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9-4 「イレギュラー」の正体

「イレギュラーか……」


 アルネ・サクヌッセンムは遠い目をした。


「彼らは、私にとって、特別な存在だ。そして……この世界にとっても」

「なにか原作ゲームと関係があるってことか」

「そういうことだ」


 茶のカップを口に運ぶと、続ける。


「彼らはな、原作ゲームのプレイヤーだよ。たまたま事故や病気で亡くなったときに、このゲーム時空に転生してきたんだ。ここはプレイヤーの魂を引き寄せるよう、世界が設計されているからな」

「マジかよ……」

「ああ。私達開発チームの力及ばず、盛大なるバグゲーになって申し訳なく思う。だがシナリオやゲームシステムは好評で、プレイヤー人口は多い。現実世界では発売から一年とちょい。何百万人かのうち十人かそこらは、不幸にして死を迎えたプレイヤーも出るのが自然だ」

「つまり、そうして転生してきた人――イレギュラー――を見つけるとあなたは、世界を変えるための手駒として、彼らの力になってきたのね。『羽持ち』に改造したキャラクターを周辺に配置するとかで。モーブくんの場合で言えば……」


 リーナ先生は、ちらとランに視線を飛ばした。


「ランちゃんとか、いかづち丸とか」

「そういうことだ、リーナ」

「ならモーブ様だけ、ゲーム開始時点に転生できた理由はなんでしょうか。そこに……モーブ様が最強のイレギュラーである根拠もあるはずですよね」

「アヴァロン、お前はいいキャラに育ったな」


 愛おしげに、アルネはアヴァロンを見つめた。恋愛感情の瞳ではなく、親子愛といった瞳で。


「『のぞみの神殿』設定は、開発初期のアイデアなんだ。過大な業務に押し潰されて封印したイベントのひとつでな。全部のイベントなんか、予算的にも工数的にも、もちろん納期的にも入り切れなかったし。正巫女継承の三位一体イベントは、R18設定と相性がいい。だからR18版で復活させるつもりだったんだが……」


 ほっと息を吐いた。


「お前がこれほど好キャラなら、無理してでも本編に押し込めば良かったか。プレイヤー人気をさらっただろうに」

「それより、モーブ様が最強であるわけをお教え下さい。アルネ様」

「これまでのイレギュラーは皆、死亡したプレイヤーだよ、アヴァロン。モーブだって例外ではない。……ただ、モーブだけは他と違っていた」

「なにが。もったいぶらずに早く言いなよ。あたしお腹減ってきたし、なんだかいらいらする」

「これはこれは……。気づかんで悪かったな、レミリア」


 俺達の前に、ステンレスの皿が幾つも現れた。信玄餅に似た透明物体がたくさん載せられている。


「クッキーだ。食べてくれ」

「透明なのにクッキーなんだ。……まあいいか、気が利くじゃん」


 言い終わるや否や、大口開いてぱくぱくやる。もう機嫌が直ったようで、うまうま言いながら、次々手を伸ばす。おいしそうに食べるレミリアの姿に触発されたのか、他の仲間も適当に口に運び始めた。レミリア、グルメリポーターか広告タレントになれるな。漫才師兼タレント業で、結構稼げるぞ。


「モーブはなレミリア、ゲームプレイ中に死を迎えたんだ。そんなイレギュラーは、これまで存在しなかった」

「あっ……」


 そういやそうだわ。ブラック激務で寝不足のときにプレイしてて俺、死んだんだもんな。


「プレイ中に亡くなったため、ゲームへの精神的な固着が、他のイレギュラーよりはるかに大きかった。そのためただひとり、ゲーム開始時空に転生し、そのままゲームを進められたのだ」

「なるほど。俺はプレイ中に死んだ。あんたは開発中に死んだ。ふたりとも、このゲームと死の瞬間との関係が、極めて深い。……だからこそ俺とあんたは『表裏一体の存在だ』と語っていたんだな」

「そういうことだ」


 アルネ・サクヌッセンムは認めた。


「いずれプレイ中に死を迎えるプレイヤーが出るとは思っていた。プレイ人口も多く、あとは確率の話だからな。そのためいつかは最強の駒が出現するはずだと、こちらの世界でのはるか昔に、大賢者ゼニスに教えたのだ」


 振り返ると、CRが頷く。CRは、車椅子を俺の横まで押してきた。


「頼むモーブ。アドミニストレータを奴の本拠地で根源的に倒し、この世界を真の意味で解放してくれ。あらゆるキャラがゲーム内での自分の役割に囚われず、自由に人生を謳歌できるように」


 手を差し出してきた。


「そうすれば私も社畜のしがらみから解放され、外側からキャラクター達の幸せな人生を眺めていられる。私が創造した、愛すべきキャラクター達を。……人間、エルフや獣人、他種族、それに魔族まで……、あらゆるキャラクター達を」


 俺は手を握り返した。


「やってやるよ、アルネ。……といっても悪いが、あんたのためじゃない。俺の幸せを邪魔してくる、あのアドミニストレータってクソ野郎を叩き潰すためだ。それで世界もあんたも救われるなら、それはそれでいいってこった。礼なんか言わなくてもいいさ。俺は俺と仲間のためだけに生きてるんだからな」

「それでこそ、私の理想とするゲーム内キャラクターだ。運営の横暴を退しりぞけ、自律で生きる」


 アルネ・サクヌッセンムは微笑んだ。


「一緒に世界と物語を紡いでいこう、モーブよ」

「それはいいがアルネ、あんたはまだ大事なことを教えてくれていない」

「はて……」


 CRと見つめ合っている。


「まだなにかあったかな」

「肝心の、アドミニストレータ本拠地の場所だ。そこに行けなければ、何度アドミニストレータと戦ってもトカゲの尻尾。本体を叩かないと」

「おおそうだった」


 アルネは手を叩いた。


「奴の本拠地は、ここと同じく次元の狭間だ。……裏ボスレアドロップ品をいくつか持っているな、モーブ」

「ああ。俺の手元にはすでに六つ集まっている。残りはひとつだ」

「最後のひとつを入手しろ。七つ全てが揃えば自ずと、道は開ける」

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