4-4 アヴァロン配置、そしてエルフ四部族の絆
「俺のチームは、エルフ四人。いずれも弓や剣を使えるし、それぞれ各部族の力がある。ハイエルフが霊力、森エルフはアジリティー、ダークエルフが魔導力、そしてアールヴは呪力。攻撃力は充分だ。守備的前衛として俺が入るしな。ただ……」
ひとつ、俺は大きく息をした。それから続ける。
「回復力にやや欠ける。カイムの霊力は回復魔法の効果もあるし、全員ポーションを装備しておく。とはいえ、本職の回復魔道士がいない。ランとリーナ先生がBチームに回った」
「私がAチームに移るわよ、モーブくん」
「いえ、リーナ先生。先生はマルグレーテを支えてください。それがベストです」
「だから迷っておられるのですね、モーブ様」
「そういうことだよ、アヴァロン。回復力に欠ける俺のチームには、駒を分厚くしておきたい。それにはアヴァロン、ケットシーたるお前の力が欲しい」
ケットシーは獣人だけにアジリティーも耐久力も高い。前衛中衛なんでもこなせる。おまけにアヴァロンは巫女だから、霊力で地形効果を与えられる。ここ「禁忌地帯」では地脈が読めないと言っていたから、そちらの効果は期待薄ではある。だがトータルで置いておきたい人材だ。
「……とはいえ、そうすると俺のチームが六人、Bチームは四人。人数的なバランスが悪くなる。それにBチームは魔道士中心だ。やはり盾役にもなる存在が、ヴェーヌス以外にも、あと一枚欲しい」
「あたしなら、普通の前衛三人分に匹敵する。あたしは魔王の娘だぞ、モーブ」
「それを考えてもだよ、ヴェーヌス」
俺はみんなを見渡した。
「アヴァロンをどちらに配すかは一長一短。悩みどころだ。……みんなの意見が欲しい」
それから、時間を取って話し合った。アヴァロン込みの戦略を、AとBでどう仮組みするか。議論は微に入り細に入り続いたが、Aチームに入れるほうが全体の突破可能性を高めそうだ……というのが、おおむねの流れに収束していった。
「でも考えてみて、モーブ」
検討事項も煮詰まってきた頃、突然、レミリアが手を上げた。
「あたし、アヴァロンはBチームでいいと思う。Aチームはモーブとエルフ四人組。それ、欠点にしかみんな考えてないけど、実は利点かもよ」
「どういうことだよ」
「だってエルフ全部族が揃うんだよ。四人分以上の力が出ると思うんだ。モーブとエルフだけならここまでと異なり、エルフ全部族だけで力を合わせないとならないんだからねっ」
「まあ……そうかもな」
たしかに。そういう発想は、俺にはなかった。大食い小娘とはいえ、さすがはエルフだな。
「あたしさあ……」
マジックトーチに、瞳がきらきら輝いている。なんだか知らんが、嬉しそうだ。
「あたし、イベントが欲しかったんだ。部族間のしこりを取るために」
「ちょうどいいイベントかもしれませんね」
ハイエルフのカイムは澄まし顔だ。
「だが事は、難関ダンジョンクリア条件だ。そんな仲良しごっこ目的だと、しくじるぞ」
ダークエルフのシルフィーは眉を寄せている。
「もちろんだよ。ただ、そういうチャンスだってことだけ。……ニュムはどう思う」
「いや、レミリア……」
ニュムは難しい表情を崩さない。
「僕からはなんとも……。多少種族が近いとはいえ、お前らもモーブ同様、アールヴにとっては、ただの余所者だし」
「決めた」
俺は割って入った。今のニュムの困惑を見て決めた。エルフ四人衆は、他の力を入れないほうが、素直に協力できるに違いない。危機下では、部族がどうのとか、いがみ合っていられないからな。そうなれば、レミリアの言うように、四人は数以上の存在たりうる。俺のチームの戦力は、それで充分だ。ニュムはまだ、しこりが取れていない。アールヴ全体の心を開くためにはまず、同行するニュムの心からだ。
それになんといっても、マルグレーテやランが心配だ。Bチームの戦力は気持ち、俺のチームより分厚くしておきたい。
「アヴァロン、Bチームで活躍してくれ」
「わかりました。……モーブ様」
すっと寄ってくると、アヴァロンは唇をねだった。
「ん……愛して……います」
「俺もだ」
たっぷり応えてあげてから、解放した。ほっと熱い息を吐くと、アヴァロンはマルグレーテの隣に立った。
「……どうにもどうにも」
シルフィーが溜息を漏らした。
「なんだか……やっておれんな」
「なにが」
「……鈍い野郎だな、お前は」
「シルフィーさんは、モーブ様とお連れの繋がりに感服しているのですよ」
カイムが解説してくれた。
「私達ハイエルフは、長寿の分、感情の揺れは少ないのです。そんな私でも、モーブ様とお連れ様の愛の貌を見ていたら、なにか魂の奥が揺り動かされる気がします。あれこそが、あるべき姿ではないのかと。……ならばこそ、良くも悪くもハイエルフより感情の強いダークエルフでは、なおのことでしょう」
「だよねー」
我が意を得たりと、レミリアはうんうん頷いている。
「モーブったら、まだ大人になったばかりのあたしも口説いたんだもん。出会ってたった一年かそこらだよ、あたしがモーブのお嫁さんになったの。みんなも知ってのとおり、エルフと人間の恋なんて、滅多に成就しないじゃん。エルフが恋した頃には人間がおじいさんになってるから」
「俺が口説いたんじゃないぞ。お前が勝手に俺のこと好きになったんだ」
「ち、違うもんっ」
ぷいと横を向いちゃったか……。
「モーブは餌付けがうまかったものね」
マルグレーテはくすくす笑っている。
「レミリアがご飯に弱いの知って、野良エルフ……というか野生児を徐々に餌付けしたからよ。だからエルフなのに、すぐモーブに夢中になっちゃって」くすくす
「それも違うし」
レミリアは、腕を腰に当てた。
「違わないでしょ。実際、発情期を迎えたじゃないの。……エルフの発情期って、その殿方のことを心から愛していないと始まらないんでしょ」
「それは……たしかに……そうだけど」
まっかになって、縮こまっちゃったよ。かわいい。
「でもご飯が原因じゃないよ。モーブが素敵だったんだもん。だからエルフだって短時間で心が惹かれるんだよ。……ねえそうでしょ、ニュム。アールヴだって、過去に人間と恋した女子はいたよね、きっと」
「僕は……男だし……なんとも……そのへんは……」
ニュムの言葉は、いつの間にかもごもごになった。
「止めだ止め。なんでこんな話になった。僕らはエルフ全部族の危機を救うパーティーだろ。割り振りが決まったんだ。とっとと先に進もうじゃないか。ほら、モーブ」
床に置いた短剣を、ニュムは俺に押し付けてきた。
「帯剣しろ。そろそろ始めよう」




