13-1 告白
「モーブ……」
ランに手を握られた。
ここは海岸歓楽都市ポルト・プレイザー。カジノリゾートでマネジャーに頼み、例のレジデンシャルスイートをまた数日押さえてもらった。もちろん、アドミニストレータで露呈した俺の本当の正体について、みんなに説明するために。
俺達は今、大きなテーブルを取り囲んでいる。全員の前には湯気を立てる茶のカップ。脇にはケーキやクッキーなどがたくさん置かれている。
「ラン、大丈夫だよ」
「うん……」
ランは俺にべったりくっついている。不安なのだろう。
俺の左隣は、エルフのレミリア。大好きなケーキをぱくぱく口に運びながらも、ちらちらと俺を気にしている。
マルグレーテは俺の向かい。背を伸ばし膝に手を置いて、俺の告白をきちんと受け止める構え。その隣にリーナさんとゼニス。みんな、俺の言葉を待っている。
「どこから話したらいいか……」
俺は切り出した。
「俺が何者かという話と、この世界の謎、そのふたつの件は、実は絡み合っているんだ」
「まず、モーブのことを教えて」
「ああラン。わかった」
深呼吸して息を整えると、俺は告白を始めた。
「俺はこの世界の人間じゃない。別世界から転生してきた」
予想をはるかに超える事実に、テーブルは沈黙に包まれた。
「うそだよ」
かろうじて、ランが言葉を絞り出した。
「だってモーブは、私やブレイズと一緒に育ったもの。ふるさとの村で」
「その村に、赤ちゃんとして転生してきたんでしょ。輪廻転生して」
「いやマルグレーテ、そうじゃない。俺は『モーブ』の中に転生してきた。ちょうどあの村がガーゴイルに襲われた日に。わけのわからないまま、俺はランと水車小屋に隠れて生き延びた。まあ言ってみれば、中途入社で大混乱ってところだ」
俺の冗談には、誰も笑わない。シリアスなシーンだし、そもそも中途入社ったって、なんのことかわからないだろうしな。
「そういえば……」
誰に言うでもなく、ランが口にした。
「モーブ……、あのときからなんだか急に大人になった。たくましくて……」
「俺は別世界の男だ。ある日急死して、気がついたらモーブの中にいた」
「うそ……。モーブ……って、モーブじゃないの?」
ランの瞳から涙が溢れた。
「それなら、私が好きだったモーブは……もういないの? どうしたらいいの、私の気持ちは」
「落ち着いて、ランちゃん」
身を乗り出したマルグレーテが、ランの手を握った。
「ランちゃんが好きになったのは、モーブに命を助けてもらったからでしょ」
「う……うん」
頷いた。
「なら大丈夫。ランちゃんの命を救ったモーブは、ここにいるモーブだもの。そうでしょ、モーブ」
「ああ。あのときはもう俺がモーブだった」
「だからランちゃんの恋人は、最初からこのモーブだったのよ」
「そう……だよね。うん……そう……だよね」
涙を拭うと、ランはまた俺の腕を抱え込んだ。
「でも……モーブって別世界の人だったんだよね、それまで」
「そうだよ、ラン」
「ならどうして、『モーブ』になった瞬間から、しっかり判断して動けていたの。村のみんなにガーゴイル襲来を伝え、私を水車小屋に隠して」
「たしかに不思議だよね」
ケーキのフォークを置くと、レミリアは口を拭った。
「いきなり知らない世界でしょ。普通は右も左もわからなくて、右往左往するはずだもん」
「そこがポイントなんだ」
俺は仲間を見回した。ここから先は、俺が転生者でどうのこうのより、よっぽど全員に衝撃を与える事実だ。全員、落ち着いていることを確認してから、俺は続けた。
「ゲームってわかるか」
「すごろくとか、そういうもののこと? モーブくん」
「ええリーナさん。そんなような」
「それがどうしたのじゃ」
居眠りじいさんこと大賢者ゼニスは、髭をさすっている。
「俺が元いた世界にも、ゲームがある。ただのすごろくとはちょっと違っていて、もっと複雑な奴だ」
「どう複雑なのじゃ」
「世界が作ってあって、その主人公を操って冒険するんだ。敵は魔王、主人公は冒険者。冒険の舞台は、始まりの村、ヘクトール、そしてこの大陸……」
「それって……」
マルグレーテが目を見開いた。
「そう、この世界だ」
「なにそれ、わけわかんない」
呆れたように、レミリアが椅子の背もたれにもたれかかった。
「それじゃ、ここと全く同じじゃん。外にも同じ世界があるっての、モーブ」
「というか、ここがそのゲーム世界なんだ」
「……」
全員黙り込んだ。ややあって、じいさんが口を開く。
「どういうことじゃ」
「ゼニス先生、俺はその世界で暮らしていたんです。冒険者でもなんでもない。ただの社畜――つまり生活者として」
「庶民だったということじゃな」
「そのゲームを楽しんでいる、まさにそのとき、俺は死んだんだ。突然の病気で」
「そんな……」
俺が死んだと聞いて、ランが絶句した。




