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10-6 魔王城への遠い道

「もうじき、魔族とヒューマンとが睨み合う最前線に辿り着きます」


 大きな盃をテーブルに置くと、アヴァロンはほっと息を吐いた。ばらばらとみんなが風呂を済ませた後、予定通り旅籠内の酒場に繰り出している。


「魔族の地に踏み込むなど大丈夫でしょうか、モーブ様」


 しっかりした、賢い嫁……といった雰囲気。先程までバスルームでランとふたり、後ろから責め立てられて喘いでいたかわいい姿とは、全然違う。結ばれているときもおとなしいアヴァロンが堪えきれずに乱れるときの姿、それに今の理知的な姿、どちらも俺の大好きなアヴァロンの「本当の姿」だ。


「問題はいくつかあるからな」


 指を折って、俺は数えた。


「まず、最前線までの道程。なんせ戦争中の辺境だけに、治安が悪い」

「まあ、このメンバーなら楽勝っしょ」


 川魚のツマミを、レミリアが口に放り込んだ。


「山賊だろうと魔物エンカウントだろうと」

「馬車での睡眠中は結界を張れるしね」

「それこそ移動中に道路脇からいきなり強魔法を撃ち込まれるとかしなければ、なんとかなるわよね」

「それだって初手で何人か戦闘能力が残れば、一気に逆転できるしね。今のメンバーなら」

「装備補正で耐魔法とか物理攻撃ほぼ無効とかあるもんね」

「次の問題は、前線を越え、どうやって魔族の支配地域に入り込むか」

「なにせ両軍が睨み合ってるものね」


 リーナ先生は、盃を口に運んだ。くいっと、少しだけ流し込む。


「見つからずに越えるのは難しい。人間側から援護魔法を受けるにしても、見つかれば魔族側から総攻撃を受けるわ」

「そこは考えてある」


 断言したヴェーヌスが、自分の酒を煽った。


「近づいたら説明する」

「さらに魔族の土地を横断し、魔王城まで隠れ進まないとならない」

「モーブの言う通りね。魔族の支配地域抜けなんて、大難題よ」


 マルグレーテも、おしとやかに酒を楽しんでいる。


 酒場でもう何杯も飲んだので、こんなヤバい話題を酒の肴にしながらも、俺達のテーブルには寛いだ空気が漂っている。今すぐ解決しないとならない問題ってわけでもないからな。


 ああちなみに、アヴァロンは意外にも酒が強かった。わずかに頬が赤らむ程度で、すいすい何杯でも飲む。ヴェーヌスがそれを気味悪そうに眺めてて、笑えるんだよな。魔族でもこんなに強い奴は居ないと、舌を巻いていた。巫女のことが苦手だから、余計に不気味に感じるんだろう。見てても面白いわ。


「わたくしたちは、魔族とは違う。すぐに見つかるわ。そうしたら多勢に無勢よ」

「魔族に化けたらどうかな」

「魔族の鎧や兜を被ってたら、ごまかせるかもね」

「無理だな、リーナ」


 ひとことの元に、ヴェーヌスに否定された。


「一般的に魔族の知能は低いが、高い知能の魔族だって多い。魔道士系とか、ヒューマンをはるかに超える知性の持ち主だ。騙せるのは馬鹿魔族だけ。魔王城までは、まず辿り着けまい」

「ステータスポイント合計が、人間の何倍もあるしな、魔族は」

「ならどうすればいいのかな……」


 ヴェーヌスが差し出してきた皿の豆を、ランはフォークで刺した。


「ありがと、ヴェーヌス」

「あたしが率いるフリをするんだよ、ラン。モーブもみんなも、あたしが捕縛した捕虜ということにする。魔王城で拷問して重要な情報を聞き出すということでのう」


 どえらく恐ろしい偽装を口にする。


「そうすれば父上の城までは大丈夫であろう。誰にも手など出させん」

「なんか、ここだけでもうまくいく気が、全然しないねー」


 さすがのレミリアも苦笑いしている。


「最後の問題が、魔王城内部、そして魔王だ」

「当然だけれど、最強クラスの魔族が集まっているんでしょ」

「そりゃマルグレーテ、本拠地だからな」

「しかも魔王に会うとか……」


 リーナ先生が、眉を寄せた。


「もうみんなで自殺しにいくようなものね」

「あたしがなんとか、父上を説得してみせる。そうして……あたしとモーブとの殺し合いの宿命を、変えてみせる」

「どうやって……」

「それは……」


 レミリアにあっさりツッコまれて、ヴェーヌスは俺の目を見つめた。それから、つと視線を逸らす。


「考えてある」

「さっきからなあに、ヴェーヌス。考え考えって」


 思わず――といった様子で、マルグレーテが声を上げた。


「教えなさいよ。わたくしたち全員の命が懸かっているのに」


 まことにごもっともなマルグレーテの言葉に、なぜかヴェーヌスは口ごもった。


「いずれ……教える」


 いきなり酒を煽った。一気に全部飲む。


「ふう……」


 テーブル上のどでかい陶器瓶から、自分の盃に注ぎ直し、また飲み干す。飲んでいるせいか、顔が赤くなっている。


「ピッチが速いぞ、ヴェーヌス。まだ夜は長い。ゆっくり楽しもうや」

「うるさい、馬鹿者」


 なぜか俺が怒鳴られた。


「あたしの計画に文句をつけるなら、お前を殺す」


 もう無茶苦茶だよ。


「ならまあ、この話は、また今度だね」


 自分の前の皿を、今度はランがヴェーヌスに差し出した。


「この蛙、おいしいよ。ヴェーヌス好きでしょ」

「……」


 無言のまま蛙の脚を掴むと、ヴェーヌスは口に放り込んだ。骨ごと噛み砕く音が響く。


「うん、うまい」


 俺を睨んだ。


「モーブよりランのほうが、よっぽど気が利くわ。リーダーの器よ」


 なぜか胸を張る。


「モーブは女子おなごの心に無神経だからのう」


 いや勝ち誇られても知らんし。


「お酒の瓶、空っぽになっちゃったよ」


 例の大きな酒瓶を、レミリアが俺の前に押し出す。


「おかわりの瓶と換えてきてよ、モーブ」

「わかったわかった」


 一応仮にもリーダーなのに俺、下男じゃんまるで。


「もらってくるよ」


 瓶を掴んで調理台に向かうと、後ろで仲間六人が、なにかひそひそ話し始めた。




●次話から新章「11 魔族の土地(仮題)」に入ります


ヴェーヌスとの運命を変えるため、魔王城への道を進むモーブたち。最前線を越え、魔族の土地に入り込むモーブと嫁の前に、魔族警戒処が立ち塞がる。魔王城を前に深夜、モーブの元を訪れたヴェーヌスは、意外すぎる行動を取る。モーブとの運命を決定する、その行動とは……。大きな転換点を迎える第四部第11章、お楽しみにー!

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