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5-10 出立

「まさかこうなるとは……」


 旅支度の俺達を見て、森エルフ、カザオアール国王が呟いた。


 エルフの森、境界領域。樹々が途切れ、開けた草原の丘が、舞台のように広がっている。俺の仲間と馬車、それに見送りのエルフで、広い丘はもうぎゅうぎゅう詰めだ。


「大食いレミリアを嫁に取った謎のヒューマンに、森エルフだけでなく四部族とも救われるとはな」

「王様、その称号は……あの……」


 レミリア真っ赤になってやんの。笑うわ。


「あなた……」


 マーリン王妃は、カザオアール国王に寄り添っている。


「モーブ様は、特別なお方です」

「まあ、そうであろう。なにせ無骨で男嫌いの我らが戦士、シルフィーを籠絡しおったからな。ひと月も掛からず」


 ダークエルフのファントッセン国王が混ぜっ返す。危機を救った俺達の旅立ちというので、エルフ四部族の族長・国王が揃っている。四本の旗印やそれぞれの側近と共に。長年いがみ合ってきたエルフとしては、奇跡のような光景だ。


「我が君。それは……」


 今度はシルフィーが汗かいてるな。おもろい。


「我が君、モーブ殿には特別な力が……」


 ダークエルフ一の魔法使い、フィーリーが、俺のエルフ嫁四人に視線を投げた。


「皆、藍色に瞳が染まっております。森の危機を告げるためでなく、婿を介して四部族の結束を示すがごとく」


 それなんよな。朝になってシルフィーとニュム、カイムが藍瞳になってて焦ったんだ。またぞろ危機かと。でもそうじゃないって、フィーリーは解説してくれたんだわ。


「外の世界の男だからでありましょう」


 涼しい顔で、ベデリアが答えた。ハイエルフ最強の巫女。アヴァロンと霊力勝負をした老女だ。


「なんでも聞くところによれば、この世界の解放のために遣わされたとか。アルネ・サクヌッセンムという古代の大賢者に」


 俺の立ち位置については、各部族長にはざっくり明かしてある。ここがゲーム世界で開発者と管理者の対立がどうのこうの……とかいうのは省いて。そっち説明してもわからんだろうし。


「それなら、嫁が多いのも頷けるというものじゃ」


 ティオナ女王が頷いた。


「これで八人……いや、九人」

「……」


 俺は黙っていた。だって厳密に言えば十人だからな。ポルト・プレイザーに現地嫁ジャニスがいるから。


 これからあのリゾートに向かうから多分、ジャニスともこっそり逢引することになるだろう。多分まだみんなにバレてないはずだが、今回は獣人たるアヴァロンがいる。嗅覚はごまかせないから俺がジャニスと寝台を共にしたのは、アヴァロンにはわかるはず。


 でも揉め事にはならないと踏んでいた。アヴァロンはそれくらいで怒りはしない。みんなに告げ口するキャラでもないしな。それに仮に他の皆の知るところになっても、特に問題はなさそうだ。その程度で荒れるようなら、今回三人嫁が一気に増えたときに修羅場になっているはずだから。


 ジャニスにはレミリア救出の際に助けてもらったし、病弱の両親を介護している身の上だ。みんなわかってくれると信じてるわ。


「モーブは夜が強いのであろうか」


 ファントッセン国王がニヤけている。ダークエルフだから基本、荒っぽいがファントッセン、妙に憎めないとこあるよな。急によくわからん冗談口にしたりするし。


「自重なさいませ、我が君。ファントッセン様では到達できない領域なれば」


 フィーリーにあっさり処理されてやんの。


「それにしても……」


 アールヴのふたご国王、アールヴ・アールヴとアールヴェ・アールヴが、居並ぶエルフを見回した。


「まさか四部族が揃う日が来ようとは。しかも……長が全て集まって」

「姉君の言うとおりよのう……」


 ふたりはぴったり寄り添っている。


「他部族の習俗が知れて驚いたわい。我らアールヴとは、家も服も、なにもかにもが違うではないか」

「アールヴはエルフ発祥の部族。旧き技を多く残しておることでしょう」


 と、カザオアール国王。


「ほんにのう……。我ら四部族、互いの持つ智慧を集め、森のために生かしましょうぞ」


 ティオナ女王の言葉に、ファントッセン国王も頷いている。


「分かれた部族とは言え、元は同じ。それにエルフの森を豊かにすることは、全ての部族の利益になることだからのう」


 唇の端を上げて笑って。


「とはいえ一番の利は、我らダークエルフが頂くが」

「我が君」


 フィーリーに睨まれてやんの。


「冗談だ、冗談」


 俺に視線を戻す。


「いずれにしろモーブよ。エルフ嫁四人を頼むぞ。我らの絆は、そこに掛かっておる」

「もちろんです」


 手を広げて促すと、四人が俺に抱き着いてきた。


「皆、俺の大事な嫁です。……もちろん、他の皆も」

「うむ。……ではこの勇者を見送るとしよう。エルフ四部族の旗印と共に」

「私が歌いましょう」

「いや、ここは皆がよい」

「……では、水霊ルサールカの部族歌を」

「それならどの部族でも歌い伝えておるからのう……」


 四部族の王が皆、同意した。


「なら行くか、みんな」

「うん、モーブ」

「楽しみだねー、ポルト・プレイザー」

「あたしとモーブの新婚旅行だ……いや、みんなとの」

「どっちでもいいよ。同じことだから」

「よし、みんな収まったか」

「うん」

「はい」

「おう」


 皆が定位置についたのを確認すると、俺は御者席に立った。見送りのエルフ全員に頭を下げる。


「色々お世話になりました」

「なに、それはこっちの話じゃ」

「祖霊と共に見送ろうぞ。英雄の出立を」

「おうよ」


 声を揃えて、エルフが歌い始めた。複雑なリズムの歌。よくわからない言語だが、旋律はどこか物悲しい。メランコリックな曲調だった。


「さて、いくか」


 御者席の俺の両脇には、ダークエルフのシルフィー、それにハイエルフのカイム。レミリアとニュムは荷室の屋根に腰を下ろして、手を振っている。


 馬車先頭のスレイプニールが、俺を振り返った。


「進め、スレイプニール。急ぐ旅じゃない。腹減ったらいつでも止まって、道草を食え。楽しんでいこうや!」


 わかったとばかり頷くと、スレイプニールは歩み始めた。常歩なみあしで。ゆっくりと。太陽照りつけるリゾート都市、ポルト・プレイザーに向かい。


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