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13-4 ネコミミ獣人アヴァロンの巫女姿

「モーブ様……」


 ホテル部屋の扉を開けると、廊下に獣人の娘が立っていた。俺は素っ裸で、慌てて備え付けのタオルローブを羽織っただけだ。


「お休みのところ、申し訳ありません」


 頭を下げた。


 実際、まだ早い。朝も交わったランとマルグレーテは、裸のまま抱き合って夢の中。レミリアも起きてきてはいない。そろそろ「お腹減ったー」とか言いながらもうひとつの寝室から顔を出してくる頃合いではある。


「あんたはたしか……」


 カジノで働いていた獣人は全員、かわいいバニー姿だった。目の前に立つこの娘は、白装束に赤袴の和風巫女姿。なので一瞬、誰だかわからなかった。でもたしかに顔に見覚えがある。それに巫女姿ってことは……。


「アヴァロンだな。アヴァロン・ミフネ」


 カジノ地下の交換カウンターにいた娘だ。マルグレーテ用に「従属のカラー」を交換してもらったし、ビーチバレー大会で獣人チームを率いていて会話を交わしたから、よく覚えている。


「名前を覚えて頂けて、幸せです」


 微笑むと、ネコミミがぴくりと動いた。袴の上に出た長い尻尾も、うれしそうに揺れている。


 種族はケットシー。別大陸の超秘境『のぞみの神殿』にしか棲息しない一族で、代々巫女として神殿を守っているとかなんとか。たしかこの娘は末っ子で、母親の啓示を受けて、この大陸に来てたんじゃなかったか……。


「それで……なんか用か。あのマネジャーの言いつけとか」

「いえ……。仕事ならそれ用の服で参ります」


 それもそうか。てかあの露出ヤバいバニー服で部屋来られたら、自分が危ないわ。


「巫女服で来たのには理由があります」


 俺の目を、じっと見つめてきた。猫目が澄んでいてきれいだ。


「モーブ様は船に乗られるのですね」

「ああ。もうひとつの大陸に行く」


 原作ゲームでは「新大陸」とも「旧大陸」とも呼ばれる謎の地。自分が勇者の末裔と知った主人公ブレイズが、中盤以降に訪れる場所だ。


「目的はなんですか」

「それは……」


 一瞬、迷った。無関係のバニーに言ってもそれこそ意味はない。だが反面、教えても害がないのも確かだ。なんせ獣人はそれこそアルネとも魔王とも無関係だから。


「とある賢者を探している。アルネ・サクヌッセンムという。古代から存在している不老不死の大賢者だ」

「どこにいるのか、おわかりですか」

「正直、わからない。『時の琥珀』とかいう次元のはざまにいるとかなんとか。だからあっちでは、まずそのあたりの情報収集からだ」


 俺は裏ボスレアドロップ品のアーティファクト「冥王の剣」を持っている。アルネによれば、それが俺を奴のところに導いてくれるらしい。よくわからんが、戦闘によってなにかが見えてくるとか、そんな感じなんだろう。だから新大陸に行けば、情報も得られるのではないかと考えている。


「でしたら、『のぞみの神殿』を訪れなさい」

「あんたの故郷か」

「ええ。そこで神託がモーブ様に下るでしょう」

「そうか。……あんたの一族、巫女だもんな」


 アヴァロンは、カジノの交換カウンターで指が触れ合ったときに、なにか運命を感得したって言ってた。あのとき、驚いたように手を引っ込め、まじまじと俺の顔を見つめてきたからな。あれも巫女の力だったんだろう。


 実際、巫女がこう言ってくれてるんだ、行ってみるか。どうせ当てはないんだし。なに、急ぐ旅じゃない。居眠りじいさんが言っていたように、俺はこれまでどおり遊びながら旅すればいいんだ。人生、楽しんでなんぼだろ。嫁ふたり連れての新婚旅行だ。それにリーナさんやレミリアもいるし。楽しくないわけはない。


「巫女が言うなら、従うよ。一直線に向かうかはわからんけどな。俺は風任せだ」

「ええ、わかっております……」


 微笑んだ。


「モーブ様との旅路は楽しいでしょうね。……本当は、私もここから同行したいの」


 俺の手を取った。


「ですが私はこの地を離れられない。母から託された役割があるので。……なので向こうでは、私の姉に託します。この気持ちを」

「姐さんか……」

「すぐわかりますよ。私と全く同じ姿なので」

「変わった一族だな」

「私は三つ子です」

「ああ、そういう……」


 ならまあ同じ顔でも納得か。猫だと同時に生まれた子猫でも、柄は色々なんだけどな。まあアヴァロンは猫じゃなくて獣人ケットシーだ。三つ子の顔がそっくりということはやはり、人間に近いんだろう。


「代々、三つ子が生まれるのです。そして……」


 意味ありげに、俺を見つめてきた。


「そして……なんだよ」

「いえ、たいした話ではありません」


 握ったままの手に一度力を入れると、そっと離した。


「行けばわかります。なにもかも」

「はあ……」


 なんやらわからん。まあいいか。


「早朝にすみませんでした。どうしてもモーブ様とふたりっきりでお話をしたかったので」

「いや、いいんだ。寝てただけだから」

「そう……ですよね」


 俺の背後にちらと視線を飛ばすと、くすくす笑う。


「たくましい殿方ですのね、モーブ様は」

「あっ……」


 獣人は嗅覚や聴覚が発達している。これ気づかれてるな。俺がつい今さっきまでランやマルグレーテとあれこれしてたの。


「もうじき、おふたりとも起きていらっしゃいますよ」

「そうか」

「ええ。覚醒の香りがします。女子が幸せに満足している匂いも」


 そこまで見破られるのか。こりゃなんだなー、下手すると回数まで把握されてそう。……獣人すげーわ。


「レミリアのことはわかるか」

「ええ」


 あっさり頷いた。


「レミリア様は、キッチンでなにかをお食べになっていますね。果物です」


 俺は舌を巻いた。


「あんた、ここから俺のパーティーに入らないか。その力、発揮してほしいわ」


 思わずオファーしちゃったわ。だってそうだろ。この嗅覚や聴覚、レーダーみたいなもんじゃん。パーティーにひとりいれば、フィールド探索やダンジョン攻略が、とてつもなく有利になるのは見えてるからな。


 たしかにひとり食い扶持が増えることにはなるが、これまで稼いだ金を使えばいい。


 それにアーティファクト「狂飆きょうひょうエンリルの護り」効果で、俺にはレアドロップ固定スキルがある。ちょっと野山で雑魚狩りすれば、万一手持ちが足りなくなっても、女ひとり増えた分くらい、充分賄えるだろ。


「そうしようや。アヴァロン、俺の仲間になってくれ」

「うれしいです、モーブ様にそう言っていただけて」


 じっと見つめられた。気のせいか、瞳が潤んでいる。


「ですがそれは、姉に託しましょう」

「あんたの姉さんが同行を飲んでくれるとは限らんからなあ……。なんせ初対面だし」

「大丈夫ですよ。……でも、モーブ様に会いに来てよかった。そのお言葉を励みに、こちらで巫女の修行に励みましょう。いつか、姉と一体になれる日まで。それが私達、『のぞみの神殿』巫女の宿命なのですよ、モーブ様」

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