13-8 「アレなきのこ」の「効果」
食うよ。食えばいいんだろ。この「絶倫茸」とかいうヤバげな奴。
ほっと息をつくと、俺はフォークで茸を突き刺した。ランとマルグレーテ、レミリアの視線が集まる。養護教諭のリーナ先生まで、俺の手元を食い入るように見つめている。
くそっ。女子四人に見つめられながら「絶倫茸」食べるとか、どんな罰ゲームだよ。……どえらく食べにくいわ。
諦めて、口に放り込む。おおーっという溜息が、俺を取り巻く四人から漏れた。
「どう、モーブ」
「ああ、うまいぞマルグレーテ」
「良かった」
いやマジだ。茸だけに、アミノ酸の旨味がある。多分、一度干したことにより、タンパク質が分解して旨味成分になったからだ。しいたけよりうまいじゃんよ。それでいて香りは松茸以上だし。絶倫がどうのとか関係なく、普通に絶品茸だな、これ。おまけにバターの香りが合っていて、最高だわ。
「いいなこれ。味付けも上手だわ、マルグレーテ」
「モーブのために、心を込めて作ったもの」
このバター焼きは、マルグレーテがひとりで作ったものだ。野菜ソテーはランが炒めた。
「うまいな。みんなも食べてくれよ。見られてばかりだと気になる」
「それもそうね。わたくしたちも、冷めちゃう前に頂きましょう」
「そだねー」
みんな、自分の皿に手を付け始めた。長寿草のソテーを食べ、うまい茶を飲んで。ソテーをあらかた食べ終わってからは、果物を口に運ぶ。
「この長寿草効果で、みんな長生きになるんだよね」
フォークに刺した野草を、レミリアがしげしげと眺めた。
「そうみたいだな。どんだけ寿命が延びるのか、聞いとけばよかったな」
倍になるのか、十倍になるのか。それって意味が全然違ってくるじゃん。
「てことはモーブもヒューマンとしては歳を取りにくくなるんだよね。百年後もその姿のままとかで」
レミリアに見つめられた。
「まあ、そういうことになるな」
戦闘で死ぬ分には関係ないけどな。俺の場合、老衰よりそっちで死ぬ確率のがはるかに高そうだわ。
「なら、あたしの気持ちが追いつくかもね、モーブがあんまり歳を取らない前に」
ぼそっと呟く。レミリアの奴と恋愛フラグが立っていたことを、ついこの間わかったばかりだ。そうと知って今の発言を考えると、なかなかに意味深ではある。レミリアの奴、俺に恋愛感情を抱く兆しでも感じてるんかな……。今のところ食い気しか感じないけどな、俺が見る限り。
「あら。おいしいわね、この果物」
「香りもいいねー。蜂蜜のようなこってりした濃厚な香りと甘みがあるよ」
「これで若返り効果があるなんて、最高じゃん」
「いやレミリア、お前まだ十四歳だろ。おまけにエルフは長寿で、これから何百年とその若い姿なんだ。若返り効果なんか、いらんだろ」
「モーブったら、女心わかってないね」
ぷくーっと頬を膨らませた。
「あたしだって、若いままでいたいんだよ」
「ああそうかい」
もうどうでもいいわ。
「私はモーブくんより、ふたつ歳上……」
リーナ先生に見つめられた。
「これでモーブくんに釣り合う女子になれるかしら……」
「いえ先生、今でも充分かわいいですよ。歳上なのにかわいいなんて、最高です」
「そうかな」
嬉しそうだ。
そりゃそうだろ。たしかにモーブの「ガワ」からすれば歳上だけどさ、中身の俺社畜からしたら、かわいい女子大生か女子高生くらいの印象だからな。ずっと歳下の。
「モーブ、茸、全部食べた?」
「ああマルグレーテ。ありがとうな、料理してくれて」
「もっと……その、お皿に残ったオイルも舐めてよ」
「はあ? 貴族の前でそんな犬みたいなことができるか」
「それもそうか、はあ……」
なぜか溜息ついてやがる。
「それで……どうなの、モーブ」
上目遣いだ。
「なにが」
「効果あったの。その……もうしたくなった? わたくしやランちゃんと」
いつの間にか熱い瞳だ。
「今すぐ、寝室に行きたい? わたくしもランちゃんも、念のために朝、シャワーを済ませてあるけれど……」
なんの話だ、これ。リーナ先生やレミリアの目の前でふたり引き連れて寝室に消えるとか、できるかっての。それに……。
「それにさ、いやそんなすぐ効果が出るかよ」
思わず笑っちゃったよ。
「そもそもこれ、媚薬じゃないし。したくなる薬じゃなくて、絶倫になるだけだろ」
いかん。「絶倫」というヤバい単語を、女子四人の前で使っちゃったわ。
「そ、そうだったわね」
恥ずかしそうに顔を赤らめると、マルグレーテはせっせとフォークを口に運び始めた。
「わたくしとしたことが、混乱してしまって……」
傍らに置いた扇子を取り上げると、パタパタと頬を扇ぎ始めた。
「恥ずかしいわ。わたくし、不躾ね」
「先走りすぎだよー、マルグレーテ」
お調子者のレミリアでさえ、呆れ顔だ。
「いっくらモーブのこと大好きだっていっても」
「わ、忘れてちょうだい」
「まあいいから、残り全部食べようぜ。食後はまた旅立ちの準備が待ってるし」
「ええ」
「うん」
「そだねー」
その笑い話で、この話は終わったんだ。
……だが、俺はもうその日の夜から、効果を実感することとなった。リーナ先生は、レミリアと一緒に隣の寝室に寝ている。だからなにもしないつもりだったのに、体の内側から燃えたぎるなにかが湧き上がってきて、一秒たりとも我慢できなくなったからな。
声を出さないように言い含めてから、ランとマルグレーテを組み敷いた。何度も何度も。声を我慢するふたりはかえって刺激的で、俺はどえらく興奮した。それに、全て終えて汗まみれのふたりを抱き寄せて眠るときでさえ、まだまだ元気だったからな。茸効果凄いわ。
この茸、古来から珍重されるわけだわ。だってそうだろ。俺、この後一生、このペースなわけだ。そりゃ権力者もなんとか手に入れようとするだろうさ。
●あと2話で第三部完結。物語は第四部に入ります。
完成して推敲中の第三部残2話は、サポーター限定近況ノート欄にて、先行公開しました。よろしくお願いします。




