エキストラエピソード レミリアの瞳3
「モーブ……」
横たわったまま、レミリアは俺に体を預けている。ぐったりと。汗が胸を伝うと、先から俺の胸へと落ちた。
「好き……」
ちゅっと音を立てて、俺の首筋に唇を着けてくる。
「最初に会ったとき、こんな風になるなんて、想像もできなかったよ、あたし」
「お前、腹ペコで行き倒れてたもんな、あの荒れ野で。そら色恋より食い気だろ」
「ふふっ。その後もだよ」
「色々あったよな、俺達」
拾ってやってポルト・プレイザーで別れて。と思ったらカジノで負けて人買いに買われたレミリアを助けてやった。それから正式な仲間となって旅を重ね、戦いで命を預け合った。
「あたし……いつの間にか好きになってた、モーブのことを」
「そうか」
「モーブにはランとマルグレーテがもういたのにね。それにお嫁さんはどんどん増えた。だから自分の気持ちがモーブに引き寄せられるとは思わなかった。あたし……エルフだし。人間と恋愛なんて……」
長寿のエルフは恋愛もスローペース。そのため人間とは好きになる速度が違いすぎて擦れ違い、滅多なことには恋人にはならない。だからヘクトール学園長アイヴァンのようなハーフエルフは、極めて稀な存在だ。
「でもモーブは、他のどんな人間とも違っていた。だからあたし……」
しがみついてきたので、背中を撫でてやった。
「痛かったか。初めての経験は」
「うん」――と言いながら、首を振る。
「でも気持ち良さのほうがずっと上回っててあたし……死ぬかと思った」
実際、普段のレミリアと全く違うかわいい反応を、レミリアは見せていた。思い出すだけでまた気分が高まってくる。
「モーブが動くたびにどんどん……どんどんモーブのことが好きになった。……で思ったんだ。ランやマルグレーテ、それにみんなもこんな気持ちだったのかなって。どうかな」
「そうだな。そうかもしれないな」
「……んっ」
背筋を撫でていると、レミリアは体を震わせた。
「……またする? モーブ」
「初めてだしなあ……」
痛い思いをさせるのはかわいそうだ。
「発情って、いつまで続くんだ」
「モーブのお嫁さんにしてもらったから、もう収まったよ。……でも発情期じゃなくても、こういうことはできるしね。恋人なんだもん」
「だから感じるんだな。ほら」
「もう……意地悪」
体を起こすと、俺の胸をあちこち吸い始めた。
「キスマークつくだろ」
「いいんだよ。今晩のモーブはあたしのものだし」
「ならおかえしだ」
「あっ!」
抱き寄せるように上に乗せた。
●
「悪い人間……初めてがどうとか言ってたくせに何度もして……」
俺に腕枕され、うっとりと呟く。
「でも好き」
「今晩はふたり、抱き合って寝ような」
「うん……」
レミリアが唇を求めてきたので、キスしてやった。
「あたしのお婿さん……」
うっとりと俺を見つめる。
「えっ……」
「なあにモーブ、驚いたみたいに」
「お前の瞳……」
驚いた。レミリアの瞳は、草色だ。それが今は深い藍色に変わっている。
「色が変わったぞ」
「ふふっ。発情を迎えてお嫁さんになったからだよ」
楽しそうに微笑む。
「へえ……エルフって面白い生態だな」
「これからずっと黒いままだよ。他の男エルフに認識させる意味もあるんだ。もうこの女は他の男のものだと」
「黒? いや、藍色だけど」
「藍色? うそっ」
飛び起きると、裸のまま鏡の前に立った。
「やだ……本当だ。すみれ色……」
顔を近づけ指を当て、瞳の色を確認している。
「……ねえモーブ」
「なんだよ、レミリア」
お呼びがかかったから寝台から離れ、後ろから体を抱いてやった。胸を両手で包むように。
「この後、行くところを決めてないでしょ」
「ああ。世界をゆっくり見て回ろうと思ってるだけで。詳細はなんにも」
「ならエルフの森に行かない? あたしの故郷の」
「別にいいけど。……なんかあるのか」
「あたしの瞳が変わったでしょ」
「ああ」
「モーブのお嫁さんになったからだよ。普通は黒になるんだ。でも、すみれ色は特別」
「へえ……。俺が転生者だからかな」
「かもしれないけれど、エルフのみんなの意見を聞いてみたいんだ」
「いいよ。どうせ目的のある旅じゃないしな。もうアドミニストレータに邪魔されることもない」
「決まりだねっ」
くるっと反転すると、背伸びをしてキスをせがんできた。
「みんなで遊びに行こっ、エルフの森に」
●愛読感謝のエキストラエピソード、いかがでしたか。いつも応援・ブクマ・評価ありがとうございます。それを心の糧に、更新を続けています。
次話より「第五部 エルフの森の異変」編開始!
お楽しみにー




