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12-2 戦闘の「魔王フィールド」

「早く縄を切れ、ヴェーヌス。茶番は見ておられん」


 腕を組んだままの魔王は、見下すような瞳だ。自分の娘が俺達のいましめを切って回るのを、黙ったまま待っている。


「切りました、父上」


 仲間は皆、体をさすっている。縛られてかちこちに固まった筋肉や関節を開放しているんだ。なんせいつ戦闘になるかわからないからな。まあ……勝てるとは思えないが。


「モーブか……」


 魔王は呆れたような口調だ。


「お前はモーブを殺してくると言って出たはず……」


 冷たい瞳をヴェーヌスに向けた。


「連れ帰るとは聞いておらん。……どういうつもりだ」


 睨まれると、金玉が縮み上がるような感覚があった。「魔王の影」でもかなりのオーラだったが、実物は桁違いだ。


「説明せよ、ヴェーヌス」

「はい父上。……長くなりますが、お時間は」

「構わん。今日の予定は全て中止した。今頃、配下が大騒ぎしておるであろう」


 魔王が手を振ると、俺達の前に、椅子が現れた。


「座れ」


 椅子といっても、寛げるようなものではない。金属と思われる冷たく堅い座面で、なんというか弾劾される罪人用というか……。


 俺とヴェーヌスが並んで座らされ、一段後ろが五人の仲間だ。ひとり娘にまで、この被告席椅子だからな。


「父上、あたしはモーブを殺すため、先回りして山中で戦闘フィールドを開きました」

「たしかにモーブは不思議な力を持っておる。別世界からの来訪者だしな。……しかし、所詮は人間よ。ヴェーヌス、お前の力で倒せないはずはあるまい」

「戦いの最中、モーブがとあるアイテムを持っているのを知りました。『コーパルの鍵』、アルネ・サクヌッセンムが隠棲する『時の琥珀』と繋がるアーティファクトです。父上もアルネ・サクヌッセンムはご存知ですよね。影戦のとき、リモートでアルネの話を聞いたので」

「うむ」


 それだけ口にすると、また黙る。


「あたしはアルネから聞き出したいことがありました。魔族が本能的に人間を滅ぼそうとするのはなぜか。そしてあたしには、なぜその本能が欠如しているのか。それに……世界開闢せかいかいびゃくの秘密と」


 ちらと俺を見てから続ける。


「そのためモーブとの決闘を中断して手を組み、アルネ・サクヌッセンムを捜す仲間に加わりました」


 魔王は口を挟んでこない。


「厳しい道のりでした。あたしも仲間ももちろんモーブも何度も死にかけ、助け合いながら旅を続け、苦難の末にようやくアルネとの邂逅を果たし、世界と魔族の秘密を知りました。……父上」


 ヴェーヌスは、父親をまっすぐ、きっと見据えた。


「父上の真の敵は、勇者でもモーブでも、もちろんアルネ・サクヌッセンムでもありません。アドミニストレータです」

「ふむ……」


 魔王は足を組み替えた。


「どうしてそう思う」

「魔族が人間を忌み嫌うのは、アドミニストレータによって埋め込まれた、ゲームシナリオのため。我ら魔族は知らずして、アドミニストレータの手の上で転がされる哀れな駒。ただの奴隷です。今こそ奴隷は反乱を起こすべきです。管理者に反旗を翻しましょう。自由のために」

「私はたしかにこの世界と共に生まれ、アドミニストレータには借りがあった。だがいつぞや、影が戦ったあの一戦で、私は多くの情報を得た」


 魔王が語り始めた。


「私にも情報網と、魔法がある。お前が今話したような真実は、おおむねわかっておる」

「ならば父上、あたしやモーブと共に立ち上がりましょう」

うつけ者っ!」


 怒鳴り声が響くと、玉座の間の窓が全て砕け散った。轟音と共に。怒りに燃える瞳から、恐ろしいほどのオーラが立ち上り、俺達を威嚇する。振り返るとレミリアが、口をぱくぱくしていた。呼吸困難に陥ったかのように。


「そのような企み、父の前で口走るとは何事だ。それは長く温め、最適にタイミングを得て一気に進めるべき陰謀。この父が考える事案であろう。人払いしておらなんだら、どのような動揺を、我が魔族にもたらすことか」


 玉座から、鷹揚おうように立ち上がった。


「お前はなにも知らぬ小娘ではないか。口を挟むなど、言語道断。前も警告したはず。そのような世迷言は、一人前になってから口にしろと」


 赤く燃える瞳が、俺を睨んだ。


「モーブよ……。奸言かんげんで我が娘をたぶらかせたお前の罪、地獄の底で償うがよい」




 ――ぼっ――




 例の着火音がした。玉座の間いっぱいに、闇の炎が立ち上る。俺と戦うときにヴェーヌスが展開した、例の「魔王フィールド」だ。今回は俺だけではない。仲間も内部。魔王を倒すか俺達が全滅しない限り、フィールドからは逃れられない。


「モーブっ」


 ランが抱き着いてきた。


「私、怖い」


 いつものランとは思えない弱気。そりゃ、圧倒的な魔王オーラに晒されちゃあな。


「俺が守ってやる。お前もみんなも」


 ランを抱いたまま思いっ切り息を吸うと、金玉を握る。魔王の存在感に押し潰されないように。ヘクトール魔物襲撃事件のとき、居眠りじいさんに言われたとおりに。


 なにしろ原作ゲームのラスボスは魔王。つまり俺達は、否応なくラスボス戦に放り込まれたというわけだ。とにかく全力で戦うしかない。


 腹の底から叫んだ。


「全員戦闘開始っ! 詠唱せよ!」




●次話「ヴェーヌスの切り札」。とんでもない話に……。お楽しみにー

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