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【書籍第一巻発売中!】即死モブ転生からの成り上がり ――バグ技&底辺社畜力でひっそり生きてたら、主人公のハーレム要員がなぜか全員ついてきたんだが。主人公は王道歩んで魔王倒せよ。俺はまったり暮らすわ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
第六部「矛盾の渦とソールキン一族の宿命」編  1「草薙剣」の警告

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1-2 前正巫女カエデの神託

「モーブ様、よくぞお出でなさいました」


 白木の床。座布団状のクッションに正座した巫女カエデは、深々と頭を下げた。居眠りじいさんこと大賢者ゼニスが、隣で胡座あぐらを組んでいる。


 のぞみの神殿、主殿。小さな祠の本殿を背に、カエデとじいさんは俺達と向き合っていた。


「こちらこそ、ご無沙汰しています。カエデさんもお変わりなく。……先生は老けたな」

「余計なお世話じゃ」


 苦笑いして、ハゲ頭を叩いてやがる。


「カエデは獣人。寿命が違う。わしのような人間と比べられても困るわい」

「先生も大変だろ。その……夜のほうとか」

「あの……」


 何事にも動じない前主座巫女カエデが、少し赤くなった。


「うむ」


 反してじいさんはなぜか大喜びだ。


「なかなか離してくれんでのう……」


 カエデの手を取ると、自分の腿に置いた。


「かわいい女よ」

「それで、土産を持ってきました。……ラン」

「うん」


 白紙の大きな包みを、ランが押し出した。


「これ、先生が飲んでね」

「これは……」


 目前の包みに触りもせず、ヒゲをいじった。


「薬草じゃな」

「長寿草です。迷いの森の奥で採取してきた」

「これで寿命を延ばし、少しでも長くカエデと添い遂げろということか……」


 じいさんはカエデと顔を見合わせた。


「では有り難く受け取っておく」

「おまけとして、絶倫茸も入ってますわよ、先生」

「なにっ!」


 マルグレーテの言葉に、じいさんいきなり目が血走った。


「そ……それはどうでもいいが、まあモーブがどうしてもというなら、念の為受け取っておこうか」


 めんどくさっ!


 まあいいか。じいさんにはなにかと世話になってるからな。老い先短い命(か知らんが)、精々楽しく生きていってほしいからな。


「なんにつけ、モーブと嫁もこれを使っておるのじゃろ。幸せそうな顔をしておる。……知らん顔も増えたしのう」


 ほっほっと笑う。


「エルフ……ハイエルフか。それにダークエルフ。変わった容貌の娘は……もしやアールヴか」

「わかりますか」


 ニュムは驚いている。


「アールヴなど、もう何百年も誰も見たことがないという話ですが」

「なに、エルフが三部族とも揃っておるのじゃ。謎の精霊が横に居れば、係累だろうなと考えるのが常道。まあわしも、アールヴの娘がこのような美しい姿とは思わなんだが。もっと……ノームのような存在かと」

「僕は美しくなどありません。きれいに見えたとしたら、それは……モーブのおかげ。愛されて、僕は幸せになったのです」

「やはりか」


 なにが嬉しいのか知らんが、扇子をぱたぱた広げたり閉じたりしている。


「では残りの新顔も皆、モーブの嫁になったのだな」

「そうです」


 シルフィーが頷いた。


「我ら皆、モーブと一夜を共にして、瞳が藍に変わりました。異変を告げる色ではなく、エルフ統合のしるし、同じ男を婿に持つ徴だと、そう神職は判断しております」

「どんな美少女も、自分色に染め上げる男か……」にやにや

「そんな言い方止めて下さい、先生。俺別に、鬼畜じゃないし」

「モーブ様は優れたお方。その証左に、我が娘アヴァロンも、まるで若返ったかのように輝いております故」

「母上……」


 恥ずかしそうに、アヴァロンは頭を下げた。


「母上も、大賢者様との暮らし、幸せそうでなによりです」

「モーブくん、そろそろ……」


 さりげなく、リーナ先生に促された。


「そうだったそうだった」


 いきなりエロトークになったので、すっかり調子が狂わされてたわ。


「本題に入りますが……」


 懐から、俺は手紙を取り出した。居眠りじいさんが、ポルト・プレイザーの俺宛に寄越した奴。それをそっと白木の床に置く。


「これ、どういう意味ですか、先生」


 じいさんが、手紙に視線を落とした。


 そこにはこうある。




モーブよ

のぞみの神殿にて、特別な神託が下った

リーナを連れ、神殿に来たれ


もちろん嫁全員を連れて来い

わしが新婚の部屋を準備しておいてやるわい

神域の霊力で、快楽が何倍にも増幅される

わしも腰を抜かしたわい

ひひひ


ゼニスしたた




「なんすか、このエロ手紙。ぶったまげましたよ」

「前大戦の英雄、詩に称えられる大賢者様とは思えないわよね」


 マルグレーテも呆れ顔だ。


「そこらのスケベ親父と同じじゃない」

「別にエロくはないわい。重大な案件じゃからのう。確実に呼べるよう、撒き餌を使っただけで。モーブにいちばん効きそうな餌を」

「実際モーブはのう……、この手紙を読むや否や、即座に旅支度を始めたわい」


 ヴェーヌスの野郎、苦笑いしてやがる。


「ポルト・プレイザーで海を見ながら、のんびり何か月も過ごす予定だったのにのう……」

「いやお前まで裏切るのかよ。さすが魔王の娘。邪悪だな」

「邪悪はモーブであろう。毎夜毎夜、あたしをあのように裏表に扱いおって」

「それは……お前だって……あの体位が好きだから」

「知らんわ」つーん

「話がずれてるよ、モーブ」


 レミリアにたしなめられた。


「早く話着けておやつにしようよ」

「そうだったそうだった。……それで先生、特別な神託というのは」

「それは……」


 じいさんが視線を飛ばすと、カエデが頷いた。


「モーブ様、聖なる泉を覚えておられますか」

「覚えてるさ。草薙剣くさなぎのつるぎを捨てた泉だ。神殿裏、池の畔。滝壺裏にある深い洞窟の、どん詰まりにある泉だった」


 草薙剣は八百三十年前、この世界のダンノウラに突然出現した。世界を統べる剣として。世界の支配権を得んとする権力者の争いが巻き起こり、戦乱を鎮めるためこの地に神殿を作って剣を奉納した。誰にも手出しできない聖域と位置づけて。


「それから代々、ケットシーの巫女一族がこの剣を封じ守ってきた。いつか捨てられる日が来るまで」

「そうです。それであなた……モーブ様が現れた。この世界のことわりの外の世界から。モーブ様なら草薙剣を捨てられると、私は直感した。それで実際……」


 じっと見つめられた。


「モーブ様は投棄に成功なされた」

「一時は剣に心が支配され、危ないところだったけどな」

「ランちゃんがモーブを救ったのよね。幻の羽を展開して」

「私、羽持ちだったから……」

「それで捨てた瞬間、なにかがこの剣に乗り移ったのを感じた。多分……草薙剣の魂が。この冥王の剣に」


 じいさんに授かった短剣を、腰の剣帯から外して、手紙の前に置いた。


「まず間違いない。この剣には、それまでにはないスキルが追加されていた。ドラゴンスレイヤーとしての」


 実際そうだ。今、この剣のステータスを鑑定すると、こんな感じになってるからな。



銘「冥王の剣」

クラス不明アイテム

特殊効果:必中。AGLとCRIにボーナスポイント。ドラゴンとアンデッドに強ダメージ。強振時に前方火炎斬発動。



「俺の前世の神話では、草薙剣は、八岐之大蛇やまたのおろちというドラゴン退治に使われた。おそらくそれがあってのスキルだろう」


「それではカエデ様……」


 カイムは、正座して背筋をすっと伸ばしている。カイムはハイエルフ。霊力に優れた種族だからな。聖地やカエデの力を、存分に感じているはずだ。


「特別な神託というのは、聖なる泉に降りたのですね」

「そうですよ、カイムさん。泉の水が突如、濁ったのです。深い底の底から、なにかが染み出してくるように。おそらく……投棄され安寧を得た草薙の剣から」


 冥王の剣を手に取ると、カエデは鞘を額に当てた。瞳を閉じ、なにか感応しようとするかのように。


「ああ……魂を感じる。やはり……」


 剣を置くと、顔を起こした。俺をまっすぐ見つめる。


「この世界には、解き切れない謎……というか矛盾があります。鍵を握るのは、草薙剣と……リーナさん」

「わ、私……」


 リーナ先生が、目を見開いた。


「なんで……私なんかが。ただの……養護教諭なのに」

「正確に言えば、リーナさんの血脈です。……故郷を訪ねなさい。そこに……全ての答えがあるでしょう」

「でも私の故郷は遠いわ。カルパチア山脈に挟まれた、小さな峡谷で」

「世界を滅亡に導く焔炎ほむらが、その地で立ち上りつつあります」


 力強い瞳で、巫女カエデは言い切った。


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