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13-7 「例のきのこ」調理

「さて、始めましょうか、ランちゃん」


 いつものカジノリゾート。レジデンシャルスイートのキッチンに立つと、マルグレーテは袖をまくり上げた。


「うん、マルグレーテちゃん」


 ランもマルグレーテも、かわいらしいエプロンを身にまとっている。


「おいしいといいねー」


 ダイニングテーブルに陣取ったレミリアは、舌なめずりせんばかりだ。


「ランちゃん、料理上手だものね」


 リーナさんは、全員分のお茶を、テーブルに並べ始めた。


 別大陸への出発前日。荷造りもあらかた終わり、パーティーは全員、この部屋に集合していた。リーナさんもすでに自室を引き払っている。今晩はこの部屋に泊まる段取りだ。


 あーもちろん、レミリアとふたりで、もうひとつの寝室を使ってもらう。メインベッドルームはランやマルグレーテを抱いたままの俺が眠るからさ。リーナさんやレミリアとも、恋愛フラグがおそらく立っている。だけどまだ、そういう関係じゃあないしな。


 それに今晩は、ランやマルグレーテといろんなことをするのは、さすがになしだ。馬車でさんざんっぱらいちゃつきを見せつけていたレミリアはともかく、教師であるリーナさんが泊まっているのに、エッチなことをするのはなんだか恥ずかしい。ランやマルグレーテの喘ぎ声、下手したら聞かれちゃうし。


「まず、きのこを切って……っと」


 調理台に並んでいるのは、茸に野菜。これは干して乾物にしてある。あと果物。こちらもドライフルーツに事前に加工済みだ。


「切ったら、水に浸けて戻しましょう」

「マルグレーテちゃん、野菜はどうする」

「そっちは出し汁に浸けて、味を染ませようか、ランちゃん。肉と一緒にソテーにしたら、おいしいわよ」

「うん。……マルグレーテちゃん、料理うまくなったねー」

「馬車でランちゃんに教わったからね。ランちゃんの田舎料理、最高だもの」

「えへーっ。ほめられちゃった」


 ふたり和気あいあいと調理を進めているが、使っている食材は、普通のものではない。


 なんせ茸は例の「絶倫茸」。野菜は「長寿草」。果実は「若返りの実」だ。早い話、レミリア借金事件のとき、迷いの森で採取したキーアイテムの残りってことよ。


 魔族が罠を仕掛けたため、現地はここ二十年ほど誰も踏み込んでいなかった。そのためこれらは大量に採れ、人買いボスと約束した分を渡してもまだまだ余ったからな。


 それを干して長期保存しておいたんだわ。いつ使うか決めてなかったから。だが、俺達は明日から船旅に入る。邪魔な荷物は減らしておきたいし、この貴重なアイテムを道中で無くすのも避けたい。


 ――ということで、今日料理して食べることになったんだわ。なぜか知らんが、マルグレーテが強く主張したし。


「はい、できた」


 全員の皿に料理が並んだ。女性陣の皿には、長寿草と肉のソテー、それに若返りの実のドライフルーツ。俺の皿にはソテーと、茸のバター焼き。


 微妙に内容が違うのには当然、理由がある。若返りの実は、女性限定で若返りの効果があるから、俺が食べても意味がない。長寿草は男女関係なく寿命延長効果があるから、全員の皿に並んでいるわけさ。


 んで絶倫茸は、名前のとおりの効果で、もちろん男限定の機能だ。


「さあモーブ、召し上がれ」


 茸てんこ盛りの皿を前にした俺を、四人がじっと見つめている。


 リーナ先生も、効果は知っている。ランがのほほんと教えてたしな。ランはあんまり気にしないんであっけらかんとしたもんだが、聞いたリーナさんは絶句して顔を赤くしてたわ。そりゃそうだ、なんせ絶倫効果だからな。


「早く食べなよ、モーブ」


 ランはあっさりしたもんだわ。いや、女子四人に見つめられて絶倫効果のある料理食べるってのは、かなり恥ずかしいぞ。


「なんでフォーク持たないのさ」


 レミリアの奴、にやにやしてやがる。趣味の悪い野郎だ。


「うるさい。文句言うなら、お前が食えよ。マルグレーテとかも。ほら」


 ふたりに向け、皿を突き出してやった。


「いやあよ」


 マルグレーテが顔を背ける。


「わたくし、絶倫になんかなりたくないし」


 マルグレーテ、普通に「絶倫」とかいう単語を口にできるようになってるな。恥ずかしがりの貴族娘だったのに、変われば変わるもんだ。まあ俺達、気心の知れた仲間しかいないってのもあるだろうけどさ。


「なら捨てるか」

「ダメよ」


 手を伸ばすと、俺の手に手を重ねてきた。


「だってモーブにはふたりの連れ合いがいるでしょ」

「ああ」

「ならモーブが絶倫になったら……、わたくしとランちゃんは……その……」


 赤くなってやがる。なんだよこいつ、意外にむっつりなとこあるな。


「ほら、嬉しいでしょ、モーブ」


 勝ち誇ったように、レミリアが腕を組んだ。


「これでランやマルグレーテと、これまで以上にイチャイチャできるし」

「いや、関係ねえし」

「嘘だあ。だって馬車でも三人裸で毛布にくるまって、隙があればキスしてたじゃん。ながーい間。これ食べれば、もっともっとできるよ」

「あら……」


 呆れたような瞳で、リーナ先生に見つめられた。すんません先生、別に見せつけてたわけじゃないんです。レミリアが勝手に覗いてただけで……。それにキスしてただけで、アレはしてません。その……レミリアのいる馬車の中では。


「ほら、食べなよ」

「そうよモーブ。それとも、わたくしやランちゃんが作った料理は、食べられないのかしら」

「ええーっ。私、悲しいな」


 責めるような三人の瞳に見られた。


 くそっ。もう知らんぞ。


 食うわ。食えばいいんだろ。……でも知らないぞ、今後どうなっても。マルグレーテ、お前、覚悟してるんだろうな……。


 腹を括ると、俺はフォークを手に取った。


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