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10-5 ドワーフの遺作装備

「あっそうだ。馬車で思い出した」


 コルムが手を打った。


「僕、モーブに会ったらあげようと思ってた装備があるんだ」

「へえ」

「珍しい……というか見たことない奴だよ。持っていって」

「悪いから買うよ」

「いいんだよ。トルネコ商会立ち上げ記念だ。モーブには永久半額券も渡してあるし、今日は無料だよ。……その代わり、リーナ先生を助けてあげて」

「任せろ、コルム」

「これだよ」


 コルムが出してきたのは、奇妙な鎧だった。白銀つや消しの金属糸で編んだ鎧で、明らかに女子用。なぜならほぼほぼ水着同然だからな。スポーツブラ的に胸を覆う上着。それにミニスカート状のボトム。コルムは軽々と扱っているから、金属なのに軽いんだろう。


「ミスリルのチェインスコート、それにチェインモノキニ。例の亡くなったドワーフが渾身の力で製作した、彼の遺作だよ」


 はあチェインメイルの類か。よく見るとたしかに、細かな鎖状の金属で編まれてるわ。その意味でニットっぽい。


「ミスリルなんて、もう最近は全然産出しないよ。どこも掘り尽くして廃坑になってるし」


 興味深げに、レミリアが防具を手に取った。


「軽い……それにしなやか。布だってこんなに柔らかくないよね。これで防具の役を果たすの?」

「防刃性能はトップクラスだって。こういうタイプだと露出したお腹とかが心配だと思うけど、魔法効果があって、体の他の部分への物理攻撃もほとんど防ぐらしいよ。あと魔法攻撃にも高い耐性がある」

「凄いわねえ……」

「ほんとだ」


 マルグレーテやランも、生地を撫でている。


「誰に装備してもらう、モーブ」

「そうだな、コルム」


 考えた。


「マルグレーテ、お前でどうだ」

「わたくし?」

「ああ。俺には革防具、ハンゾウの革鎧がある。そもそも男だし。レミリアには胸当て、つまり天之麻迦之胸当あまのまかのむねあてがある。防具が無いのはお前とランだけだ」

「でもこれ、露出が……」


 眉を寄せている。


「大丈夫だって、マルグレーテ様。さっき言ったように、こいつは防御力が――」

「そうじゃなくて、モーブ以外に肌を見せたくないの」

「……なるほど」


 改めて、コルムはマルグレーテの体をチラ見した。


「マルグレーテ様が着たら、かわいいと思うけどなあ……」


 溜息をついた。


「でも、嫌なら仕方ないか……。モーブって、幸せ者だね」

「と、なると……」


 再度考えた。ならランにするか。ランは人目とか基本、気にしない。自分が桁違いにかわいいことすら、あんまり自覚していないようだし。


 考えたらマルグレーテの装備には、斬撃無効化と物理ダメージ八十パーセント削減効果のある、「従属のカラー」がある。それに祖霊の守護力を発揮する先祖伝来「エリク家の指輪」も。防御力強化は充分だと、考えてもいい。


 それに対しランは、防御力を直接上げるアイテムは装備していない。裏ボスレアドロップ「即天王の指輪」により、即死・状態異常無効化とHP/MP無限回復効果を得てはいる。つまり擬似的に防御力を上げたも同然の効果はあるが、致命的な一撃を受けてしまえば、HP無限回復以前に死んでしまう。防御力を上げておけば、そのリスクは減らせる。


「ならランだ。俺が頼んだら、着てくれるか」

「もちろん。モーブがくれるものなら私、なんだって大好きだよ」

「いい子だな、ラン」


 頭を撫でてやった。


「えへーっ」

「うむ」


 居眠りじいさんが、むくっと起き上がった。立ち上がったというより、倒れ込んだシーンの逆回転再生っぽい起き方。大賢者の技だろう。


「ランの白い肌に金髪、そこに白銀のビキニアーマーとくれば、これは奇跡の美少女。わしのこの目に、早いところ焼き付けさせろ。そうじゃ。その前にマルグレーテとレミリア、お主らもとりあえず一度だけ身に着けてわしに見せるのじゃ。そうすれば――ぐふっ!」


 またしてもマルグレーテの拳王拳法が炸裂。じいさんは再度倒れ込んだ。あれだなー、ビーチバレー大会のときのコメディアンを思い出すなー、これ。


「ならこれで決まりだ。コルム、ありがたくもらっておくよ。しばらくこの街に滞在するんだろ、お前」

「そうだね。冒険者ギルドに顔を出して仁義を通し、店先に馬車を駐めて冒険者相手に売買するよ。資金を稼いで、またレア装備を手に入れたいし」

「なら今晩、一緒に飯にしようぜ。俺達今、カジノリゾートに滞在してるんだけど、まだ元のリゾートの部屋もキープしてある。装備のお礼に、あの部屋、滞在中は自由に使っていいからさ」

「モーブとご飯とか、光栄だね」

「おう。ヘクトール一般食堂の餌じゃないぞ。金持ちが集まるリゾートのメインレストランだからな」

「私やモーブのふるさと名物料理、山鳥の香草焼きもあるよ」

「そいつは楽しみだね。じゃあ僕、さっそくギルドに挨拶に行くよ」


 手を出してきたコルムと握手した。なんだなー、コルムの手、いつの間にかゴツゴツ傷だらけになってるな。毎晩、剣を研いだり鞘を修理したりと励んでるんだろう。


 こいつはとてつもない武器商人に育つぞ。


 俺は内心、舌を巻いた。


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