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2-2 聖地「ヴァンの地」で、巫女勝負開始!

「ではこれより、巫女による霊力比べを始める」


 ティオナ女王がおごそかに宣言すると、百人ものハイエルフの歓声が轟いた。


 ここはハイエルフの森、最深部。最深部だけに巨大な古木が周囲を覆っている。どれもこれも相当の樹齢と思われ、下部の樹皮は苔で分厚く覆われ、心地よい緑の香りを放っていた。


 俺達が立っているのは、そうした巨樹に囲まれた一角だ。直径二十メートルほどの円形空間で、ここだけは樹木が無い。地表はふかふかの苔で覆われていた。


 中央には謎のモニュメントがあった。六芒星りくぼうせいが横たわる形で、地表に埋め込まれている。ミスリルと思われる金属で、鈍い銀に輝いていた。


 モニュメントを挟む形で、アヴァロンとハイエルフの巫女が対峙している。背後にそれぞれ、俺達、そしてハイエルフが陣取る。


 俺の陣営には、成り行きで俺と同行しているダークエルフのシルフィーも交ざっている。また、もてなした経緯からなのか知らんが、カイムもハイエルフ席には行かず、シルフィーの隣……つまり俺の側に立っている。


 ハイエルフは外界に興味がなく淡白だと言うが、事「我が里」となると違うようだ。興奮しているのか、口々に声援を送っている。


 相手の巫女は……やはりというか、例のベデリアとかいう老女だ。まあ『霊力こそ、我らがベデリア様がエルフ随一』とか、側近連中も話していたしな。


「対するは、モーブとやらの嫁御、獣人アヴァロン。それに我らが巫女頭、ベデリアじゃ」


 ティオナは、六芒星の横に立っている。ハイエルフ女王ながら、中立の立場として。女王の言葉にハイエルフ連中が静まり返ると、優しい風に巨木が葉を鳴らす音だけが聞こえてきた。


「どんな勝負なのかしら、モーブ」


 俺の隣で、マルグレーテが囁く。


「わからん。……ただ、この場所はどうやら特別だ。なにか……土地に関する課題が出るのだろう」


 なんたって、声が掛かって呼び出されるまで、情報は一切与えられなかったからな。さっぱりだわ。


「やっぱりそうよね。わたくしもそう思う」

「大丈夫だよ、マルグレーテちゃん。アヴァロンちゃんなら絶対に」

「土地の霊力を感じるわい。……というか痕跡か。いずれにしろここは『聖地』のひとつであろう」


 腕を組んだまま、ヴェーヌスは『聖地』の六芒星を見つめている。


「どうやら、女王の狙いも読めてきた」

「霊力比べは、ここヴァンの地にて行う。皆も知っての通り、ヴァンの地は我らがマナ井戸のひとつとして、古代から大量のマナを供給してくれた。だが、それも限りはある。マナ湧出が枯渇して早、八百余年。この地から掘れるのは、わずかな残存マナのみじゃ」


 感に堪えないといった風情で、六芒星を見下ろした。それから口を開く。


「霊力は、残存マナの掘削勝負で判定する。時間内に多くのマナを発掘した巫女の勝利じゃ」


 うおーっという叫びが、ハイエルフ陣営から巻き起こった。


「負けるはずがない。ベデリア様は、若き日よりマナ感得には特に長けておったからな」

「この地にしても、実用になるほどの量はもはや掘り出せない。過去八百年の間、何度も試みられたこと。しかし……残存マナの獲得となれば、ベデリア様のマナ探知力に匹敵する巫女など、世界にひとりたりともおらんわ」

「ベデリア様全力の巫女姿をこの目で見られるとは思っていませんでした。私、感激です」


 口々に囃し立てる。


「マナの吸い出しか……。どう思う、レミリア」

「アヴァロンは霊力凄いよ、モーブ。……でもここはハイエルフの里。地脈は向こうに有利。それに……」


 眉を寄せている。


「それに相手はハイエルフの巫女頭だよ。ハイエルフはエルフ随一の霊力を誇る。……さすがのアヴァロンも、厳しいんじゃないかな」


 レミリアはエルフ。それだけにエルフ各部族の力については詳しい。判断に間違いはないだろう。


 負けても死ぬわけじゃないからアヴァロン、気楽に行け――と、声を掛けようかと思った。だが止めた。晩飯で飲みながらの冗談とは違う。今は真剣勝負の場だ。巫女としてのプライドだって懸かっている。軽口など言うべきじゃない。


「……」


 俺の葛藤を感じたわけでもないだろうが、つと、アヴァロンが俺を振り返った。


「モーブ様……」


 これ以上ないほど上質な微笑みを浮かべている。


「お慕い申し上げております」

「俺もだ」


 思わず、アヴァロンの手を取った。


「俺がついてる。悔いないように戦え」

「モーブ様……」


 ふわっと俺の体を抱くと、背伸びして首筋にキスしてきた。


「後で……かわいがって下さいませ」

「見せてくれ。『のぞみの神殿』正巫女、その真髄って奴を」

「モーブ様のために……」


 それだけ言い残すと、また位置についた。もう俺を一瞬たりとも振り返らない。集中に入ったのがわかった。俺のようなただの人間にも、アヴァロンの体内でなにかの力が高まっているのが感じられる。


「双方、いいな」


 ティオナ女王が、アヴァロンとベデリアの注意を促す。


「制限時間は、太陽があの一本檜いっぽんひのきに掛かるまで。巫女に連なる多くの祖霊を汚さないよう、正々堂々と戦うこと。では……始めっ!」


 ハイエルフ陣営から大歓声が上がる。アヴァロンが大きく息を吸うのが、後ろ姿からわかった。




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