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4-7 幻のアーティファクト「アイギスの盾」

「リーナ先生。いざというとき迅速に着用できるよう、悪いけれど今日からしばらく毎日、日常でも着ていて下さい」

「わかった。モーブくん」


 マルグレーテから「祝福の尼僧エプロン」を受け取ると、恥ずかしそうに袖を通す。


「ど、どうかな」


 無骨な冒険者服をふんわりしたエプロンが包むと、リーナ先生のかわいさがひときわ強調された。柔らかそうな表情を見せるエプロンで、ウエストで絞って固定してあるから、胸がぷっくりしてるし。あの胸、一夜限りとはいえ俺、自分の手で包んだんだからな。思い出しても夢のようだわ。


「かわいいです」

「そうかな」


 いやマジだ。もうこれ女子大の学園祭模擬店に立つ、初々しい新入生ウエイトレスだろ。前世にこんな彼女が居たら、思い残すことなかったのに……。あの頃の現実は、真っ暗闇だったからな。


「良かった」


 アヴァロンも、ほっとした表情だ。


「モーブ様、これから『のぞみの神殿』を目指すのですよね」

「ああそうだ。お前の妹にも言われてるからな。行けば必ず役に立つと」


 なんせ俺達、アルネ・サクヌッセンムの居場所のヒントを探してるしな。それにパーティー強化のための方法も。運営アドミニストレータと戦うために。


「ご一緒にいかがですか、巫女様」


 マルグレーテ、グッジョブ。妹も誘ったけど、あっさり断られたからさあ……。獣人は鼻が利くし、戦闘力もある。冒険にはなにかと役立つ。


「いえマルグレーテさん。ご一緒したいのは山々ですが……」


 ちらと俺の顔を見る。


「今は遠慮しておきましょう。私はまだ、この世界を見て回る義務がありますし。……私も、荷物を整理したら明日にでも旅立ちます」

「残念ね」


 リーナ先生が、溜息をついた。


「ご安心下さい、リーナさん。神殿では、私の姉と母が、モーブ様を待っております」

「そうか……なら仕方ないか」


 残念だけどなーマジで。


「神殿への行き方は、こちらに」


 巫女服の懐から地図を出すと、ランに手渡す。


「場所と、途中の難所をいくつかメモしてあります。なかなか厳しい場所もありますが、モーブ様方なら、このメモだけで突破できるかと」

「わあ……。ありがとう、巫女様」


 ランは喜んでるな。


「ねえ見てモーブ、いいものもらったよ」

「良かったな、ラン」

「モーブ殿」


 背後から声が掛かった。長老だ。


「出発なさるなら、これをお持ち下さい。村を救ってくれた英雄に、お礼として進呈します」


 背後に合図すると、怖々と言った様子で、村人がなにか小さな物体を差し出してきた。鉄色の。


「ど、どうぞ」


 俺に手渡すと、汚らわしいとばかり、手を服で拭った。


「なんですか、これ」


 見た感じ、金属製の指輪だ。重い。繊細な指輪でなく、野太い印象。リング全面に、うねうねとした奇妙な唐草模様が盛り上がっている。ムキムキのバイク乗りとかが喜びそうなデザインだ。よく見ると一箇所、山羊頭やぎとうらしき彫金が施されている。


「これはの、『ファリテオのへそ』に埋まっておった装備じゃ」


 そういや、そんなこと聞いたな。カエルだけじゃなく、装備まで発掘されたと。


「鑑定は済んでおる。銘を『アイギスの盾』という」

「マジっすか!」


 思わず叫んじゃったよ。だって俺は知ってたからな。これも、裏ボス七種のレアドロップ品のひとつじゃん。しかも、扱いがいちばん厄介な奴。


「装備してはならんぞ、モーブ殿。呪われるからな」

「呪われた品なのね……」


 興味深げに、リーナ先生が防具に触れた。


「特に怪しい気配とかは感じないけれど……」


「盾」と名前がついてはいるが防具としての盾ではなく、アクセサリーとしての指輪に分類される。奇妙な装備だ。


「本来は、魔除けの効果を持つアクセサリーらしいのじゃ。その意味で、強力な対魔装備のはず」


 長老が解説してくれた。


「しかしのう、この品には呪いが掛けられており、着用すれば呪われて命が高速に削られていくという。対呪耐性のある魔族程度しか装備は出来ないじゃろう。本来対魔防具なのに……。つまり存在自体が矛盾しておるのじゃ」


 魔族が着用するとどういう効果があるのかは、原作ゲームでも判明していない。魔族が対魔装備ってのも変な話なので、なにか効果が変わるのだろう。でもそもそも、原作ゲームでは魔族は仲間にならないからな。


「かっこいいねー。イカつい模様もあるし」


 レミリアは、つんつんと指輪をつついている。


「あたしに似合いそうなのに……。呪われてるとか残念」


 いやお前に似合うかなー、これ。どちらかというとタルカスのような重戦士とか、ごっつい近衛兵とかに向いていそうだ。


 俺も検索したことがあるが、「アイギス」ってのはギリシャ神話で、主神ゼウスが娘の戦女神アテナに与えた装備らしい。神話上は、盾とも胸当てとも言われるようで、要するに防具だ。このゲームではなぜか指輪状の「盾」という扱いだが……。


 ちなみにアイギスを英語読みするとイージス。「イージス艦」ってのは、神話防具の防御力から取っているらしい。


「本当にいいんですか、頂いて」

「村では使いようがないしのう……」


 長老は苦笑いだ。


「じゃが、どうやら高額で売れるらしいわい。どこぞの街で売却しなされ。お礼の報酬代わりじゃ」

「ありがとうございます」


 アイギスの盾かあ……。


 前世のゲーム知識を、俺は思い返した。


 これ、原作ゲームでも最初から、呪われたアイテムとしてドロップする。


 原作ゲームでは、入手することで、このアイテム所持者だけの限定イベントが起こるとされていた。だが裏ボスレアドロップ品だけに、噂が独り歩きするばかりで、動画での報告など、確固たる証拠のある投稿はない。攻略ウィキ上の公式表記では、追加イベントは不明のままになっている。


 そもそも運営はバグ潰しに忙殺されており、「追加イベントは実装できなかったんじゃないか」とも噂されてたしな。あの運営じゃ、ありそうな話だ。


 ゲーム内では、稀なランダムイベントで解呪依頼が可能とも言われていた。成功すればプレイヤーキャラが装備できるようになるが、失敗確率が九割程度。失敗すればアイテムはロストとかいう噂だ。


 裏ボスレアドロップという「滅多に入手できない品」だけに、運営も好き勝手に設定してるよな。せっかくの貴重アイテムなのに事実上、売るしか使えないって、もったいなさすぎるだろ。


 ちなみに解呪後は、二束三文で買い叩かれるんだと。これはゲーム内約束事としては「呪われているからこその希少価値」で、金持ちが屋敷に飾る需要を満たすということにされている。そら誰も解呪なんかしないよな。


 メタ的に読み解くなら、運営の意図としては「裏ボス討伐のごほうび金」ってところだろう。金ってのも夢がないから、事実上使えないアイテムにして渡してるってことさ。俺はそう判断している。


 いずれにしろこれで、裏ボスレアドロップ品は六種揃うことになる。残りはたったひとつだ。


「では頂いておきます」

「おお。それはよい」


 長老は満面の笑みだ。厄介事の種にしかなりそうもない呪い装備を処分でき、村の恩人への高額報酬ともなった。一石二鳥だもんな。この長老、これだけの規模の村を運営しているだけある。年寄りのくせに、やっぱ頭が回るわ。


「持っていきなされ」


 まあ、別に邪魔ってわけでもないしな。小さいし。こんな貴重なアイテムを売るのももったいないから保管だけしておいて、どうしても金に困ったら、どこかで売却すればいいや。


「さて、では出発しましょうか、モーブくん」


 頃合いを測っていたのか、リーナ先生が口を挟んできた。


「暗い山道は危険よ。明るいうちにどこか道脇の小さな空き地でも見つけて、野営の準備を進めましょう」

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