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6-3 遺棄クエスト「草薙剣」

「そんな貴重な剣を、なんで捨てるんだ。世のため人のために生かすべきアイテムだろう」

「では全てお話ししましょう。この剣の因果を……。アヴァロン」

「母上」

「いずれ正巫女となる身。あなたが説明しなさい」

「はい」


 頷くと、アヴァロンが話し始めた。


「そもそもこの剣がこの世界に現れたのは、八百三十年ほど前になります」

「現れた? 誰か天才刀匠かなんかが作ったんだろ」

「違います」


 アヴァロンは首を振った。


「この大陸に、ダンノウラと呼ばれる入江があります。ある日、その浜辺に打ち上げられていたとか。漁師の子供が発見したのです」

「そりゃ大騒ぎになったろうな。見るからにパワーを秘めた剣だし」

「鑑定により支配者の剣と判明、太鼓、大陸各地の豪族が所有を巡って争い、大量の血が流れました」


 手にすると世界を支配したくてたまらなくなるんだとさ。手にした豪族は他国に攻め入って暴れ回る。他国が連合を組んでなんとかそいつを滅ぼすと、剣を奪った仲間が今度は暴れ込む。そのため百年以上も混乱が続いたとか。


「この剣には誰かの怨念が込められていると、考えられております。その怨念が、持ち主に戦いを起こさせるのです」


 あれか、人事権を握れる労務担当役員の地位みたいなもんか。それを巡って社畜派閥が争って……とか、よくある話だ。俺のいた企業でも、それで一時大騒ぎになったからなー。底辺社畜の俺は派閥無関係だから巻き込まれなかったけどさ。巻き込む価値すらなかったともいう。


「それである日、とある賢君が声を上げたのです。これは誰の物でもない。所有を巡り争わずに済むよう奥地の神殿に封じ、各勢力侵入禁忌の地としようと。戦役に疲弊していた各国は、その提案を受け入れました」

「それがここ『のぞみの神殿』の縁起えんぎか」

「ええそうです」


 母親カエデと頷き合うと、アヴァロンは続けた。神力に優れたミフネ一族は管理を任され、代々巫女として神剣を祀り保護してきた――と。


「なるほど」

「八百年以上も祀ってきた神剣を、今になってなんで急に捨てるのさ」


 レミリアは首を傾げている。


「もったいないじゃん。争いの原因かなんか知らないけど、アイテム自体は超貴重なのに」

「元々捨てる予定だったのです。ですが……この剣を持つと魂が魅入られて、捨てることができなくなると伝えられています」

「それをモーブに頼むのも、おかしいのでは」


 マルグレーテは首を傾げた。


「誰がやっても同じことですよね」

「それは……たしかに。……母上」


 困ったように、アヴァロンがカエデを見た。


「モーブ様、あなたは……」


 カエデは背筋を伸ばした。


「あなたは、この世界の御方ではありませんね」

「あ……ああ」


 俺が異世界から転生してきたことは、これまで誰にも見破られなかった。アルネとかアドミニストレータは別として。居眠りじいさんこと大賢者ゼニスだってわからなかったからな。なのにあっさり看破するとか……。さすがはこのヤバいアイテムを管理する正巫女。凄まじい霊力だ。


「あなたはこの世界のことわりから外れた御方。ならばこそ、草薙剣の力にも逆らえる可能性があります。この剣を封印する最初にして最後の機会、そうわたくしは判断しました」

「ちょっと待て。モーブがこの世界の男ではないだと」


 ヴェーヌスが大声を上げた。そういやこいつは、まだ俺の正体は知らんかったわ。


「ではあたしのこの気持ちは、相手が異世界の男だからなのか」

「後で説明してやる。今は話を聞こう。……カエデさん、本当にこいつをこの世から消していいのか」

「消す……というより奥深くに封印するのです。ここ神域の、秘められた泉に」

「封印するのか」

「八百余年の時を経て、我ら巫女の務めも終わる時が来た……」


 カエデはほっと息を吐いた。


「モーブ様が成功すれば、我が娘をこの地に封じる未来は消える。母として……心の重荷が取れた思いです」

「そうか……」


 たしかになー。アヴァロン姉妹は、修行が終わるとここで正巫女になる。正巫女と言えば聞こえはいいが、生涯ここで危険な剣のお守りということだ。それが楽しい人生とは、とても言えない。それもあり、それまで世界のあちこちを見聞させているのかもしれない。単調な毎日を乗り越えるための、人生の思い出として。


「では引き受けよう。……アヴァロン三姉妹のためにも」

「ありがとうございます」


 カエデは頭を下げた。


「娘のことまで考えていただけて……。さすがは異世界から降臨された御方と感服、つかまつりました」

「ただ期待しすぎないでください、カエデさん。俺が成功するかは正直わからん」

「大丈夫。モーブならできるよ」


 ランが言い切った。


「だって魔族襲撃から私を救ってくれて、その後も私やマルグレーテちゃん、レミリアちゃんの命も救ってくれたもの。……だから絶対モーブならやれるよ」

「ありがとう、ラン。……リーナ先生」

「なに、モーブくん」

「念のため、この剣を鑑定して下さい」

「わかった。……できるかはわからないけど」


 それでも精一杯、先生は鑑定してくれた。




銘「草薙剣」

レベル不明装備

異世界の神剣

特殊効果:ドラゴンとアンデッドに強ダメージ。強振時に前方火炎斬発動。装備者の心を誘導する。




「うーん……」


 普通にかなり有用な剣だな。ただ最後の一文が異様なだけで。


「よろしくお願い致します」


 カエデは深く頭を下げた。


「では、我が娘アヴァロンに案内させます。深き泉まで……」


 草薙剣を、俺の前に押し出した。


「ただ……、くれぐれもお気をつけ下さい、モーブ様。この剣は世界を統べる神器。手にすると、支配への欲求が沸き起こりますゆえ……」


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