1-2 まどろみの朝
「……」
なにか、どエロい夢を見ていた。不定形のもやもやした。体を走る快感に、意識が現実に戻ってくる。ふと目を開けると、白い天井が見えた。古い木製で、何回もペンキを塗り直された。大陸間船旅の自室だ。緞帳の隙間から光が射しており、もう朝の雰囲気が部屋に漂っている。
下半身が熱く、むずむずする。
原因はわかっていた。マルグレーテだ。髪がリズミカルに当たっていて、太腿がくすぐったいし。
「ラン……」
幸い、ランはまだ起きていない。俺の隣で、すうすう寝息を立てている。俺やマルグレーテ同様、もちろん素裸だ。
俺の部屋だけ「ふたりで寝られる」件は、危惧するまでもなかった。どう話を着けたのかは知らんが初日の晩から、もう普通にランとマルグレーテがお泊まりに来たからな。枕持参で。
ダブルベッドを三人で使うのはさすがに狭いが、抱き合って眠るんだから、そう厳しい状況でもない。いつぞやの迷いの森でのテント生活のようで楽しいとか、ランなんかはむしろ喜んでるし。
「ラ、ランっ」
ランの体を抱き寄せると胸に顔を埋め、強く抱いた。天国のようなランの匂いが、俺を包む。
「……モーブ」
夢うつつのまま、ランが俺の頭を撫でてくれる。
「……モーブ、起きるの早いね」
「ごめんなラン、起こしちゃったか」
「平気……ふわーあっ……。目が覚めたらモーブがしっかり抱き締めてくれてて、幸せだったよ」
「はあ……」
「なあにモーブ、はあはあ言ってるよ」
くすくすと、ランに笑われた。
「モーブったら、朝はヘンよねえ」
ベッドの足元で、マルグレーテが体を起こした。胸を髪が覆い、微妙で見えそうで見えず、なかなかかわいい。
「きっと、いい夢でも見ていたのよ」
こいつもくすくすしてるわ。はあ勝手にしろ。お前のせいだろうが。
「今日の朝ご飯はなんだろうねー、マルグレーテちゃん」
ベッド脇で、ランが服を身に着け始めた。
「そうねランちゃん。ここの大食堂、好きな品を自分で取っていくスタイルだけれど、そういうのはあまりなかったから、面白いわ」
昨日の晩、俺が荒々しく剥ぎ取ってベッド脇に投げた下着を拾うと、マルグレーテはそれを穿いた。
「ヘクトールの寮食堂もそうだったけどな。まあマルグレーテは俺やランとは違って、貴賓食堂だ。あっちはフルサーブ方式だから、こういうのは初めてか」
ここはよく言えばブッフェ、悪く言えば社食だが、この船の料理はうまかった。いい料理人を抱えているんだろう。少なくともヘクトール一般寮食よりは、はるかにマシだ。
「私、お腹減ったよ。ねーっ、マルグレーテちゃん」
「わたくしは、軽食をもう頂いたし」
「わあ、そうなの」
「ええランちゃん。ちょっと苦いけれど、体にいいのよ。すっきりするし」
意味ありげに俺を見る。まあ……たしかに俺はすっきりした。マルグレーテもそうなんかな。俺の全てが自分のものになったようで幸せだったって、初めて教えたときに言ってたからな。実際そうなのかも。
「さて、ふたりを起こしに行こうか。レミリアの奴なんか今頃、腹減りでイライラしてるぞ、きっと」
「朝食後はわたくし、馬の顔を見てくるわ。心配だし」
「いいねマルグレーテちゃん。私も行く。いなづま丸のお鼻をなでなでしてあげたいしね」




