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13-5 リーナ先生をパーティーに迎え入れる

「いらっしゃい、モーブくん」


 扉を開けると、リーナさんが微笑んだ。


「入って」

「おじゃまします」


 カジノリゾート、リーナさんの部屋は、こじんまりとしていた。小部屋ひとつのスタジオタイプで、小テーブルと、シングルベッドひとつ。狭いが西向きでビーチが見える、いい部屋だ。夕暮れは夕陽が見事だろう。


 今は昼前。リーナさんは、薄手のシャツに白衣を着ていた。


「白衣なんですか。リゾートホテルの自室で」

「うん。……なんだかこれ着ると落ち着くんだー」


 両腕をぐっと広げてみせると、胸が白衣を押し上げた。


「さすがはヘクトール養護教諭。慣れ親しんだ服がいいんですね」

「まあね。……お茶飲んで」

「はい」


 俺のカップに注いでくれた。軽やかな香りが、部屋に広がる。


「ランちゃんたちは一緒じゃないの」

「ええ。旅立ちに向け、買い出し担当として市場に赴いてます。ランとマルグレーテのふたりで充分なんですが、食べ物ならあたしも決める――とかレミリアが言い張ってですね」


 思い出して、思わず苦笑いしちゃったよ。


「もう奉行ですよ。仕切り奉行。あいつ食いもんについては鬼でして。きっと前世で相当飢えをこじらせたとかじゃないかと」

「エルフにしては珍しいわね。エルフってこう……ストイックな人が多いんだけれど」


 首を傾げると、リーナさんの髪が流れた。


「ハーフエルフのアイヴァン学園長見てても、わかるでしょ」

「はあ。俺、エルフに会ったのレミリアが初めてなんで、こんなもんかと思ってました」


 そういや原作ゲームのレミリアは、頼りになるクールなロリ枠だった。その意味で、リーナさんの言うエルフの特徴に合致している。


「この世界」に登場したレミリアだけが、改変されてるんだな。多分だけど……未発売の幻に終わった「原作ゲームR18版」設定の性格になっているんだろう。それしか理由は思いつかないし。


「買い出しに、装備の調整かあ……。忙しいでしょう、モーブくん」

「ええ、ここ数日はもう、目の回るくらいで」


 実際そうだ。


 別大陸に渡る船の客室を押さえ、手持ちのアイテムをあらかた売却して、その費用に。余った分はもちろん、向こうでの活動資金だ。次の大陸にどんな危険が潜んでいるかわからない。身軽でいたほうがリスクは少ないからな。


 もちろん、向こうでは馬車で移動する。持ち込む機材も多いし、距離を稼ぐ旅に歩きなんて無理だからな。


 そのために船に馬車と馬を積むが、場所を取る上に馬の餌だの世話だのがあり、想定以上にコストが高くついた。羽持ちだったいかづち丸とかとぼけたスレイプニールとか、置いていくのは嫌だしな。言ってみれば俺の仲間だ。全馬ちゃんと同行させることにした。


 なので手持ちはかなり減った。向こうの大陸でも、金貨の価値はそう変わらないという。ただし額面ではなく、金地金価格でだ。なので極力混ぜものの少ない金貨に換金したが、その分レートが悪いし。


「それでモーブくん、話ってなんなの」

「はい、先生……」


 湯気を立てる茶のカップを両手で覆いながら、リーナさんは、俺の話を待っている。常夏のポルト・プレイザーとはいえ、客室は魔導冷房があるので快適な温度だ。


「正式に申し込みに来ました。リーナ先生、俺と一緒にもうひとつの大陸に渡って下さい」

「そう……」


 改めて椅子に背をもたせると、リーナさんは俺を見つめた。


「モーブくんのパーティーメンバーとして」

「はい、そうです」

「ゼニス先生は、参加しないしね」

「ええまあ……」


 どうしてもこの大陸で用があるとして、居眠りじいさんは言い張ったからな。カフェの女の子と今度こそ温泉旅行とか冗談めかして言っていたけど、ここでなにかやることがあるみたいだったわ。


 じいさん、腐っても大賢者ゼニスだからな。何度も俺のこと助けてくれてるし、魔法の実力はこの大陸ナンバーワンとかだろ。老けたとはいえ、大戦の英雄だし。なのでなんか考えるところがあるんだろうさ。俺みたいな底辺転生社畜とは別次元のなにかを。


 なので俺は納得してる。俺に見えない世界で、彼は彼なりに戦ってるんだろうさ。……まあ女子との温泉旅行も、マジで考えてるだろうけど。


「モーブくん……」


 テーブル越しに手を伸ばしてくると、俺の手に自分の手を重ねた。


「もちろんよ。その言葉を待っていたわ」


 微笑んでくれた。


「私は十九歳。モーブくんよりふたつ歳上だけれど、モーブくん、あなたがリーダーよ。私はなんでも従うわ」

「ありがとうございます、先生」

「もう……私は先生じゃないのよ。卒業のときに言ったでしょ。次に会うときは私達、教師と学生の関係じゃないわよ……って」

「俺にとっては、リーナさんはいつまでも先生です」

「あら、それ牽制かしら」


 ふざけるように、片方の眉を上げてみせた。


「いえ、そうじゃなくて……いつまでも憧れの……」

「私にとっても同じよ……」


 中腰になると、乗り出してきた。髪がテーブルに流れるのも構わず。


「モーブくんは……いつまでも大好きな……男の子」


 リーナ先生の唇が動いた。


「歳下の……かわいい……」

「先生……俺……」

「黙って……」


 懐かしい、リーナ先生の香りがした。唇が触れ合う。試しに舌を当てると、わずかに唇が開いた。俺を受け入れるかのように。

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