4-7 ダンジョン野営
「もう無理だな、モーブ」
シルフィーが立ち止まった。
「ここで野営にしよう。体が持たん」
「そうか……」
俺はエルフ四人に視線を飛ばした。全員、疲労の色が濃い。
「……そうだな」
シルフィーはダークエルフ、本音で生きる部族だ。それだけに、俺に忖度しておべんちゃらなど使いはしない。戦士としての、本音の判断だろう。
「マルグレーテさんの組と別れてから、すでに数時間は進んでいます」
賦活茶を配りながら、カイムが付け加えた。
「その間、何度もゴーストと戦いました。全体にこちらが強いですが、それでもここ数戦、苦戦の気配があります。それは疲れているから」
「モーブったら、イケイケで突き進んじゃうクセがあるもんねー」
レミリアは、腕を腰に当てている。
「あたしもお腹減ったし、晩御飯にしてほしい」
「ニュム、お前はどうだ」
「……行けと命じられたら進む」
それだけ言うと、茶をぐいっと飲んだ。
「だがここは、リーダーの判断力が試される局面だろう」
回りくどい言い方だが、もう休めってことだな。ここで進めと命じるようなら俺は無能だと、そう言われてるも同然だし。さすがアールヴ。捻くれてやがる。
「よし、野営にする。悪いがレミリア、飯の段取りを頼む。俺はマルグレーテと話すから」
「りょうかーいっ! 調理はできないから干し肉と堅パン、それにクコの実だね。意外においしいし、栄養満点。元気も出るよー」
嬉しそうに、背嚢をごそごそし始めた。まあ飯はこいつに任せとけば間違いない。食欲モンスターだからな。
目を閉じると俺は、集中に入った。
……マルグレーテ。
……。
マルグレーテ。
……モー……ブ。
そっちはどうだ。
今、休憩に入ったところ。まあ順調ね。ヴェーヌスが大活躍よ。
俺達も休憩だ。今日はもう、ここで野営する。
ならわたくしたちも、ここで寝るわ。ちょうど……地面が平らで寝やすそうだし。
そうしてくれ。明日の朝また、連絡する。
タイミングを合わせて再開しましょう。
ああ。
……。
どうした。
……モーブと添い寝したいわ。
俺もだよ。
でも……贅沢言っちゃダメね。わたくし、ランちゃんと抱き合って眠るわ。
仲いいもんな。たまにふたりでキスしてるだろ。
あれは……モーブと三人でその……アレ、してるときじゃない。わたくしもランちゃんも盛り上がってるし、ふたりは変な話、恋人同士みたいなもんだもの。モーブが……間に入っているだけで。
今晩もランとキスするんだぞ。ちゃんと胸にもしてやれよ。
……意地悪。
命令だ。
……わかった。そうする。
ぷつっと、通信が途切れた。照れくさいんだろう。まあ、嫁がみんな仲良しで良かった。こっちはこっちで仲良くやるわ。
食事を終えると、ダンジョンの壁に背をもたせ、寝ることにした。底冷えがするんで、五人でくっついてな。
まず、レミリアを膝に乗せて抱き締めた。こうすれば密着するからあったかいし。他のエルフを抱いてあげるのは無理だ。でもレミリアなら俺の嫁だからな。問題はない。
俺の左右には、シルフィーとカイムが寄り添ってくれた。四人で塊のようになるから体温が維持できるし、野営にはベストの体勢だ。ニュムはどうするのかな……と思ったが、俺とレミリアの脚の上に器用に丸まってきた。猫のように。
「……面白いな」
「なにが」
「いや、エルフって、部族が違っても、おんなじ匂いなんだな。草の香り……」
「そうなのか」
シルフィーが、俺の目を見た。
「自分の匂いなどわからん。それに他の部族と寝たのは初めてだ。違いもな」
「レミリアさんは、少し違いますね」
面白そうに、カイムの瞳は笑っている。
「そりゃあな。レミリアは発情して、俺の嫁になった。だから草の香りじゃなくて……」
レミリアの首筋に、顔を埋めた。
「甘い匂いがする。……なんだか俺を興奮させるような」
「……息を掛けないで。あたし……ヘンな気分になっちゃう」
「仲がよろしいですね」
くすくす笑うと俺の胸に手を置き、カイムは寄り添ってきた。
「少し寒いわ」
「そうか……」
手を回し、カイムとシルフィーを抱き寄せてやった。ふたりとも、特に暴れることもなく、体を密着させてきた。
「これが……男の匂い……」
ぼそっと、シルフィーが呟く。
「悪いな、風呂入れてないし」
「いや……嫌いじゃ……ない」
「なんだか『迷いの森』を思い出すね、モーブ。あそこでもこうやって野営したよ。何日も」
「そういやそうだったな」
借金のカタに人買いに買われたレミリアを救うため、貴重な植物を採集に向かったんだよな。あのクエストで初めてヴェーヌスの映像と出会ったし、『コーパルの鍵』も手に入れた。思い返せば、実りの多いクエストだった。
「あの森でもこうやって、モーブがあたしの匂いを嗅いだんだ」
「あのときはまだ、草の香りだったけどな」
「発情前だったからね。シルフィーやカイムと同じだよ」
「あたしは……発情前ってわけじゃない」
ぼそっと、シルフィーが呟く。
「でももっと強く抱いてくれ、モーブ。なんだか……心が安らぐ」
「そうだな」
手に力を込めると、シルフィーも俺の胸に手を回してきた。まるで抱くように。
俺の胸の前で、シルフィーとカイムの手が交差する。
「モーブ様……」
首筋に、カイムの息が掛かった。
「ねえモーブ」
「なんだよレミリア」
「手」
「?」
よくわからんが、手をレミリアの胴に回す。シルフィーとカイムは、俺の腕を胸に抱いてくれた。
「ほら」
俺の手を取るとレミリアが、服の中に導く。
「触ってもいいよ、胸。モーブ、大好きでしょ」
「いいのか」
「うん」
服の中で、レミリアの両胸に手を置いた。温かくて柔らかい。ゆっくり撫でながら、指で先をかわいがってあげた。
「あんまり……指は動かさないでね……。そうでないと……」
首を捻ると、ねだるように顔を寄せてくる。
「……ん」
「……」
「モー……ブ」
唇を重ねると自ら、レミリアは口を開いた。
「……ん」
「……」
「……すて……き」
うっとり呟くと、俺にぐったり身を任せてくる。
「あたし……幸せな気分で眠れるよ」
「良かったな、レミリア」
「うん。……それにしてもニュム」
「なんだ」
「男の子なのに、華奢なんだね」
「モーブがごつごつしてるだけだ」
そっけない返事。
「アールヴの男はみんな、こんなもんだ」
たしかに。俺もなんとなく感じたが、骨が細い感じ。俺のように筋張った鶏のような筋肉ではなく、うっすら脂肪の着いた、柔軟な体型を感じる。
多分、アールヴは格闘戦に強いんだろう。格闘では筋力もだが、柔軟性が極めて重要だからな。そういう風に進化してきたんだ。
「とっとと寝ろ。僕の側でごそごそ乳繰り合われると、なんだか居心地が悪い」
「ごめんな」
手を抜こうとして、レミリアに腕を掴まれた。
「モーブを肌で感じていたい。このままで」
「でも……」
「動かさなきゃいいんだよ。あたしの胸、包むようにしてて。あたしもモーブに触られるの、好きだから」
「お前……すっかり俺の嫁になったな。出会った頃は、あんなにお調子者だったのに」
「モーブが悪いんだよ。あたしの心と魂を奪い取ったから」
胸を包む俺の手を、服の上からぎゅっと握ってきた。そのまま、自分で動かしている。
「まあ……気持ちはわかりますね」
カイムが笑った。
「ねえ、シルフィーさん」
「あたしはわからん」
ぶっきらぼうな返事だ。
「ただ……こうしていると妙に落ち着く。理由は不明だ」
「抱き枕効果だよ。もっとモーブの腕を抱くといいよ」
レミリアに促され、シルフィーは俺の腕をさらに抱き寄せた。手が曲がりそうだなと思ったが、脚を開いて太腿に挟んでくれたよ。俺が痛くないように。
「こうか……」
「そうそう」
「うむ……」
シルフィー、ダークエルフの戦士だから筋肉質だけど、胸は柔らかいな。それに……内腿も。なんかこうして両側にエルフの胸を感じ、膝に乗せたレミリアにいたずらしていると、戦場ということを忘れてしまいそうだ。てか少なくとも俺の体はもうとっくに忘れてる。その証拠に、レミリアの小さな尻に、さっきから当たってるからな。俺のが。
「モーブったら……」
いたずらっぽく笑うと、レミリアが俺の耳に口を寄せた。
「そういうのは、帰ってからね。あたし……たくさんさせてあげる。ランやマルグレーテより、ずうっとたくさん」




