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4-3 二チームそれぞれのリーダー

「……よし」


 ああでもないこうでもないと、俺は脳内で戦略を検討した。みんなは辛抱強く待っていてくれたよ。いくつもの可能性を考え、また潰して五分ほど経っただろうか。ようやく、ある程度の勝算……というかリスクリターンの突破口が見えた気がした。


「まず、決められる部分から決めていこう。最初はAチームBチーム、それぞれのリーダーからだ」


 俺が口を開くと、視線が集まった。


「Aチームは俺がリーダーだ。そしてBチーム……」


 真剣な表情の全員をゆっくり見回すと、俺はマルグレーテで視線を止めた。


「Bチームはマルグレーテ、お前に委ねる」

「わたくしが……」


 マルグレーテは唇を引き締めた。


「理由はふたつある。まず、俺とマルグレーテは『従属の首輪』アーティファクトを通じ、ある程度互いの意思を確認できること」

「ポルト・プレイザーのすごろくで、私達とモーブが勝ち取ったアイテムだよね」

「ああラン、そのとおり。マルグレーテの首輪には、俺の血液が封じてある。そのため、戦闘中に限り、俺の考えを一方的にマルグレーテに受信させることができた」

「ここで示された神狐の助言では、それぞれ扉の先の、『神の選択』という試練を、同時にクリアする必要があるからね」

「そうです、リーナ先生。その後、俺とマルグレーテの関係が深まるに連れ、あの首輪を通したふたりのコミュニケーションも進化してきた。戦闘中だけでなく行動中も、互いの意思を伝え合えるようになるまでに」


 驚いたんだよな、あれ。徐々に意思疎通が高まってきた段階を振り返ると、多分だけど、俺とマルグレーテの夜の関係が深まったのと関係している気がするんだ。互いの体と心、魂のポイントを知るに連れ、従属の首輪効果も強まってきたというかな。経験則からくる推測だけど。


「遠隔意思疎通は、古代に失われた大賢者魔法だぞ……」


 ニュムが呟く。アールヴは祖エルフだけに、古代の情報に詳しいのかもしれない。


「そうらしいな。まあ……似たような技を使える大賢者は現存する。遠隔意思疎通じゃなく、幽体離脱という形で」

「ゼニス先生だね」

「ああ。それに魔族も、古代聖地を通じた遠隔通信の技を持っているし」

「それを通して、あたしはモーブと出会ったのだものな」


 ヴェーヌスは頷いた。


「それらと似たようなものなのだろう。ある意味、古代の大賢者魔法を模倣するアイテムなのかも。……はるか昔からあのカジノの目玉賞品として残っていたという話だし」

「でもモーブ……」


 ためらいがちに、マルグレーテが口を開いた。


「わたくしとモーブの意思疎通は、なかなか自由には行かないわ。不意に勝手に繋がることもあれば、意識的に使おうとしても途切れがちだし。だからあんまり、それに頼る戦略は取ってこなかったじゃない」

「不確実要因は戦略……特に戦闘戦術には組み込みたくないしな。……でも今回は使わざるを得ない」

「そうね……たしかに」


 マルグレーテは、ほっと息を吐いた。


「その試練の前で、ふたりで息を揃えるってことね」

「そういうことさ」

「マルグレーテを選んだ理由はふたつって言ってたよね、モーブ」


 レミリアは首を傾げている。


「もうひとつの理由はなに」

「それはなレミリア、このダンジョンをクリアするのに、ふたつのパーティーそれぞれに資質が必要ということだ」

「地脈に強い力、ないし神狐の力が必要だと、書いてありましたね」

「そうなんだよ、アヴァロン。Bチームに、狐の魂を宿しているマルグレーテを置くんだ」


 獣人巫女アヴァロンは、ゆっくり尻尾を振っている。


「二チームのリーダーを決めたことで、次の選択が決まった。俺のチームには、エルフ四人を組み入れる。地脈に強い存在ってことは、この森に定住してきたエルフしか考えられないし」

「あたしとシルフィー、カイムとニュムだね、モーブ」


 なんだか、レミリアは嬉しそうだ。


「そういうこと。Bチームには狐の魂を心に宿したマルグレーテがいるからな。これでABとも、素質者を抱えることになる」

「大丈夫なの、モーブくん。その……Bチームは」


 リーナ先生が、心配げな声を出した。


「だってそうでしょ。イベントクリアには、エルフか狐の力が必要。私達のパーティーには、合計五人。そのうち四人を、Aチームに組み込んでるわよ。バランスが悪いわ」

「バランスを考えたからですよ、リーナ先生」


 俺は説明した。狐のアドバイスでエルフと狐関係者が並列だった以上、狐関係者の重みづけは強いはず。それに……地脈の力というからには、エルフ全部族の力が必要になるかもしれない。ならばエルフを分断するのはリスクが高すぎる。


「わたくしなら、それでいいわよ」


 気丈にも、マルグレーテが言い切った。


「わたくしがなんとかしてみせるわ。愛するモーブのために」

「ありがとう、マルグレーテ」


 抱き寄せると、キスしてあげた。


「……モーブ」


 マルグレーテは、俺に抱かれるままになっている。


「好き……」

「俺もだ」


 そっと、マルグレーテを解放した。


「ここまで決めたことで、次の人選が導かれた。Bチームには、ランとリーナ先生に入ってもらう。ふたりとも、ヘクトール時代からマルグレーテとパーティーを組んできた。息もぴったり合っているし、マルグレーテと組めば、最強の布陣になる」

「任せてモーブ」


 ランは微笑んだ。


「一時的とは言えモーブと別れるのは寂しいけれど、ぜえーったい、マルグレーテちゃんやリーナ先生と三人で、力を合わせてみせるよ」

「私も同じ気持ちよ」

「先生、例の技は封印ですよ。くれぐれも」

「わかってるわよ。心配性ね、モーブくん」


「一生に一度」条件でソールキン一族の例の技を使われたら、確定でリーナ先生が死んじゃうからな。


「なら私とリーナ先生はぁ……、こっち」


 ふたりは、マルグレーテの脇に立った。俺の脇にはエルフ四人。Aチーム・Bチームの間には、ヴェーヌスとアヴァロンが残された。


「残存は、あとふたり。……ヴェーヌス、お前はBチームに入れ」

「任せろ、婿殿。お前の大事な嫁には、擦り傷ひとつ付けさせんわい」


 Bチームに加わった。


「この選択の理由はわかるな、ヴェーヌス」

「ああ。このダンジョンの敵は、どうやらゴースト中核。ならばラン、マルグレーテ、リーナという魔道士三人揃いは、強烈な戦力だ。……だが前衛がいない。詠唱の間、三人の盾となる存在が」

「そういうことだ」

「モーブ様……私はどちらのチームに入りましょう」


 ひとり残ったアヴァロンが微笑んでくれた。


「そこに悩んでいる」


 正直な気持ちを、俺は打ち明けた。




●雑談

皆さんだったら、獣人巫女アヴァロンは、どちらのチームに入れますか? 作者もモーブ同様、結構悩みました。

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