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11-1 謎坑道

「くおらっ! サボってないで働けっ。てめえ今日からの新入りだろう」


 見張り役のオークにどやされた。ど太い棍棒を、これ見よがしに握り締めている。



「もうほぼほぼ目標深度まで達してるって話だからな。サボるんじゃねえ」

「目標深度ってなんすか」

「知らん」


 はあ、やっぱ全貌を知ってるのはボス級くらいか。


「だが、地下から気配はしているらしい。もう少しで精神接触が可能になるとかなんとか」

「なんすかそれ。相手は誰っすか」

「知らん」


 言ってから、いきり立ったように、棍棒を肩に担いた。


「俺はな、ただ真面目に働くだけよ。考えるのは上の仕事だ」

「いい社畜っすね」

「シャチーク、なんだそれ」

「いえつくづく感心しました」

「わかったら働け。目標を達成したらおめえも村人も、全員解放してやるからな。おまけに豪勢な褒美も出る」


 嘘つけ。どうせ殺すだろ、お前ら。


「ありがたいこってす。働きやす、親方」


 時代劇の農民ぽく答えると、俺はツルハシを握り締めた。そのまま、硬い地盤に打ち込む。軟鉄が石を削り、火花が飛んだ。


「ふう……」


 ここは鉱山最深部。生意気にも、魔族は魔導ランプを持ち込んでいた。おかげで手元が明るくて助かる。獣脂ランプじゃあろうそくかよって光度だからな。坑道自体は、五メートルほどと、割と広い。さっき聞いたが、初期に魔法で可能な部分だけ広げたって話だ。そこから先は、人力でないと難しい。それでも人海戦術で、ここ一年でかなり掘り進んでいるらしい。


 カーンカーンと、あちこちで岩を削り土を掘る音が聞こえる。俺の周囲には、男が五十人ほど。全員、ツルハシだのスコップだので作業中。占拠された七滝村の村人だろう。いかにも山村の貧しい身なりだし。


「親方、ここは右に進んでいいですか」


 試しにオークに話を振ってみた。とにかくある程度コミュニケーションが取れる仲になって、情報を聞き出したい。


「おう。右の岩を砕け。砕いたらスコップで掻き出すんだ。女が運ぶからな」

「へい、親方。親方の指示ははっきりしてるから、やりやすいっす」


 適当にゴマをする。


「おう。おめえなかなか素直じゃねえか」


 ブタ面で、まんざらでもない表情だ。


「親方の役に立ちたいんっす」


 言ったものの、臭いんであんまり近寄りたくない。てかこっち来んな。


「そうかそうか。……でもなあ、俺は親方じゃねえ。チューかんかんりなんちゃらだ」


 ネズミかよ。


「親方はほれ、そこの部屋におられる」


 脇の岩を指し示した。良く見ると岩に線が入っていて、そこが扉になっているとわかる。


 はあ、ここが「例の野郎と例のお方」とかいう、正体不明のボス部屋か。


「親方ふたりが入れるくらい広いんですか」

「おうよ。魔法で整えたからふたりとも、魔王王宮並の暮らしをしてるぜ」


 はあ。あっさり鎌掛けに引っかかったな。やっぱボス級はふたりか。オークも脳筋だから、この調子ならおだてりゃほいほい情報漏らすだろう。それはいい兆候だ。


「モーブ、この土くれ、運んでいいかな」


 ランだ。魔導猫車とかいう一輪荷車を押している。魔力がジャイロ兼動力補助に働くから、女子でも軽々使えるって話だ。実際ランも、今日が初日というのに、もうすっかり操縦に慣れてるし。


「おう。今、積んでやる」


 土は、わざとゆっくり積む。その間、ランが周囲を観察できるからな。ボス級が出て来ない以上、最終的にはこのボス部屋での戦闘となるのは確定だ。事前になるだけ周囲を知っておきたい。


「モーブ、暑くない」

「平気だよラン。ありがとうな、心配してくれて」


 ここでは他愛無い会話しかしないことにしている。戦略を練るのは、夜だ。


「マルグレーテとレミリアはどうしてる」

「ふたりとも、地上で晩ご飯の準備してるよ」

「そうか……」


 まだ午前中だが、昼飯はない。朝と晩だけだ。


 こっちは肉体労働なんだから、村人に昼くらい食わせたほうが力も出て魔族にも得だろうと思うが、連中はそれよりも反乱の意志をくじくほうを重視しているようだ。腹ペコでふらふらしてたら、気持ちが萎えるからな。


「ご飯はねえ、すごーくいっぱい」

「だろうな」


 人質の村人が三百人ほど。みんな肉体労働の昼抜きで飢えてるからな。


 それに魔族の分もある。魔族は十数人とはいえ、ここには体格もいい脳筋タイプが多いから、それなりの量は食うはずだ。


「さて……」


 俺は見回してみた。最前線だけに、ここには人夫が多い。しかも全員、ツルハシやスコップで「武装」している。見張りはオークふたりだけ。うまいこと気勢を制すれば、倒すことは充分可能だ。敵の弱点や戦闘の仕方を、俺達が村人に事前に教えられれば、だが。


 だがここで戦闘になれば、ボス部屋にすぐ気づかれる。決起日は魔族の飯になにか薬を盛っておくくらいはしたいところだ。あるいはやはり、宿舎に夜襲をかけるか。


「ほらラン、土は載せたぞ。あとは頼む」

「うん」


 ハンドルを持って器用に反転すると、押し始めた。


「ふたりにも、よろしくと言ってくれ」

「わかってるよ。マルグレーテちゃんとレミリアちゃんには、見たことちゃんと伝えるね」


 こんにちはーとか、通りすがりにラン、オークに元気に挨拶してるな。残忍な魔族のくせにオークの奴、ついつられて頭下げてたし。ランの天真爛漫ぶり、魔族にすら通じるか。こんなん笑うわ。






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