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9-15 居眠りじいさん登場

「ピッ」


 審判の笛が鳴った。


「試合終了。モーブ組、勝利」

「モーブ様……」


 ケットシーのアヴァロンが寄ってきた。


「さすがです。即座に作戦を切り替えてからは危うげもなく」

「いやそれでも、そっちも凄いわ」


 本音だ。


 俺達は作戦を変更した。魔法が通じないなら、物理しかない。魔法でボールの物理的挙動を変えることだけに徹したからな。たしかにそれは功を奏したが、それでも相手チームはよく球を拾ったし、素早く打ち込まれたときはさすがのランも対処できなかったからな。


 結果、二十一対十一と、これまでの最高点を相手に献上した。獣人凄いわ。これ、パーティーでも普通に主力メンバーで戦えるな。


「面白かったよ」

「それなら良かった」


 ほっとした顔だ。


「モーブ様のチームを掻き回してやれって、マネジャーに言われてたんですよ」


 ぺろっと舌を出した。まあ言いそうだわ、あのマネジャー。


「今日は遊びでしたけれど、いずれまた……」


 手を差し出してきたので、握ってやった。


「モーブ様とは……」


 一度ぎゅっと握ると、すっと引っ込める。


「運命の導くままに……」

「よろしくな」


 微笑まれたが、よくわからん。まあ俺は、これまでどおり、へらへら遊んで生きるだけさ。


「さ、みんな、戻りましょう」

「ええ、アヴァロン」

「面白かったわね」

「たまにはいいわよね。こうして太陽の下、遊ぶのも」

「私達みんな、暗ーい室内勤務だものね」

「そうそう」


 笑い合いながら、ゆっくり歩く。


 俺に背を向けると、虎っぽく太い尻尾が、ゆっくり揺れているのがわかった。先が特にちょこちょこ動いていてかわいい。


「皆さん、またね」

「カジノでお会いしましょう」

「今日もこの後、シフト入ってますよ」

「発泡蜂蜜酒、おいしいですよ」


 宣伝も忘れない。手を振ってもらえたギャラリーは大喜びだ。


「い、今、俺に微笑んでくれた」

「嘘つけ。今のは俺だ」

「あのビキニ姿のまま、カジノで働いてくれないかな」

「無理だろ、さすがに。あれ、下半身裸だからな。ビーチバレーとは違って、客と間近に接するわけだし。マジ見える瞬間が出るぞ」

「ごくり……」


 あれだなー。なんなら本当にビキニでいいんじゃないか。穿かないのはさすがにアブナイから、下だけ透明のビキニにするとか。上は無理だろうけど。水着から見える感じ、胸にはほとんど毛は生えてないようだし。


「いい勝負でしたねー」


 司会バニーは溜息をついた。


「冒頭苦戦したとは言うものの、これで四戦全勝。さすがはポルト・プレイザーの英雄、モーブ組です」

「ええもう。ここまで冒険者ギルドの受付嬢ビキニ、エリート女子のビキニ、そして別大陸獣人バニーちゃんの下半身裸ビキニですからねっ。もう今日一日で、この先一年はお腹いっぱいでしょ」

「……なんの話ですか。それに第一戦の沖仲仕さんたちのこと、忘れてるし」

「獣人チームリーダーは下もビキニ装備だったけど、尻尾を上から出さないとならないから、ものすごく小さな水着でした。尻尾は肛門のすぐ上、つまりほぼほぼ、ギリ隠すくらいの丈しかないわけで。ここ天国でしょ」

「は。はあ……」

「さらに特にこの、獣人チームの後衛の娘。レシーバーとしてしゃがみ込むことが多かったので、なかなかにサービスシーン多かった。なにせお尻の間には毛が生えてないですからね。尻尾がこう上に上がったときとか、横からでもわずかにこ――」


 ぼこぼこぼこっ!


 例によってマイク拳を炸裂させたバニーが、凹んでハウリング音を発し始めたマイクを放り投げた。もうスタッフもよくわかってるようで、さっそく次のマイクが来る。


「ところで賭けの状況はどうなんですかね」


 バニーが振ると、スタッフが紙を持ってきた。


「はい来ました。モーブ全勝に賭けた方が、えーと……七割。意外に少ないですね。四勝勝利で留まって第五戦敗北予想が二割。四戦めで負けて五戦に進めず敗退が一割。三戦までで敗退に賭けた人もそこそこはいますね。一戦も勝てないという逆張り王子様もいらっしゃいます」

「当たったらでかいですからねー」

「あら、もう復活ですか」

「ええ。なんだかバニーちゃんの殴打が気持ちよくなってきて……。新しい世界に目覚めたというか……」

「気持ち悪いなあ……」


 司会バニーちゃんはドン引きだ。


「五戦目敗退予想が二割も居ますね」

「そりゃ、五戦目の相手はみんな想像がついてますからね」

「おそらくですが……あの方ですよね」

「ええ、なにせすごろくでは圧倒的な魔力を発揮して、モーブ組を中盤まで引っ張ってましたからね」

「さて、どうやら時間ですね……」


 バニーちゃんが、スタッフを見た。スタッフが頷く。


「実はこのオッズ表に書いてあったんですよ。いよいよ最終戦。モーブの相手は、ヘクトールの最優秀教師出身、大賢者ゼナスとビーチサイドカフェガールズです!」


 うおーっという雄叫びが、観客席から巻き起こった。同時に、相手チーム控室の扉が開き、居眠りじいさんが出てきた。アロハっぽい、例のど派手イエローリゾートウエアにハーフパンツ、サングラス姿。どう見てもスポーツをする格好ではない。


「来たわね……」


 マルグレーテが呟く。


「相手はやっぱり、先生と例の女の子たちね」

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