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7-2 馬車泊一景

 そうやって昼飯を終えたが、その後、馬車の前の崖崩れを整地するのに思いの外、時間が掛かった。


 なのでこのまま移動はせずに、一夜をここで過ごすことに決めた。山はあっという間に暗くなるしな。それに昼飯の焚き火跡を晩飯に再利用できる。面倒がない。


「さて、寝るか」


 晩飯を終えると、さっそく馬車に戻った。寒かったからな。


「わたくし、早くブランケットに入りたいわ」

「夜はもう冷えるもんねー」


 ランが頷いた。山道の秋夜は、急速に気温が下がっていく。馬車の荷室を密閉状態にして、なんとか寒さをしのいでいた。


「みんなとモーブで抱き合ってれば、あったかいけど」

「うー寒い寒い」


 服を全て脱いだマルグレーテが、俺のブランケットに潜り込んだ。


「モーブも早く来てよ。毛布の中、冷え切ってるから」


 首だけ出している。


「わかってるよ」


 俺が身を滑り込ませると、抱き着いてくる。


「マルグレーテちゃん、甘えん坊ね」


 笑いながら、リーナ先生が入ってきた。ランも。


「モーブの体、あったかーい」


 三人の裸の胸が、俺の体を刺激した。


「ほら、キスしてやるから、早く眠れ」

「今日は、わたくしから」

「おいで、マルグレーテ」

「モーブ……」


 ちょっといちゃいちゃした。まあ、そこ止まりだが。馬車で最後までは踏み込まないと、決めている。


「こっちだってあったかいもん。抱き合っていれば」


 もうひとつのブランケットから、レミリアが首を出した。


「アヴァロン、体温すごく高いんだよ。あたしたちエルフもヒューマンより高いけど、アヴァロンはそんなもんじゃない。……ケットシーって、凄いんだね」

「私の体が熱いのは、心が燃えているからです」

「マジ?」

「冗談ですよ」

「もうっ。澄ました顔して冗談言っても、わからないよ」


 はあーっと、レミリアが溜息を漏らした。


「アヴァロンまで、モーブのこと好きになったのかと思った」

「あら……」


 アヴァロンは首を傾げている。


「どうしてそう思ったのですか、レミリアさん」

「冗談だよ。お返しだ」


 あはははっと、大声で笑う。いや久しぶりでレミリアののどちんこ見たわ。


「こんなおしとやかな巫女様が、がさつなモーブなんか好きになるはずないもんね」

「ふふっ。そうですね」


 意味ありげに、アヴァロンが俺に視線を投げた。いやレミリア、お前女のくせに勘、鈍すぎだ。さすがまだ発情期が来てないだけあるわ。


「早く寝ろよ、レミリア。明日も早いぞ」


 たしなめておいた。あんまりそっち方面の話されると、冗談からでも仲間バレする危険性があるからな。アヴァロンはもう俺の嫁になっていると。


「はーいっ……」


 アヴァロンの体に、後ろから腕を回したようだ。ぴったり背中にくっついている。


「あったかーい……」


 もちろん、ふたりはちゃんと夜着を着ている。だからおかしな雰囲気にはなってない。なってないはずだ。いやまさか……。エルフ×獣人百合とか、需要もないだろうし……。いやでもでも……。


 ちょっともやもやした。


 全員裸なのは、俺の毛布だけ。今ちょうど、リーナ先生の胸の先を指でいじめているところだ。えーともちろんふざける程度な。本気になると俺も興奮しちゃうだろうし、俺の体の変化は、三人とも感じ取るに違いない。そうなると俺が堪えきれず、始めちゃうリスクがある。いや「リスク」ってのも、ヘンな言い方だが。


「モーブくん……」


 そっと、手を押さえられた。


「おいたは終わりよ。これ以上されたら、私……」


 俺の手に、自分の手を重ねてきた。手を包むように握ってくる。自分の胸の先を、俺の指に与えたまま。嫌がりもせず先生、優しいな……。


「寝ましょう。ほらランちゃん、もう眠ってるわよ」

「ランちゃんは、いつものことよ」


 俺の背中に唇を着けたまま、マルグレーテがくすくす笑った。


「わたくし、ランちゃんがうらやましい。本当に天真爛漫なんだから」

「そうね」


 旅の仲間が増えたので、ブランケットも大きくした。……というかふたつ縫い合わせて大きな寝袋のようにした。そこに俺達は四人で潜り込んでいる。夜の山はもう結構寒いので、抱き合って寝るのが心地良い。子猫が集団で丸まって眠るようなもんさ。


 もうひとつのブランケットもサイズアップした。そっちはアヴァロンとレミリアが使っている。ヴェーヌスも充分入れる広さにしたのだが、あいつは変わらず、荷室の壁に背をもたせたまま眠っている。一応言ってはみたんだが、結局毛布には入っていかなかった。


 巫女の霊力が苦手なこともあるのだろうが、多分それは主たる問題じゃない。アヴァロンが仲間に加わる前から、ヴェーヌスはそうして独り座ったまま眠っていたからな。


 今晩もいつもどおり、あのボンデージっぽい服のまま、壁に背をもたせかけ、腕を組んだまま目を閉じている。そうやって体と脳を休めつつ、万一の夜襲に備えてセンサーを張っているんだろう。イルカとかだと、脳の右半球と左半球を交互に休めながら泳ぎ続けるという、器用な睡眠の仕方をする。おそらくヴェーヌスもそんな感じなのだと、俺は想像している。


「ヴェーヌス、寝たのか」

「……」


 返事はない。眠っているか、寝たふりをしているのか……。


 正直、ヴェーヌスの行動(と考え)は、俺には読めない。なにか心に大きな葛藤を抱えていると、巫女カエデは看破していた。なんとなくだが、俺もそう感じる。俺には霊力はないから確信こそないが、もう一か月ほど毎日一緒だしな。勘だよ。


「寒くないか。なんなら俺のブランケット入るか」

「……」


 ちなみにあいつ、着替えとかは持っていない。そもそも、体ひとつで押し掛けてきたからな、俺を殺そうとして。それとなく聞いてみたが、汚くはないらしい。服には魔力が込められており、汚損から防御されているんだと。それだけではなく、着用者の体を清潔に保つ効果もあるという。つまり最悪風呂の無い環境でも、長期間問題が出ないということだ。


 とはいえアヴァロンが仲間に加わった頃から、ヴェーヌスの行動にはわずかに変化が生じていた。よく昼寝するようになったのだ。座ったままではない。俺のブランケットに潜り込んでひとり、体を丸めてすやすやと。


 自分のことはあいつ、あんまり話さないんだ。だから正しいかわからんが、人数も増え、戦力に余裕ができたからだろう。万一の襲撃があったとき、自分が出遅れてもたいして問題は出ないと判断したに違いない。そう俺は考えている。昼ならみんな、起きてるしな。


 昼寝時には珍しく、自前の服を脱ぐんだ、ヴェーヌス。洗濯前の俺のぼろシャツと下着を引っ張り出してきて、夜着代わりに身に着ける。どこか街で夜着を買ってやると申し出たが、これで充分だと鼻であしらわれた。女女した服は苦手なんだとさ。


 いや肩が出て体の線まるわかりのハイレグボンデージもたいがい女丸出しだろと思ったが、口には出さなかった。別に喧嘩したいわけじゃない。


 それにそもそもあの着衣は、格闘時に腕や脚の動きを「服が制限しないように」という狙いがあるだろう。あいつは格闘士。敵と組み合うわけで、あらゆるジョブで、もっとも間合いが短い。敵の懐深く入る、リスクの高い戦闘をこなす必要がある。ジョブ特性からしても生きる死ぬの戦いでは、着衣がまとわりつく一瞬の差が命取りだ。


 つまり戦闘時の最大効率を考えた結果、たまたま体の線が丸見えになっただけの話だろう。


 それに加えて、魅力的な女子と見せかけて相手の油断を誘う意図が込められているのかもしれん。ヴェーヌスは賢い。そのくらいの算段はしているはずと、俺は考えている。


 まあたいした問題でもないので、好きにやらせている。旅の途中だ。荷物を増やさずに済むなら、それはそれで助かるからな。洗濯前の服なら、俺も着替えに困らないし。


 ああちなみに、昼寝中のヴェーヌスのブランケットに、よくランも潜り込んでるわ。子猫のように丸まった背中に、なんやかや話し掛けている。もちろん返事は無いけどな。そもそも寝てるし……多分だけど。


 ひそひそ声が途絶えたので御者席から振り返ると、ヴェーヌスの体を後ろから抱いて、ランもすうすう眠ってたりする。なんだか姉妹みたいね――と、マルグレーテが笑っていた。いやあのピリピリしたヴェーヌスに抱き着いて、よく突き飛ばされないもんだわと、俺は感心した。そもそも曲がりなりにもあいつ、俺をいずれ殺す気の「仮の仲間」だからな。


「モーブ、わたくし……」


 マルグレーテが、俺の背中に指を走らせてきた。気配を探るとリーナ先生もラン同様、もうぐっすり眠っている。起こさないよう、リーナ先生の胸からそっと手を抜くと、ブランケットの中で上を向いた。


「おいで」

「ありがと……」


 いつものように右胸に唇を着けてきたので、好きに吸わせた。こうさせてやると落ち着くのか、そのうちマルグレーテも眠るからな。


「モーブ……好き」

「おやすみ、マルグレーテ」


 腕を回して、抱き寄せてやった。夢うつつで、ランが俺とマルグレーテを横抱きにしてくる。


「よしよし。ぐっすり眠れ、ふたりとも」


 四人の体温で、ブランケットの中は心地良いくらい温かかった。

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