を立て、陽光にきらきら輝いていた。湖は巨大だ。多分……琵琶湖とかそのレベル。


「あれがリゾートだよね、モーブ」


 ランが指差した。


 道の先、ほとりにいくつもの建物が立ち並んでいる。ほとんどは低層で風景に溶け込むよう、自然の色で仕上げられている。ただひとつ、木造と思われるが高層の建物がある。


「落ち着いた雰囲気のリゾートだな。ポルト・プレイザーとはまた違っていて」

「プレイザーは歓楽リゾートだもの」


 荷室から、マルグレーテが顔を覗かせた。


「ビーチで美女の水着を楽しみ、閉鎖的なカジノで大枚を賭けて遊ぶ。そういう街」

「でもここはむしろ、心を休める場所ってところか」

「ええそうね。だから刺激的なしつらえになっていないのよ。避暑地ですもの」

「なるほど」


 ちゃんと考えられてるんだな。


「なら俺達に頼みたいイベントってのも、キャンプのインストラクターとかかな。なんせこっちには森の子エルフが四人もいるし」

「それに地形効果を操る巫女、アヴァロンもね」

「そうでしょうか……」


 目を細めると、アヴァロンはリゾートをじっと見つめた。


「どうにも……人がまばらです。お困り事がありそうですね」

「こんな遠くから細かく見えるのかよ」

「当たり前だ。アヴァロンは獣人だぞ、モーブ」


 屋根の上から、シルフィーの声が降ってきた。


「それにあたしにも見える。遠目にはきれいだがあのリゾート、活気が無いぞ」

「マジか……」


 獣人とダークエルフが見て取ったのなら、間違いはないだろう。


「大丈夫だよ、モーブ。モーブさえいてくれたら、何でも解決。これまでもそうだったもんね」


 ランが微笑んだ。


「そしてこれからも」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ