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11-10 魔王の影

「魔王ですって!?」


 マルグレーテが目を見開いた。


「勝てるわけないじゃないの。正規軍の大軍勢とか、歴戦の勇者パーティーだって大苦戦する上に、倒せたら奇跡なのに」

「しかもアドミニストレータまでいるんでしょ」


 ランも眉を寄せている。


「アドミニストレータってなに、モーブ」


 レミリアに見つめられた。奴と遭遇したことがあるのは、俺とラン、マルグレーテ。それに卒業試験ダンジョンを共にしたリーナさんだけだし。じいさんは名前とヤバさくらいは知ってたけどな。レミリアは、アドミニストレータなんて知らんわ。


「中ボスだよ。二度ほど戦ったことがある。色々な姿を取ることのできる嫌な野郎で。何度倒しても、なぜか俺を目の敵にして追いかけてくる」

「なにそれ。ヤバ中のヤバじゃん、そいつ。パワー系ストーカーでしょ」

「強敵よ。毎回、苦戦するもの」


 マルグレーテも唸っている。


「そうだよ。二度目に戦ったときなんかモーブ、首を……刎ねられちゃって」

「うそっ!」


 ランの言葉に、レミリアが跳び上がった。


「嘘でしょ。死んじゃうじゃん、それだと。……それにモーブの首筋に、切り取り線の痕とかないもん」


 いやレミリア、そこはせめて「傷跡」とか言えや。なんだよ切り取り線って。


「ランの回復魔法で助かったんだよ。なっラン」

「えっ……う、うん」


 もごもごと、口の中でなにか呟いた。


 本当は、ランの「羽持ちの力」で時間を戻して二周目で勝ったんだけどな。ランが羽持ちであることは、まだ秘密にしておきたい。それがランのためだし。


「そんな……。復活魔法、もうランちゃん会得しているの。究極じゃない、あれ」

「いやリーナさん、たまたまあのときはアイテムと回復魔法の相乗効果で。それよりアドミニストレータと魔王って、マジなんですか、ゼニス先生」


 とっとと話題を変えないと。それに実際、今はランの力がどうとかより、ヤバい敵ボス案件のほうが、よっぽど重要だ。


「そうじゃ」

「魔王はともかく、なぜアドミニストレータと判断したんですか」

「魔王が奴をそう呼んでおった。アドミニストレータと」

「なるほど……」


 ならまあ間違いはないだろう。……というか、たとえ違っていても、そのつもりで気を引き締めておいたほうがいい。


「アドミニストレータの姿だが、こいつはモーブ、お前が集めた情報の『気味の悪い人間みたいなおっさん』という奴よ。わしも魂となって探り見たが、なんというかメガネの冴えない中年といった姿。あれはモテんのう、ほっほっ」

「ゼニス先生、そいつは魔道士系の姿ですの? パワー系には思えませんけれど」

「いやマルグレーテ、それはわからん。魔道士系の力は感じんかったわい。……ただ防具も武器も持っておらん。身長にしてもモーブより小さいくらい。強大なパワーを持つアドミニストレータとは、正直、わしも思えんかった」

「油断はできないよ。魔道士じゃないとしたら、呪術師かも」


 ランは眉を寄せた。


「どうする、モーブ」

「そうだな……」


 考えた。みんなは知らないが、アドミニストレータはおそらく「運営」だ。それだけに姿も能力も変幻自在。おまけにゲーム内容に小細工を入れるとかして挑戦してくる。正直、対策などはない。


「本当にアドミニストレータだとしたら、出たとこ勝負で、敵の属性や能力を見切って戦略を考えるしかないだろう。魔王のほうはどうです、ゼニス先生」

「うむ。変な話、こちらはまだマシじゃ。魔王とは言っても、魔王の影だからの」

「影……。それってなんです」

「分身のようなものよ。ここに奴の影がおるについては、わしはこう考えておる」


 じいさんの推察はこうだった。


 魔王自体はそうそうあちこち飛び回るわけにもいかない。ましてやこの村での作業は秘密裏に行われているし。そんなところに魔王が顔を出したら大騒ぎだ。それに人間側と総力戦ってわけでもない。


 とはいえ、どうやらこれはアドミニストレータ絡みの案件だ。部下だけに任せるわけにはいかない。だからこそ「影」を生み出し、派遣したのではないか。それに影とはいえ自分自身だ。ここで起こることを全て自身で把握できるのは、とてつもない利点だろう。


「部下づてでは、おべんちゃらと隠蔽で、真実なんかわかりゃせんじゃろう。為政者の悩みどころは、魔族でも人間でも変わらんということじゃ」

「なるほど」


 社畜あるあるだよな、これも。炎上案件抱え込んで上に報告しないでいて、いよいよどうしようもなくなってから泣きついてくる奴とか。酷いときには、そのケツがこっちに回ってきたりするからな。青い顔して年末年始、他人の火消しに追いまくられたの、いい思い出……のわけないだろ。今思い出しても腹が立つわ。


「いずれにしろ、相手は『影』じゃ。魔王の技は使ってくるが、威力は本物にはるかに劣る」

「といっても、魔王でしょ。劣る威力が、他の中ボス以上とか、普通にありそうだよね」

「そこはランの言うとおりじゃな、ほっほっ」

「笑ってる場合じゃないっしょ」


 レミリアは呆れ顔だ。


「魔王すら弱みを握られている謎の強おっさんと、影とは言え魔王。あたしたち、そいつら相手にするんだからね」

「いずれにしろ、やるしかない」


 俺は決断した。


「敵の目標達成は近い。その後では向こうに先手を取られるからな。最悪、達成の瞬間に村人全員虐殺し、証拠隠滅のため、この村を徹底的に破壊するかも」

「ありうるわね」

「今晩は各人、この情報を反芻しよう。決行は明日の深夜だ。だから今晩はよく寝ておけ」

「そうね」

「わかった」

「ちょっと待って!」


 手を振って、マルグレーテが俺を止めた。


「敵ボスは二体。まずアドミニストレータ。これは魔族じゃない。謎の存在よ」

「ああそうだ」

「もう一体が魔王の影。……つまり魔族」

「なにかあるの、マルグレーテちゃん」

「だってランちゃん、ボスに向かって、カーミラ――ヴェーヌスでもいいけど――は、『父上』と呼びかけたんでしょ。魔族のほうに。つまり――」

「つまり、カーミラは魔王の娘なんだねっ」

「そういやそうだ」


 超強力ボスの情報に気を取られて、つい失念していた。マルグレーテの言う通り、カーミラは魔王の娘ということになる。


「養女とかじゃないの」


 レミリアは、まだなにかを食べている。


「人間でもエルフでも、魔王の姿を見た人は居ない。見たときが死ぬときだから。でも噂では外見も恐ろしく、立ち上るオーラを見るだけで失明するらしいよ、噂だと。そんな魔王の娘が、あんなにかわいいわけないじゃん」

「たとえ養女でも、危険な存在に変わりないだろ」

「それに……」


 リーナさんが呟いた。


「娘のために取引に応じるくらいには、魔王に愛されている。……魔王にも愛という概念があるのね。親子の情と言い換えてもいいけれど」

「ほっほっ。モーブよ、どうする」


 楽しそうな表情で、居眠りじいさんは俺を見つめている。


「はいゼニス先生。カーミラだかヴェーヌスだかの正体は、とりあえず置いておきましょう。今回戦う敵じゃない。それよりボス戦です」

「まあそうじゃな」

「予定通り、明日の晩決行しよう。いずれにしろ、残された時間は少ない。俺、ラン、マルグレーテ、レミリア、それにリーナ先生で、深夜行動を開始する。……それでゼニス先生、参戦してもらえますか」

「もちろんじゃ。だがわしの本体が加わるわけにはいかん。あっさり敵にバレるから、夜襲もクソもなくなるわい」


 声だけが聞こえてきた。


「だからこの、魂だけでだ。したがって魔法を撃ったり剣を振るったりなどは、なにもできん。わしにできるのは偵察、それに状況を見てのアドバイスということになる」

「構いません。先生は前大戦の英雄だ。数限りない困難な戦いで生き残り、勝利してきた。その知恵は、何者にも代えがたい」

「ほほう、モーブも指導者らしくなってきたのう、ほっほっ」


 楽しそうな笑い声が響いた。


「ではわしはもう現身うつしみに戻るとしよう。明日の夜、またここに魂を飛ばす。いいかモーブ、そして皆の者。この戦いは運命じゃ。天秤をかざす運命の女神を、味方につけよ。厳しい戦場では、天秤の揺れひとつで勝敗が分かれるものじゃからな」



●明らかになった敵ボスの構成。深夜ランやマルグレーテを抱きながらモーブは、ボス戦の戦略を検討する――。次話「決戦前夜」、お楽しみにー。

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