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10-3 リーナさん失踪の謎

「そう判断した娘は、リーナさんの後をつけて、逓信処ていしんしょの外で、リーナさんに接触したそうだよ。そして村に来て、助けてほしいと頼み込んだんだ」

「それでリーナさんは村に向かったのか」

「うん。すぐ戻るつもりだったんだって。だけど現場に行ったら、リーナさんも魔族に移動を禁じられたって」

「魔族だからなー。信用なんてできんわ」

「村人が殺されなかったのは、労働者として使役されていたから」

「なんでだよ。そんな山奥で魔族がなにするってんだ。自分達の土地でもないのに。人間世界でこそこそしてたら、むしろ自分達が攻撃される危険性がある」

「なんでも、地面を掘らされてるって」

「はあ鉱夫ってことか」

「ミスリルでも探しておるのかのう」

「いえ先生。はっきりは教えてくれないそうですが、なんでも地脈を探るとか」

「地脈か……」


 難しい顔をすると、じいさんは視線を逸した。遠い水平線を見つめる。


「まさか大賢者アルネ・サクヌッセンムの……」


 ぶつぶつ呟いている。


「その村は、迷いの森の近くであろう、コルムよ」

「ええ先生。すぐ裏です。迷いの森はざっくり地図で見るとひょうたん状になってます。そのくびれた部分に、その村は位置しています」

「迷いの森が、その村を避けるように、じゃな」

「はい。避けているのか、あるいはわざと取り囲んで人を近づけにくくしているのか……」

「迷いの森が魔族に封じられたのは、二十年ほど前だよね、モーブ」

「ああラン、そういう話だった」

「もうあの森、行きたくないねー」


 ほっと、レミリアが息を吐いた。


「神聖な樹木神ククノチは魔物にされてるし、お風呂も入れないし」

「のうモーブ、お主、コーパルの鍵は、迷いの森で見つけたんだったな」

「ええ先生。厳密に言えば、迷いの森を抜けてすぐのところです」

「小川の流れを受ける、小さな泉で見つけた」

「はい。水中に沈んで」

「地脈を探るためじゃ。地中深く掘り返しておるに決まっておる。大量の廃土は野積み。雨が降れば、廃土の中のアイテムが川に流れ込むこともあろう」

「なら先生、あのアーティファクト、その村から流れてきたっていうの」

「可能性があるということじゃ、マルグレーテ。地脈を探るのは、もしやすると、アルネ・サクヌッセンムと接触するべく企んでおるのかも」

「大賢者サクヌッセンム様の居場所に関係するアーティファクトが出てきたということは、その可能性があるわけですね」


 マルグレーテが、俺の目を見た。


「モーブ、どう思う」

「そうだな……」


 今出た情報を、俺は脳裏で整理した。つるっと聞くと納得してしまう答えだが、どうにも根本のところがおかしい気はする。


「アルネ・サクヌッセンムと戦いを繰り広げているのは、『もうひとつの存在』だ。魔族……つまり魔王ではない。なのに、なぜ魔族が動いているのか。魔族にとっての敵は俺達人間やエルフで、アルネなんかどうでもいいはず」


 アルネも運営も、言ってみれば神の世界の話。人間にとっても魔族にとっても、直接どうこう考えるような対象ではない。


「たしかにそうね。どういうことかしら」

「アルネなんちゃらの噂を耳にして、なんかとてつもないお宝でも隠してるかもと思っただけじゃないの」


 レミリアは、また茶を飲んだ。


「魔族は強欲だからねー、ドラゴン並に」

「あんまり水分取ると、また汗かいて水着透けるぞ」

「やだっ! ……って、今日はリゾートウエアだから大丈夫じゃん。モーブったら、意地悪」

「水着、透けたの?」


 興味津々といった顔で、コルムがレミリアを見る。主に胸のあたりを。


「そ、それはどうでもいいでしょ。それより、そのリーナさんっての、助けに行かなくていいの? 今はそりゃ、魔族の役に立ってるからいいけどさ。いずれ目的を達したら、村人共々殺されちゃうかもよ」

「魔族とはいえ、必ずしも皆殺しにするとは限らん。わしは前大戦で戦ってきたからのう、連中とは」


 じいさんは、ほっと息を吐いた。


「とはいえ、それは正義感や情けなどからではない。ただの気まぐれじゃ。連中の多くは、人間など虫けら程度にしか考えておらんからな。ごく一部、魔族でも知能に優れた部族だけは別として」

「その村に向かおう」


 俺は立ち上がった。


「そしてリーナさんと村人を助け出す。魔族ったって、主力が来ているはずもないし、なんとかなるだろ」

「いいね。それでこそモーブだ。僕達Zクラスを救ってくれた、モーブだよ」

「コルム、お前は来るな。商人なんだから無理せず。この近辺で商売しつつ情報を集めてくれ」

「うん。任せて」

「ゼニス先生、一緒に参戦してもらえますか」

「わしか。わしは……」


 空を見上げ、流れる夏の雲を、しばらく眺めている。


「止めておこう。モーブ、お主に全て任せる」

「なーんだ。大賢者って言っても、意気地ないんだね」

「ほっほっ。レミリアにはそう見えるか」

「だって事実じゃん」

「レミリア、ゼニス先生はね、ヘクトールに魔族が襲来したとき、学園生を守って最前線で魔族と戦ったんだよ」

「ランちゃんの言う通りよ。……つまりなにかお考えがあるのよね、先生」

「なに……」


 ぷいと、また海を見た。


「ガールフレンドと遊ぶのに忙しいしのう……。モーブ、お主の戦いっぷりを楽しみにしていよう。……えいっ!」

「きゃっ!」

「やだっ!」

「……」


 目にも留まらぬ早業で、じいさんがランとマルグレーテ、おまけにレミリアのふとももを撫でた。


「また……。わたくし……警告……しましたわよ……ねえ」


 うごごごご――という擬音すらしそうな迫力で、マルグレーテが立ち上がった。気のせいか、髪が逆立っている。


「エロジジイっ!」

「ま、待て――ぶほっ! ぶほっ!」


 握り締めた左拳が、じいさんの右頬をえぐった。倒れかかる鼻っ面に、右拳が連続ヒット! 派手な音を立てて、じいさんは倒れ込んだ。


 左フックからの右ストレート、見事な連携だ。マルグレーテ、もうこれマジで格闘士をセカンドジョブにできるな。ジョブチェンジとかなしで。


「す……すごい」


 貴族のお嬢様としてのマルグレーテしか知らないコルムが絶句する。


「まるで……ブレイズパーティー並の内輪揉めだ」

「あらコルム、ブレイズの噂、知ってるの」


 瞬時に平静に戻ったマルグレーテが、にっこり微笑む。てかコルム、ドン引きしてるがな……。


「う、うんマルグレーテ拳王様。ブレイズのパーティー、どこに行っても大揉めらしいよ。え……えへっ」


 笑顔が引き攣ってるわ。おまけにつるっと「拳王」扱いしてるし。もう笑うしかないな、これ。


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