2-8 夜明けの香り
夜明けの光が、微かに俺の寝台に忍び寄ってくる。
信じられなかった。俺の隣に、裸のリーナ先生が眠っているのが。腕枕で唇を俺の胸に寄せ、先生はすうすうと寝息を立てている。
……しちまったか。
後悔はない。先生とはすでに恋愛フラグが立っていた。いずれこうなるのは自明だったから。ただ、航海二日目というのに、こういう関係になるとは思わなかったが……。
ランやマルグレーテの風邪がなかったらおそらく、こうした関係はずっと後になったと思うわ。その意味で、人生には流れとか運命って、やっぱりあるんだな。
「……モーブくん、起きたの」
「はい」
先生は、俺の胸に、ちゅっと唇を着けた。
「ごめんね、昨日」
「謝ることないです。俺のほうこそ」
「ううん。先生、歳上なんだから、自分をコントロールすべきだったわ。でも……心の底が……言うことを聞かなくて」
「俺もです。先生のこと好きだと思う気持ちが、止められなくなった。その……」
抱き寄せると、先生の胸の先が俺の体を押した。
「痛い思いさせてすみませんでした」
「大丈夫。隣は空室。初めてのときの私の声、誰にも聞かれてないよ。それに……」
また唇を寄せてくる。
「痛くても幸せだった。モーブくんに体を触られて、優しくキスされて……。愛おしさが心から溢れちゃった、私」
「俺もです。かわいい先生とこうして抱き合えるなんて、夢のようです」
「ふふっ」
リーナ先生が笑うと、胸が揺れた。
「どうしました」
「ふたりを裸で寝かせちゃダメよとか言ったけど……」
ちゅっと、俺の胸にキスをする。
「今さらわかったわ、ふたりの気持ち。好きな人の肌を感じていたいから、こうして裸で抱き合ったまま眠りたいのよね」
「先生……」
「私も風邪ひきそう」くすくす
「そのときは、俺が看病してあげますよ」
「明るくなったら、ふたりも起きる。もしかしたら、ここに来るかも。モーブくんを起こしに。その前に先生、自分の部屋に戻らないと」
「先生」
「ずっと……こうしていたくなっちゃう。……モーブくんに思うがまま触ってもらって、好きなようにキスしてもらって、そして好きなように……私を……」
ほうっと息を吐いた。
「それはまた今度ね。残念だわ」
体を起こした。
「このことは、まだみんなに言っちゃダメよ」
「はい」
「もしかしたら……いえきっと……いつか言える日が来る」
「俺もそう思います」
「ふふっ。頼もしいのね」
「先生……」
先生はしばらく、俺の好きにさせてくれたよ。
「もう行くわ。最後にキスして、お願い……」
俺は、先生に応えてあげた。




