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4-1 禁忌地帯入り口と嫁の寝床

「止まれ」


 先頭を進むニュムの言葉に、全員立ち止まった。


「ここを一歩でも踏み出すと……」


 俺達を振り返る。


「禁忌地帯だ」

「だろうな」


 なんとなくわかっていた。だってそうだろ。ここまでは鬱蒼としたエルフの森まんまの土地だった。でもニュムの足先、その一歩先からは、明らかに違う。事前準備も終わりいよいよ今日、問題の土地探索に入るってわけさ。


 いやこの先だって、森は森よ。ただ、木々は緑を失い、凍りついたように青ざめている。心地よいフィトンチッド満載の森の風も、そちらからは吹いてこず、青い葉は揺れもしない。鳥の声すら聞こえてこない。地面には霜柱らしきものが立っている。


「まるでこの先は、時間が止まっているかのようね」


 腰に手を当てて、マルグレーテは溜息をついた。


「なんだか寂しい森だね。中に棲んでる子や精霊、寂しくないのかな。……かわいそう」


 ランも眉を寄せている。


「不思議な場所ですね」


 しゃがみこんだアヴァロンが、境目の地面に手を置いた。


「境界の先からは地脈を感じない。……あり得ない話です」

「魔族の聖地に似ておるのう。……気配だけは、だが」

「魔族なのに、『聖地』なんてあるのかよ、ヴェーヌス。矛盾してるだろ」

「あるわい」


 睨まれた。


「あまり馬鹿にすると頭をもぎ取るぞ、モーブ。たとえこの腹の娘の父親だからと言っても」

「脅すんならもう一緒に寝てやらんぞ、ヴェーヌス。昨日だって夜中にこっそり、俺の寝床に潜り込んできたくせに」

「それは……」

「やだヴェーヌス、それほんと」


 レミリアが口を尖らした。


「アールヴの里ではそういうことはしないって、約束したじゃんみんなで。なにがあるかわからないから」

「な、なにがあるかわからんから、生きてるうちに……と」

「かわいい声で俺のこと好き好き言ってたもんな。俺の下で喘ぎながら」

「それは……その……」


 見る見る赤くなった。


「ずるーい、ヴェーヌス。なら今晩はあたしが眠る」

「わあ、じゃあレミリアちゃん。私も一緒でいい」

「いいよーラン。腹立つから、ヴェーヌスに声、いーっぱい聞かせちゃお」

「おいおい……」


 ダークエルフのシルフィーは苦笑いだ。


「痴話喧嘩は後にしてくれ」

「これから踏み込むのは、なにがあるかわからない、謎の土地ですからね」


 ハイエルフのカイムにも釘を刺された。


「気を引き締めて行きましょう、モーブくん」


 リーナ先生に、手を握られた。


「はい」


 背伸びすると、俺の耳元に囁く。


「みんなが寝静まったら、私の寝床に来てね。……裸で待ってる」

「……」


 これはもう、行くっかないな。まずランとレミリア、それにもしかしたら他何人かと一緒に寝て、深夜はリーナ先生の寝台に通いづまだ。


 リーナ先生、あのときはいっつも優しくしてくれるからな。俺を包むように胸に抱いてくれて。だいたい俺にあれこれしてもらうのが好きみたいなんだけど、俺が疲れてるときは、恥ずかしがりながらも自分が上になって動いてくれたりもするしな。モーブくんどう、気持ちいい……とか聞いてくれて。最後の瞬間に思わず強く抱き締めると、こらえきれずに先生もかわいい声を漏らしてくれて……。


 あーもう、聖地だか禁忌だか、どうでもいいや。もう今日は帰って寝よう!


 とは思ったが、そうも言えんしなあ……。


「モーブったら……」


 マルグレーテははあーっと息を吐いた。


「禁忌地帯に入るのに、前屈みでは歩かないでよね。わたくしが恥ずかしいから」

「誰が前屈みだよ、アホ」

「もうなってるじゃない。リーナ先生に、なに言われたの。見え見えじゃない」

「うるさい。い、今なんとか元に戻す」


 これは絶倫茸という特殊アイテムを摂取した影響で……とかなんとか、よせばいいのにランが無邪気に、シルフィーとカイムに解説し始めた。ふたりとも、興味津々で俺の顔と下半身を見比べてたわ、くそっ! 恥オブ恥……。


「よし行こう。進め、ニュム」


 ようやく……というか、胸を張れた。


「いいんだな、モーブ」


 冷ややかな瞳だ。


「すぐ前屈みになるとか、情けない。……だから男なんて嫌いなんだ」

「お前だって男だろ。男の生理は知ってるはずだ。なら味方してくれてもいいじゃんよ」

「お前とは鍛え方が違う。これでもアールヴの誇りある巫女筋だからな」


 ふんと鼻を鳴らすと、禁忌地帯に一歩踏み出した。


「いいか。全員一列だ。私の足跡を辿れ。横に踏み出すな。なにが起こるかわからん」


 注意深く、一歩ずつ進み始めた。


 いかんなー。どうにも俺の男の沽券こけんってのが台無しだ。まあ嫁六人とは互いに、体の隅々の味わいから魂の底まで知り尽くしている。だから冗談で済むとしてもさ。残りのエルフ三人衆には俺、馬鹿にされて終わりだわ。


 こっそり溜息をつくと、俺もニュムに続いた。禁忌地帯の中へと。


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