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11-5 魂が触れ合う夜

「さて……」


 前室――座敷牢の監視部屋に導くと、ヴェーヌスは俺に向き直った。背が小さいから、俺を少し見上げる形になる。


「モーブよ……」

「切り札って、どうやって用意するんだ」

「今は忘れろ」


 それだけ口にすると、俺の首に手を回してくる。


「モーブ……」


 俺が黙っていると、言いにくそうに言葉を押し出す。


「お前など……大嫌いだ」

「ヴェー……ヌス」


 最後の決闘がああいう形で終わったときから、こいつの気持ちはわかっていた。


「あたしにはわからなかった。出会いのとき、なぜお前に秘名を与えてしまったのか。そしてなぜお前を無性に殺したかったのか。そして……なぜ、お前を殺したくなかったのか」


 ひと息置くと、続けた。


「それはなモーブ、あたしがお前のことを愛してしまったからだ。初めての感情にあたしの心は乱れ、分裂した。あたしは混乱した。だが……冥府冥界で母上の魂と出会い、またアルネ・サクヌッセンムに魔族の真実を聞いて、自分の真の気持ちに気がついた。……お前に魂から惹かれているのだと」


 俺をじっと見つめる。


「あたしのことを、どう思っている」

「大事だと思っている。かわいいと」

「かわいい? あたしがか」


 くすくす笑っている。


「ああ。お前は強がっているだけの、かわいい奴だ。芯に居るのは、寂しがり屋の子供だな。いつも……母恋しくて泣いている」

「……お前」


 燃えるようなヴェーヌスの赤い瞳が潤んだ。端から一滴涙が溢れ、きれいな肌に筋をつける。


「あたしのこと、わかってくれているのか」

「わかるさ。お前は俺の大事な仲間だからな。それに……それだけじゃない。俺を慕ってくれる、かわいい女だ」

「モーブ……」


 うっとりと、ヴェーヌスは瞳を閉じた。


「……ん」


 唇が触れ合うと、もうひと筋、涙が流れた。


「好きだ、モーブ」


 一度口にして呪縛が解けたのか、ヴェーヌスの口からは愛の言葉が次々、溢れてきた。


「あたしの……気持ちに応えてくれ」


 俺の胴を抱えたまま、へたり込むように寝台に腰を下ろす。


「いいのか……ヴェーヌス」

「構わん。あたしを……お前の嫁に加えてくれ。お前と魂を分け合う、世界にただひとつだけの、大切な魂の繋がりに」

「ヴェーヌス……」


 ヴェーヌスの体から、得も言われない香りが立ち上ってきた。俺を誘うような。本能を包む理性が、一枚一枚丁寧に剥がされてゆくのを感じる。抱き寄せてもう一度キスを与え、ボンデージ衣装の上から、胸に手を置いた。服の隙間から手を入れると、柔らかな胸を感じた。


 じっとしたまま、ヴェーヌスは俺の手が動くままにさせている。随分長い間、そうやって胸に触りながら何度もキスを繰り返したと思う。気がつくとヴェーヌスの肌はしっとり汗ばみ、息が荒くなっている。


「服を脱げ」

「……わかった」


 きつく巻かれた締め紐を緩めると、ボンデージスーツを脱ぐ。真っ白の裸体が現れた。ヴェーヌスの裸体はそれこそ、野営の風呂で遠目に見たことくらいしかない。こんな間近にしたのは初めてだ。白い肌に恥ずかしそうに立つ胸の先は、瞳と同じくらい赤く燃えている。


「怖いか」


 黙ったまま、ヴェーヌスは首を振った。


「あたしを誰だと思っておる。魔王のひとり娘、ヴェーヌス様だぞ」

「俺の嫁になってくれてありがとう。ふたりの絆は、一生だ」

「モーブ……」


 また、涙が流れた。


「愛している」

「俺もだ」


 俺達は、体を重ねた。

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