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8-2 黄泉平坂の試練

黄泉平坂よもつひらさかへと進め、モーブよ」


 冥王に促され、なにかふわふわした踏み心地の虹の道を進んだ。歩いているのに、歩いている感覚はない。奇妙だが、振り返るとここまでの道がたしかに見えている。道の起点には、もう冥王の姿はない。消えたのだろう。


「黄泉平坂か……」


 たしか日本神話で、冥府冥界と地上を繋ぐ場所だったよな。イザナギやイザナミのエピソードがあったところだ。冥王の口ぶりからするとおそらく、冥界に落ちたくない魂が集まっているのだろう。


 くねくね道を進んだ。どれほど経ったかはわからないが、ふと気づくと、俺は広い空間に立っていた。道は消えている。冥王と会話した場所同様に、真闇。ただ、なぜか周囲は見えている。


 そこには数百もの物体が転がっていた。見た感じ、みかんサイズの巨大な金平糖というか。様々な色に輝いていて、小さな棘がたくさん出ている。


 この場所が見えてきて近づいたのではない。道を歩いていて、いつの間にか俺はここに立っていたのだ。


「多分、これが魂って奴だな」


 しばらく観察していた。魂は、突然現れたり、消えたりする。誰かが今死んだとか、現世への未練を断ち切って無事冥界に入ったとかなのだろう。


「ここから六人回収するのか……」


 一瞬、絶望的な気分になった。数百から六人抽出とか、ランダムで正解を引く確率は、どう考えても限りなくゼロだ。


「ただ、ヒントはあったな」


 冥王は、六人が寄り添うように固まっていると言っていた。だから、六つの魂がまとまっているものをまず探す。六つの集合体が複数あれば、そのときまた考えればいい。絶対にランダムセレクトしなくて済むはずなのだ。俺と六人には魂の繋がりがあるのだから。


 黄泉平坂は、そう広い空間ではなかった。それほど時間を掛けずとも、全体を見て回ることが可能だ。


「さて……」


 あちこちに転がる魂を踏まないよう細心の注意を払い、俺は見て回った。


「孤立する魂が多いな」


 そりゃそうだ。たとえ愛する家族と結ばれていても、多くの場合、死ぬときは独りだろうし。複数の魂が近くに固まっていることもあるが、おおむねふたつ、あるいは四つまでがほとんど。一箇所だけ、七つの魂が固まっていたのが異色なくらいだった。


「嘘だろ……六つの魂がないじゃん」


 焦った。初手からなにか、俺が勘違いしていたのだろうか。慌てて再度、黄泉平坂を回ってみた。やはり変わらない。


「どういうことだ……」


 考えろ、考えるんだ――と、自分に言い聞かせた。絶対に勝ち筋がある。限りなく細い、神の一手とも言える勝ち筋が……。


「そうですよね、ゼニス先生……」


 まず考えられるのは、六人のうちひとり、ないし複数がすでに現世を諦め、冥界に落ち着いたということだ。


「まさか一気に五人とかは考えづらいよな」


 みんなの笑顔を思い浮かべた。絶対に、俺と再会したいと思っているはず。ならば、仮に成仏したとして、ひとり……最大でもふたり程度のはず。


 固まっている魂を、見て回った。五つの魂、四つの魂、念のため三つの魂の場所も。しゃがみ込んでそれぞれ時間を掛けて観察したが、どうにも、それらがランやマルグレーテ達の魂だとは思えなかった。なんというか……直感に響いてこないのだ。


「慌てるな。時間制限があるわけじゃない」


 じっくり時間を掛ければいい。拙速に間違った魂を選べば、そこでゲームオーバーだ。このミニゲームのルールを最大限に生かし、わずかでも確率の高い方法を取ればいいんだ。


「まさか、増えたとか……」


 七つの魂の場所に戻った。しゃがみ込んで観察する。


「……これか」


 なんとなく、心に響くものがある。俺が近寄ると、魂の輝きがわずかに増したように感じられるし。


「だが、なぜ七つなんだ……」


 ラン、マルグレーテ、エルフのレミリア、リーナ先生、魔族ヴェーヌス、そして巫女アヴァロン――。六人なのに……。


 何度考えてもわからない。見つめすぎて疲れてきたので、俺は寝転んだ。幸い、このあたりの魂密度は高くない。闇にとける空をしばらく、ぼんやり眺めていた。


「六人に七つの魂。どういうことだ……。やはりこの魂でなく、あっちの五つの魂だったのか……」


 そのほうが理屈が通る。もしあれだとしたら、六つ目の魂は回収できないことになる。誰かひとり、俺との暮らしより穏やかな冥府での安寧を選んだんだ。


 誰だろう……。


 やはり俺との殺し合いが待っているヴェーヌスか。それともレミリアあたりかな。あいつは俺の嫁でもない。親密度はかなり増しているしフラグも立っているが、恋愛はスローペースというエルフだけに、冥府でうまいもんでも食えるとなると、心がそっちに揺れたのかも……。


「いや……そうは思えない」


 俺達は、何度も死線を潜ってきた戦友だ。誰ひとり欠けるはずがない。


「と、なるとやはり魂がひとつ多いってわけか。……まてよ」


 カエデはなんと言っていた。ヴェーヌスは心がふたつに割れていると、カエデは俺に教えてくれた。だからふたつなのでは。


「いや……」


 割れているのは、あくまで心だ。魂はひとつのはず。それが証拠に、カエデは俺に「ヴェーヌスの魂を掴め」とアドバイスしてくれたし。それに冥王も「正しく六つの魂だけ選べ」と言っていた。七つのはずはない。


 あと考えられるのは、アヴァロンだ。そもそも三つ子が合体してひとりになった存在。魂が三つあっても不思議ではない。……だがそれなら、ここにある魂は八つのはず。七つというのは考えにくい。それにアヴァロンは「もともとひとつの魂が三つ子に受け継がれている」と教えてくれた。魂はひとつだけのはずだ。となると……。


「無関係の魂が、ひとつ交ざってるんだな。それをもし選べば、俺も仲間もここで終わり。ゲームオーバーだ」


 口に出すと改めて厳しい現実が突き付けられたようで、胃が痛んだ。


 どうすればいい。俺はどの魂を選べばいいんだ……。

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