9-16 じいさんチームの超絶ミニ
「来たわね……」
マルグレーテが呟く。
「相手はやっぱり、先生と例の女の子たちね」
大賢者ゼナスこと大賢者ゼニスこと居眠りじいさん、まあどう呼んでもいいが、その背後から出てきたのは、じいさんがスケベ旅行に連れ出したもののマッサージ下僕として奉仕させられたという、女子三人だ。カフェスタッフだけになじみ客も多いのか、客席に向かって手を振ったり話しかけたりしている。
「おおっとおー」
コメディアンが大声を上げた。
「ゼナスチーム。ゼナスに合わせたのか女子は上下黄色いビキニですが、短いプリーツスカート装備ですね、黒の」
「黄色に黒だからかわいいですねー」
司会バニーも微笑んでいる。
「しかも超絶短くて、歩くだけで黄色いパンツがチラチラ見えてるじゃないすか!」
コメディアンはもう立ち上がってる。
「これは盛り上がる」
「いやだなあ……。あれ、ただの水着ですよ。下着じゃなく」
「いいんです。スカートから覗く水着。それはもうパンツの上位互換。ここ会場の殿方たちは、この試合のことを一生忘れないでしょう。なんせ、歩くだけで見える長さ。これ、バレーで屈んだり跳んだりする度に、丸見えじゃないすか!」
「コ、コーフンしないで下さい」
さすがのバニーちゃんも押され気味だ。
「どうじゃモーブ。わしのガールフレンドは」
胸を張ってやがる。
「かわいいっすね」
「あのユニフォームは、わしの見立て。あんな短いスカートは無いから、特注で仕立てたのじゃ」
得意満面だわ。
「はあ、ご苦労さんとしか……」
いやこいつ、本当に前大戦の英雄で、国王ですらその意見を無視できないとかいう大賢者なのかよ……。ヘクトールで居眠りしてたスケベじじいそのまんまじゃん。
「順調に勝ち上がったようじゃの」
「ええまあ」
「うほっ。ランもマルグレーテも、なかなかの水着姿ではないか」
サングラスを外すと、瞳を細めた。
「……あんまり見ないで下さい。俺の嫁です」
「いいじゃろ。減るもんじゃなし。どれ透視魔法を……」
「はあ?」
「あーいやいや冗談じゃ。あれは昔使いすぎて殺されそうになったから、封印しておる」
「でしょうね……って、口の中で何ぶつぶつやってるんすか。それ詠唱でしょう」
「ちっ気づいたか……」
はあーっと、深い息を吐いた。
「わーかったわい。諦める。……透視魔法は、布一枚しか透けないのじゃ。水着になった今こそチャンスだというに」
名残惜しそうに俺を見上げる。
「どうじゃ、一度だけ」
「無理」
「ケチじゃのう。……その度量で、よく四戦も勝ち上がれたものじゃ」
「関係ないし」
「じゃが、五戦目はこれまでのようにはいかんぞ。わしもここは勝って、ガールフレンドにいいところを見せたいでのう……」
まあ、そりゃそうだろうな。
「お手柔らかに頼みますよ、ゼナス先生」
「ほっほっ。楽しみにしておれ」
くるっと反転すると、女の子のところに。技術指導か知らんが、手取り足取りレシーブの型とかやらせてるな。ついでにビキニの胸に触ろうとしてはたかれてるが。
「モーブ」
三人が寄ってきた。
「暑いわねー」
マルグレーテは、タオルで汗を拭っている。
「もう真昼ね。始まったときより、ずっと暑いわ」
「風も止まっちゃったね」
「ラン、凪の時間だよ」
「ほんっと、あっつい」
レミリアは水をごくごく飲んでいる。
「あんまり飲みすぎるなよ。お腹ちゃぽちゃぽになるぞ」
「平気だよ」
「モーブは相手、どう考えているの」
「そうだな、マルグレーテ……」
練習の様子を、俺は確認した。
「先生以外は若いから、体力はあるだろう。でもビーチバレー経験は無さそうだ。球技としての技術は、無いも同然と思われる」
「となると焦点はやっぱり、ゼナス先生ね」
「ああ。先生は詠唱タイプでなくマナ召喚型の魔道士。瞬時に魔法を掛けられる。おまけにマルグレーテやランよりはるかに高レベルの術者だし」
「ゼナス先生がいろんな魔法を掛けてくると、面倒だね」
「そういうことだ、レミリア」
「どうするの、モーブ」
「そうだなラン、こっちは魔道士ふたり。畳み掛けるような連続技で翻弄しよう。相手も球技は苦手とすれば、こちら同様、浮遊魔法で球をコントロールするはずだ。その瞬間、こっちも魔法を掛けて、その効果をキャンセルさせよう」
「そうね。いくら浮いていても、旋風でコースを変える手もあるし。いろいろ考えるわ」
手に持ったボールを、マルグレーテは、ぽんぽん叩いてみせた。
「なんとかする」
「いいか、防御も同じだ。敵はおそらく球に効果を付与してくる。こっちはランの浮遊魔法で時間を稼いで、マルグレーテが効果をキャンセル。俺とレミリアで繋いで、敵陣に打ち込む。だいぶ慣れた。アタッカーは俺基本で行く。その代わりラン、お前は魔法に専念しろ」
「わあ。楽しそうだねー。先生との魔法戦」
「そうそう。楽しむ気持ちでいこう。これは遊び。別に負けても殺されるわけじゃないからな」
「そうね。わたくし少し、真面目に考えすぎていたかも」
遊びよねこれ……と、マルグレーテは付け加えた。
「では試合開始っ」
審判が笛を吹くと、観客席の盛り上がりもピークに達した。
「モーブ五番勝負、いよいよトリの大賢者戦。皆様、存分にお楽しみ下さい!」
司会バニーが声を張り上げた。




