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8-3 七分の一の賭け

「落ち着け……。落ち着くんだ」


 俺は自分に言い聞かせた。


 まず考えてみよう。それから行動を起こせばいいんだ。


「もしかしたら、たまたま全く別の魂がひとつ転がってきてくっついただけかも……」


 それはあり得る。他の霊は孤立していて見事にバラけていた。だから転がってくっついたという可能性は低い。それがあり得るなら、他の魂でももっと頻繁にその事象が起こっているはず。……だが、別の魂が何故か交ざってしまったというのは、蓋然性がいぜんせいが高い。少なくとも俺は、その仮説に従って行動するべきだ。


 ならばまず、明らかに俺の仲間だと思える魂から、回収すればいいな。解ける問題から始める。試験攻略法と同じだわ。


「よし……」


 体を起こした。七つの魂それぞれの上に手をかざし、瞳を閉じて精神を集中させる。……と、笑顔が脳裏に浮かんだ。


「お前が……ランか」


 俺を思いやるような温かな心が、ある魂から発せられていた。


「間違いない。ランだな」


 迷いなく、その魂に手を伸ばす。魂がどれほど脆弱なのかわからないので、細心の注意でつまみ上げた。金平糖のような見た目なのに、グミのような触感。ランの髪に似た、黄金に輝いている。なんだか、俺に取り上げられて喜んでいるように思える。


「ラン、一緒に帰ろうな」


 そっと、懐に収めた。


「そして……」


 ランのものと思われる魂にぴったり寄り添っていた魂を持ち上げた。


「お前がマルグレーテだ。待たせたな」


 マルグレーテの髪のように、赤く輝いている。俺を慰めているかのように、温かい。魂を懐に収めた。俺は確信を強めた。ここに固まっている魂が、俺の仲間のものに違いないと。


「リーナ先生……レミリア」


 やはり付き合いが長い魂ほど、わかりやすいようだ。ふたつの魂を回収する。俺の懐に収められてみんな、なんだか嬉しそうだ。


 残った魂は三つ。ここから俺は、ヴェーヌスとアヴァロンの魂を選択しなくてはならない。絶対間違えないように……。


「どの子が迷子かな……」


 三つの魂は、どれも黒に近い輝きだ。うちふたつは、微かに赤い筋のようなものが入っている。存在として似ていると感じた。


「ならこのふたつがヴェーヌスとアヴァロンか」


 手を伸ばしかけたが、ふと思い直した。パーティー仲はともかく、巫女と魔族では種族としての相性は悪い。その魂がそっくりなんてあるだろうかと。


「待てよ……」


 魂の上に、再度手をかざす。目を閉じたまま。すると……。


――モーブ様ぁ――


 目を開けた。俺の手のひらの下には、筋なしの魂。


「アヴァロンだな」


 甘えっ子だった三女の声だ。俺はそっと取り上げた。


「迷いを見せ、心配させて悪かったな。みんな待ってるぞ」


 もう懐は、魂の発する温かな心で、ぽかぽかしている。


「……となると、どちらかがヴェーヌスか」


 こいつは難題だ。見た目では区別がつかない。それに……手をかざして感じ取れる魂のオーラも、なぜかそっくりだ。醸し出す存在感が、極めて近い。たまたま間違って転がってきた魂が交ざってしまった――とは、考えにくい。


「どういうことだ……」


 ひとつずつ、触れてみることにした。触るだけなら、選択したとは見なされないだろうし。ゲーム的に言うなら、当たり判定の範囲外ということで。


「まず、お前な」


 撫でるように触れてみる。優しい心を感じる。なにもかも受け入れるような。……その意味でランにちょっと近い、包容力のある魂だ。


「次はお前……あっ!」


 驚いて手を引っ込めてしまった。


 その魂は揺れていた。いや物理ではなく、存在が。激しいエネルギーが魂内部に渦巻き、熱と冷気が戦っていた。魂を傷つけながら。


「ヴェーヌス……お前、悩んでいるんだな」


 何度も撫でてやると、内部の葛藤が次第に収まってきた。撫でられてうっとりする子猫のように、ごろごろという喉鳴りすら聞こえてきそうだ。


「いつでも俺に相談しろ。慰めてやるからさ」


 懐に収めた。


「さて……」


 残った魂を、俺は見つめた。周囲に他の魂は無い。たった独りで、寂しそうに輝いている。


「あんたは誰だ」


 当然だが返事はない。


「だがまあ……なにか心配事か心残りがあるんだろ。冥府に落ち着かず、黄泉平坂に留まっているということは」


 魂を撫でると続けた。


「しかも俺のパーティーと関係がある」


 思いつくのはブレイズだ。だがあいつには主人公補正があるし、簡単に死ぬ野郎じゃない。それにわざわざヴェーヌスにくっついてるのもおかしい。粘着するならランのはずだし。この魂が居眠りじいさんや学園長とも思えない。仮にふたりがいつの間にか死んでいたとしても、魂の所有者はあっさりわかったはずだ。ランやマルグレーテの魂と同様に。さらに、この魂がもしカエデなら、アヴァロンの魂に寄り添うはずだし、それも違う……。


「あんたが誰だかわからんが、安心してくれ。俺がみんなを守るから。そして全員で幸せになる。それをここから見守っていてくれよ」


 魂は震えた。いや、震えたように感じた。そして一瞬輝きを強めると、すうっと消えた。なにかに吸い込まれるかのように……。


「冥府に落ち着いたか……」


 誰の魂かは結局わからなかったが、冥府で穏やかに暮らせることを祈った。


「なあ冥王……」


 立ち上がると、天を仰いだ。


「見てるんだろ。俺は六つの魂を選んだ。絶対に俺の仲間だ。間違いない。約束通り、全員を生き返らせてくれ」


 しばらく、なんの返答もなかった。だが俺には、冥王が答えてくれるという確信があった。


「なあめ――」

「剣所持者の請願は受諾された」


 俺の呼び掛けに重なるように、言葉が響いた。

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