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3-1 昼下がりの大事件

「はあー、おいしい」


 幸せそうに瞳を閉じると、レミリアはケーキ用の小さなフォークを置いた。ベアトリス丸名物とかいう糖蜜酒漬けフルーツケーキは、もうあらかたなくなっている。


「もうそんなに食べたのかよ。みんなまだ、ふた匙食べたくらいだぞ」

「いいじゃん。お腹いっぱいでも、スイーツはまだまだ食べられるもん。……それに晩ご飯まで、時間もあるし」


 はあ別腹って奴か。目を剥いて睨んでるな。


「ま、まあいいけど」


 あまりの眼力に、思わず引いたわ。エルフって、やっぱ本質的に強いな。……てかエルフに限らず女子のスイッチ、変なとこにあるよなあ。


「モーブったら……」


 呆れたように、マルグレーテが笑う。


「人の楽しみに横槍を入れるものじゃなくってよ」

「そうだよー。ねーっ、マルグレーテちゃん」

「ねーっ」


 マルグレーテとランは例によって共同戦線か。リーナ先生は、静かにお茶を味わっている。


「にしても、寛ぐよなあ……」

「そうね。それはたしかだわね、モーブくん」


 リーナ先生に見つめられた。


「幸せな船旅よね」

「え、ええ……」


 リーナ先生とは結局、あのひと晩だけ。あれからは普通に毎日、ランとマルグレーテが俺の部屋に「通い妻」してくる。声を出さないようしっかり注意して、一応そういうこともしてはいる。


 リーナ先生は聞き耳を立てるようなキャラじゃない。だから、これで大丈夫だとは思う。ただ朝に顔を見ると、なんだか恥ずかしい。毎晩ふたりと寝ているのは当然わかってるだろうし、見透かされるようで。


 先生は、特になにも言わない。ふたりのことも、自分のことも。普通に接してくれるし、人前でべたべたしてくることもない。だからあの一夜は夢だったんじゃないかとすら思えてくる。


「ちょっと名残惜しいわね、船を降りるのが。……いろいろな思い出もあるし」ちら

「そ、そうですね」

「そうそう。いろいろ歩き回って、もうみんな、この船の構造とかもぜーんぶ覚えたしね。自分の家みたいにリラックスできるよ」


 ランの発言で救われた。


「だなー」


 俺達は今、船内のカフェで午後のティータイムを楽しんでいるところだ。


 船旅も、いよいよ後半に入ってきた。あと数日で大陸が見えてきて、一週間で予定の港に入るはず。例の崖縁村救済のため、いろいろな準備も整えた。入港次第、現地で地図や食糧など必要な資材を揃え、そちらに向かうつもりだ。船長に頼んだ魔導通信を通じ、いろいろすでに先行手配をしているしな。


 村を一刻も早く救いたいとはいえ、船が着かない以上、じたばたしても意味ない。厳しい冒険に備え、今のうちに精一杯楽しんでおくつもりだ。


「ああ、ここにおいででしたか、モーブさん」


 カフェの入り口から、獣人アレギウスが顔を覗かせた。一緒に例の幽霊船探索をした、あの狼系獣人だ。


「船長がお呼びです」

「なあに、また幽霊船かしら」くすくす

「いえマルグレーテさん。スイーツ消失事件です」

「あら……」

「なんだかわからないけど、退屈しのぎにはなりそうだよ、モーブ」


 立ち上がるとレミリアは、服に着いたケーキカスをぱんぱんと払った。


「スイーツの食べ過ぎで今日はあたし、もうお腹いっぱい……。だから腹ごなしに、話を聞こうよ」


          ●


「なるほど……」


 ベアトリス丸の船橋デッキで、メグレ船長は俺達を待っていた。


「今の船長のお話だと、二等船室大部屋から、スイーツが大量に消失したってことですね」

「ええモーブ様」


 船長は頷いた。


「お客様の荷物です」

「別にいいじゃん、少しくらい無くなっても。ただのお菓子でしょ、浅ましい」


 レミリアは呑気なもんだ。というかお前さっき、まさにケーキの件でムキになってたじゃんよ、浅ましい。


「いえ、なんでも故郷の子供に頼まれていた、別大陸の稀少スイーツだそうで」

「持ち帰らないと、奥さんに殺されるそうです」


 大真面目な顔で、獣人アレギウスが付け加えた。


「ぷっ」


 リーナ先生が思わず噴いた。


「なら仕方ないわね。捜してあげないと。ねえモーブくん」

「はあ……」


 かかあ殿下対策の捜査かあ……。まあいいか、レミリアじゃないけど、退屈しのぎにはなる。

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