13-3 早朝
「……」
俺の意識は、眠りの世界から現実に帰還した。
くすぐったい。
見ると、寝室の緞帳から漏れる朝の光の中、マルグレーテが一心に俺の胸を吸っていた。
「……マルグレーテ」
「あら」
顔を起こした。
「起こしちゃった? ごめんなさいね」
「いいんだ。お前、好きだからな」
「うん……」
また熱心に胸に戻る。
ランはぐっすり眠っている。昨日、俺が転生者だとみんなの前で告白した。いろいろ不安だったんだろう。寝台に入ると、ランは俺の体を求めてきた。何度も何度も。俺は応えてやったよ。ランが不安を吹っ飛ばせるように。開発が進み、ランもマルグレーテも最後までいけるようになっている。すっかり疲れ切ると、ランはそのままぐったり、すうすうと寝入ってしまった。
ランを落ち着かせないとならないのはわかっていた。だからもちろん、レミリアにはいつもの小寝室に下がってもらった。今頃あっちでホールケーキ丸食いの夢でも見て、枕によだれを垂らしているはずさ。
「ランちゃんなら、当分目覚めないわよ」
マルグレーテはくすくす笑った。
「モーブったら、昨日はランちゃんつきっきりだったし。ランちゃんもう、へとへとでしょ。……わたくし、なんだかヤキモチ焼いちゃった」
もちろん、俺もふたりも裸のままだ。さんざっぱらいちゃついた、その姿のまま眠りについたしな。
「ごめんな、マルグレーテ」
「いいの。ランちゃんの不安な気持ち、痛いほどわかるもの。モーブとは幼なじみだった。それだけに中身がすり替わっていたのは、ショックでしょ。わたくしは知り合ったのが、ヘクトール入学のときでしょ。そのときはもうこのモーブだったから、それほどでもないのよ。でもランちゃんはね……」
「だよなー」
「優しくしてあげないとダメよ、モーブ」
「お前にも優しくしてやるからな、マルグレーテ」
「もちろんよ」
くすくす笑っている。
「ほら……」
俺は体を起こした。
「指貸せ」
「なに?」
戸惑ってるな。マルグレーテの柔らかな手を取ると、人差し指を、俺は口に含んだ。唇で挟み、ゆっくり先を出し入れする。
「なあに? 甘えてるの、モーブ」
戸惑ったような表情だ。
「お前の番だ」
人差し指を突き出すと、マルグレーテは唇で受け入れた。
「ヘンな遊びね」
「奥まで入れなくていい。先だけでいいんだ。唇で挟んで、舌も使え」
指を舐めながら、頷いた。
「……ほ、ほんなはんり?」
「うまいぞ。でも歯は立てるな。そうそう。たまに奥まで入れて。いいぞ。それでまた先だけな」
マルグレーテは、夢中になって指を吸っている。基本、俺の胸を吸ったり舐めたりが好きだからな。だから嫌がってはいない。
多分、赤ちゃんの頃、満足するまで母親の乳を吸わせてもらえなかったからだ。唇に欲求不満が残っているのさ。精神科医フロイト言うところの「口唇期」って奴。
「よし、次はこれな」
人差し指と中指、薬指を重ねるように突き出す。
「う、うん……」
小さな口を精一杯開けると、なんとか入れる。
「んっ……んっ……」
マルグレーテの口の中は、しっとりと濡れている。小さな舌がちろちろと動いて、俺の指の腹をかわいらしく刺激してくる。
「太いけど、歯を立てないようにな」
唇は、天国のように柔らかい。俺の指を何度も受け入れているうちに、唇も口内も、これ以上ないほどに熱くなってきた。
「んっ……んんんっ……んっ」
瞳を閉じ、夢中になって指を吸っている。
「最後になるとひときわ硬くなるから、わかるはず。そうしたら先だけでなく、喉の奥まで含むんだ。すぐ始まるから、驚くなよ」
「んっ……なんの話」
「ほら、続けて」
「はい」
また口に含む。
「よし、もういいぞ」
「ん……んん」
頷くと、口を離した。
「指三本だと、太いから難しいわね」
なんとなく、唇の赤みが増している。そりゃあな。これだけていねいに舐めていたら、そうなるわ。
「慣れるよ。……マルグレーテはきっと、これが大好きになる」
「こんな遊びが? そうかしら」
困ったように微笑んだ。
「そうは思えないけれど……」
俺には奇妙な確信があった。なんせ口唇期マルグレーテだからな。
「ほら、本番だよ」
抱き寄せたまま、俺は仰向けに寝転んだ。マルグレーテの長い髪が、ざっと俺の胸に流れる。
「なあに、また後ろからしたいの? でもそれなら、モーブが起きないと」
マルグレーテ、お尻を見られて恥ずかしいと言いながらも、実はそれが好きだからな。ちょっと乱暴にされるくらいが、どうやら好みみたいだし。
「さっきのは練習だよ」
「練習? どういう意味? ……あっ」
眉を寄せたが、なにか気づいたかのように黙った。俺の上に四つん這いになったまま、のろのろと頭を垂れ、俺の下半身を見る。
「……」
顔を起こすと、俺の目を見た。俺がなにも言わないのを見て取ると、また下半身を見る。
「……モーブ」
そのまま、マルグレーテはベッドをにじり下がった。
●
「いけない人ね、モーブ」
俺の胸に頭を預け、マルグレーテは溜息を漏らした。
「悪い男。……貴族のわたくしに、こんなことを覚えさせて」
俺の胸の先を、指で転がし遊んでいる。
「嫌だったか」
「いえ……」
胸に、ちゅっとキスしてくる。
「なんだか……幸せだった。モーブが全て、わたくしのものになったみたいで」
「そうか。いつでも好きにしていいぞ。ランとマルグレーテなら」
「ふふっ」
笑うと、俺をくすぐるかのように、胸の先が揺れた。
「ありがとうモーブ。わたくしの……お婿さん」
「わあ、ふたりでなんの話」
ランが体を起こした。
「起きたか、ラン」
「うん。……昨日はごめんねモーブ。私……なんだか動揺してて」
「いいんだよ。俺はランとマルグレーテを離しやしない。だから安心しろ。守ってやるから」
「うん……」
体を起こすと、俺の胸に口を着けた。ちゅっと音を立てて。
「へへーっ。マルグレーテちゃんの真似」
「ならわたくしも」
左右から、ふたりに胸を嬲られた。
「じゃあねえ……次は、モーブの番」
「俺の?」
「うん」
ランは頷いた。
「モーブって、私やマルグレーテちゃんの胸、大好きだよね」
「久しぶりにあれする? ランちゃん」
「そうだね。モーブ好きだし。ねーっ」
「ねーっ」
ふたり意気投合すると寝転がり、抱き合うようにしてぴったりくっついた。
「はいモーブ」
「好きなだけ、どうぞ」
いつぞやのように、胸を合わせてくれている。
「ふたりともかわいいぞ」
ふたつの胸に、俺は溺れた。魂の底から満足するまで。途中、静かになったので頭を上げると、ランとマルグレーテは唇を合わせていた。瞳を閉じて。




