ep-5 ポルト・プレイザー、ビーチカヴァーン
「モーブ様ぁ……」
裸の胸にアヴァロンが甘えてきたので、抱き寄せてやった。
「お慕い申し上げております」
「俺もだよ、アヴァロン」
寝転んだまま、髪を撫でてやる。
ここはポルト・プレイザー、カジノリゾートのプライベートビーチ。プライベートビーチには、デッキチェアやテーブルが並んでいる。
その一番端、人通りがなく誰からも見られない場所に、大きなカヴァーン……つまり天蓋付きの寝台のようなものが置かれている。シニアマネジャーに頼んで設置してもらったものだ。俺達はそこでごろごろしてるってわけさ。
「背中を撫でて下さい」
「よしよし」
もちろん全員、水着姿だ。アヴァロンは、いつぞやビーチバレー大会で見た、あのブラウンのビキニ。背中は丸出しだから、こうして背筋の和毛を撫でてやることができる。柔らかなもふもふに、俺は心から癒やされた。
「モーブ、私も……」
ランが背中に抱き着いてきた。もちろん、ランお気に入りの花柄ワンピース水着だ。
「ラン……」
ふたりを抱き寄せ、交互にキスを与える。俺の舌がからかうように動くのを、アヴァロンの舌は動かず受け入れている。
「婿殿……ここはいいのう……」
天蓋を支える柱に背をもたれかけさせて、ヴェーヌスは遠い水平線を見つめている。俺が選んでやった、黒のビキニ姿。黒髪だし肌は格別に白いから、黒い水着がよく似合っている。格闘士らしい締まった体の線がきれいだしな。それにヴェーヌス、それでいて胸は大きいからな。締まった体にこの胸とか、天は二物を与えまくりだろ、これ。
「波の音とは、心休まるものだのう……」
発砲蜂蜜酒のグラスを手に取ると、口に運ぶ。うねるような波の音。体を焼くほど熱い海風が、心地良い潮の香りを運んでくる。
「本当に落ち着くわよね。この街はもう、わたくしの第二の故郷のような気がするわ」
今日のマルグレーテは、スク水っぽい紺ワンピースじゃないぞ。紺のトライアングルビキニだ。この水着は露出が大きくほぼ裸も同然なので、他の男の目があるときはマルグレーテは着ないんだ。でも今日は近くに客は居ないからな。
ビーチには、酒や飯をサーブしてくれるホテルスタッフがまばらに配置されている。それも俺達に配慮して、かなり遠くに立っているだけだし。必要なら誰か途中まで歩くと、気づいたスタッフが用足ししてくれる感じさ。
だからマルグレーテも遠慮なく、俺に裸を晒していてくれる。
「モーブくん私、お酒もらってこようか」
リーナ先生は、船旅でも散々俺の目を楽しませてくれた、オレンジのビキニ姿。近くでよく見ると同色の花柄が描き込まれていると気づく、凝ったデザインだ。つまり花柄に気づくのは、先生を嫁に迎えた俺だけってことだな。
「はい、お願いします」
「うん」
砂浜に下り立つと、リーナ先生が歩き始めた。
「ならあたしも行く。なんか甘いものとおつまみ欲しいし」
元気よく、レミリアがカヴァーンを飛び降りた。例の白いトライアングルビキニ姿。あーもちろん、今日はちゃんとパット入れてるぞ。
「モーブ様……」
「いい子だな、アヴァロン」
背筋を通る薄い毛を撫でると、尻尾を握った。
「あっ……」
思わず……といった様子で、声が漏れる。ケットシーならではなんだろうがアヴァロン、尻尾が弱いみたいだからな。特に付け根のあたりとか……。
付け根を強く握ったり、そのまましごくようにしたりすると、アヴァロンは俺を強く抱いてきた。瞳を閉じたまま胸に口を着け、はあはあ言っている。獣人の体温は高いが、今はとにかく吐息が熱い。
「い……いけません……そこは」
無視してゆっくり撫でてやる。
「意地悪です……モーブ様」
また俺の唇を求めてきた。夢中で。
「ランもおいで」
「うん」
ぐったりしたアヴァロンを解放すると、ランを抱き寄せた。
「モーブったら、仕方ないわねえ……」
溜息をついたマルグレーテが、カヴァーンの柱の紐を解いた。束ねられていた緞帳がさっと広がり、背後と側面の視界を遮る。これでこのカヴァーンの中は、誰にも見られない。海側は別だがそちらには白砂のビーチと海が広がるだけで、もちろん誰も居ないからな。
「あら……モーブくん」
戻ってきたリーナ先生が、困ったように微笑んだ。
「いけない生徒ねえ……」
「まあた始まった」
レミリアが腰に腕を当てた。
「あたししばらく海で泳いでくる。……ほんとにもう」
ああ、あと機会を得て、二〇三号室に住むビーチカフェガール、ジャニスは訪ねて関係を持った。一応俺の現地妻だしな。これから一緒の旅に誘おうかとも思ってはいたんだ。でも彼女は一般人で戦闘スキルがない。俺のチームは強いからそれでも問題はないんだが、他の嫁に変に劣等感を持ったらかわいそうだ。
それにジャニスには病気の両親がいる。だから誘うのは諦めた。生活費として、保管中のカジノコインをあらかた譲渡したよ。その金で居酒屋でも開くって喜んでたわ。俺はいつでも大歓迎だってさ。店も自宅も。
店の名前を決めてくれって言われたから、俺の前世の名前由来にしたよ。底辺のまま憤死した、とある社畜が生きてきた証として。
「『絶倫茸』、食べさせすぎたかしら……」
マルグレーテも溜息をついている。
「まあよいではないか。おかげで婿殿やラン、それにお前の延命もできたし」
「それはそうだけれど……」
ポルト・プレイザーに落ち着いてから、俺達はまた「迷いの森」に行ってみたんだ。ヴェーヌスと初めて出会った古代の通信処もまた見てみたかったし。まだ魔族のループ罠は残ったままだったけど、俺達は二周目だからな。特に問題はなかったよ。
楽勝で奥まで進んで通信処あたりの草原でいちゃついたあと、ついでに例の稀少な植物を採集した。十年に一度の採取って話だったけど、アドミニストレータが消えて制限が無くなったのか、全部また生えていた。長寿草も絶倫茸も、女子限定若返りの果実も。しかも大量に。
持ち帰り、即座に調理して食べた。仲間のうち短命な四人――つまり俺とラン、マルグレーテとリーナ先生が長寿草。若返りの果実は、女子全員。それに絶倫茸は、もちろん俺だ。その効果か、俺はもうひと晩中……どころかそれよりずっと長く、色々できるようになっていた。
「結局、これだものねえ……」
水着の上から、マルグレーテが俺を撫でた。
「仕方ない。わたくしがなんとかしてあげないと……ね」
「みんな、おいで」
ヴェーヌス以外、全員寄ってきた。絶頂からようやく復帰したアヴァロンも。
「水着脱ごうか」
「うん」
「モーブのエッチ」
「モーブ様……」
「はい」
「みんなで一緒に、仲良くしよう」
くっつくようにして、体を横たえた。
「……わかった」
「うん……」
「……」
だいぶ経ってから、レミリアが戻ってきた。
「なあに……これ」
女子はみんな、汗まみれでぐったりしている。失神したアヴァロンを、俺はまだ背後から横抱きにしていた。
「猛獣に食い荒らされた後みたいじゃん」
レミリアが、はあーっと息を漏らす。
「モーブったら、せめて夜まで我慢しなよ。呆れた……」
「お前も来いよ、レミリア」
自分の腰に、俺はタオルを掛けた。
「少し昼寝しようぜ」
「いいけど……」
警戒心に満ちた瞳を、俺に向けた。
「抱っこするだけだからね。水着脱がしたり、エッチなことしちゃやだよ」
「わかったわかった」
腕を広げてやると、滑り込んできた。
「……抱っこして、モーブ」
「ほらよ」
泳いできただけに、まだ少し体が濡れている。強く抱いてやると、息が漏れた。
「モーブ……あったかい」
「エルフのお前のが体温高いだろ」
「そういう意味じゃないよ」
背中を撫でてやると、レミリアの体から力が抜けた。
「レミリア」
小さな体を、少し上にずらした。顔が正面にあり、見つめ合う形となる。エルフ特有の、澄んだ瞳だ。
「……」
試しに顔を近づけると、すっとのけぞる。きれいな瞳が、じっと俺の目を見ている。嫌がられている様子はない。
「レミリア……」
もう一度近づける。今度はレミリアも逃げなかった。瞳がそっと閉じられる。唇がわずかに開いた。唇を重ね舌で促すと、口が開く。諦めたかのように。俺の舌を受け入れるために。
レミリアの体を、赤い光が包んだ。恋愛フラグの。
そのままビキニの下に手を入れようとすると、レミリアは背を向けた。
「だめ……」
後ろから抱いて、胸に手を置く。拒否されはしなかったが、俺の手の上に、自分の手を重ねてきた。
「動かしちゃだめ」
それでも、俺の手は外さないでいてくれる。高い体温と少し速い鼓動を感じているうちに、眠くなってきた。俺が眠りに落ちるまで、レミリアはなにか言っていたと思う。その言葉はもう、思い出せない。忘却の彼方だ。
●次話「エリク家領地」
マルグレーテの実家へと顔を出したモーブ一行。そこに待っていたのは、マルグレーテ母の意外な変化だった。そしてモーブとマルグレーテは……。
お楽しみにー




