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3-7 神狐とアールヴ

「わたくしと神狐様が、どうしてエルフの危機と関係するの」


 マルグレーテは眉を寄せている。


「住んでいた場所から種族からなにから、あなたたちアールヴとわたくしでは、全て違うじゃないの」

「マルグレーテ、まずは話を聞こう」


 落ち着かせるように、マルグレーテの手を取った。


「……え、ええ」

「話してくれるな、国王」


 アールヴ・アールヴの耳元に、アールヴェ・アールヴが口を寄せた。例によって耳打ちしている。頷くと、アールヴ・アールヴが口を開いた。


「長い話になる。皆、座るがよい」


 床が急にせり上がると、テーブルと椅子の形になった。玉座と向かい合うように。玉座同様、椅子もテーブルも脚は根のようになっているから、なにか特殊な魔導植物を用いているのかもしれない。


 扉が開くと、ワゴンを押しながら、アールヴが三人ほど入ってきた。ワゴンには大きな木製ポットとカップが乗っている。ティーセットというところだろう。俺達のテーブルに茶が並べられ、部屋にいい香りが流れ始めた。


「……」


 礼儀としてひとくち口を着けると、俺は切り出した。


「まず訊きたい。あんたらアールヴは、ひと目で見破った。マルグレーテは神狐と関係があるとな。どうしてわかったんだ。他のエルフ種族は、誰ひとりとしてわからなかったのに」

「それは……」


 アールヴ・アールヴは黙った。傍らのアールヴェ・アールヴと顔を見合わせ、頷き合う。


「エルフという種族が成立したのがそもそも、神狐のおかげだからよ」


 レミリアを見ると、無言のまま、知らないと口が動いた。シルフィーとカイムも首を振っている。どうやらどの部族も、聞いたことがないらしい。


「アールヴの祖霊は、巫女を通してこう言っておる。どうやらエルフ……つまり祖エルフたる我らアールヴのことだが……は、この世界誕生のごく初期に創造されたらしい。創造神によって」

「はあ。最初期……。アルネの仕掛けの」


 俺がアルネと口にしても、アールヴふたりの反応はなかった。知らないんだろう。まあ当然だが。この世界のみんなは、ただの創造物。世界を創ったゲーム開発者アルネ・サクヌッセンムのことなんか、感知できるはずはない。


「そのため存在自体が不安定で、ごく初期に多様な特性を持つ亜種とも呼べる子が多く生まれた」

「それがやがて、森エルフ、ダークエルフ、ハイエルフとして分派したんだな」

「そういうことだ」


 なんだよ。要するにアルネ・サクヌッセンムがまだ世界創造に慣れていなかったから、エルフは生物種として不安定だったってことか。あんなになんでもわかってる顔してたのに、情けないゲーム開発者だな……。


 ちらと天井を見た。あいつ、時の琥珀に閉じこもったまま、これ見てるのかな……。無言のまま、「手抜きすんじゃねえよ」……という口の形を作ってやったわ。見てたらの話だが、今頃苦笑いしてるだろうさ。


 アールヴ・アールヴの話は続いた。


ぜ種の実が破裂するように、エルフという種族はそのまま滅びると思われた。そのとき神狐が現れ、私達アールヴを救ってくれた。生まれる子の特性を揃えてくれ、アールヴの混乱を抑えたのだ」


 生まれてしまった亜種は皆、そのときに分かれたのだと、アールヴ・アールヴは付け加えた。つまりそのときに森エルフ・ダークエルフ・ハイエルフがそれぞれ森に、独自の国を構えたんだな。


「神狐がどういう力を使ったのかはわからないのじゃ。……魔法や霊力、呪力とはまた違う、謎の力で。……神狐と呼ばれる所以ゆえんよ」


 アールヴェ・アールヴが付け加えた。


「ただ……私らの体内に、神狐の魂のごく一部を置いていった。長期間安定を保てるように。それ故、アールヴは神狐の力を感じ取ることができるのじゃ」

「だからマルグレーテが関係があるとわかったんだな、神狐と」

「そういうことじゃ」

「とにかく、そうしてアールヴの混乱は収まった。結果として神狐は、私らアールヴの神話に組み込まれた。種族の大恩人として」


 それだけ言うと、アールヴ・アールヴは脚を組んだ。マルグレーテの顔を、じっと見つめている。


「なるほど。分派した残りのエルフには神狐の魂がインストールされなかった。だから感じ取れなかったし、神狐神話もなかったんだな。森エルフにも、ダークエルフやハイエルフにも」

「……」


 俺の問いに、黙ったままふたりは頷いた。


「でもマルグレーテちゃんは、神狐さんに会っただけだよ。子供の頃に」


 ランが口を挟んできた。


「なのに、なんでそんなにはっきりわかったの。会っただけなら、私もモーブも狐さんに会ったもん。でも……そっちは感じ取れないんでしょ」

「それはのう……」


 ほっと息を吐くと、アールヴ・アールヴは組んだ脚を解き、きちんと座り直した。


「その娘が一度死んで、神狐の魂を注入されておるからだ」


 無表情に言い放った。

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