9-11 エリート女子、対戦の戦略
「モーブ五番勝負、第三戦の相手は、ポルト・プレイザーのイーストサイド、貿易会社エリート女子チームです」
観客席から、大歓声が巻き起こった。
「マジか!」
「俺達でさえ鼻にも引っ掛けてもらえない、氷の美女軍団だぞ、これ」
「仕立てのいいスーツ姿だからな、いっつも。あのミニスカートの奥はこの世界最大の謎だってのに、あれ脱いで水着姿になってくれるってのか」
「嘘だろ。俺、魔導カメラ手に入れとけばよかった。一生に一度の機会じゃん」
「王国に数台しかないのに、無理言うな」
「カジノに一台あるぞ」
例によって大騒ぎだ。
「そう言えば忘れてました」
コメディアンが声を張り上げた。
「現在、カジノ所有の魔導カメラ、特別に貸出を受け付けております。料金はちょっとお高いですが、ランちゃんの水着姿を永遠に残すチャンスですよ。もちろんエリート女子のあられもない姿も」
「がおーっ! 俺、借金してくる」
「しまった俺、今、有り金全部、モーブ賭けに突っ込んだところだわ」
「後で払うから、写真を俺にも流してくれ」
「どうすっかなー」
「この野郎……。構うこたねえ、殴れ殴れ」
「いててててっ」
またしても大騒ぎだ。
「さあ、エリート女子チーム、登場です」
控室の扉が開くと、女子が五人ほど、ずらずらと出てきた。全員メガネを掛けている。だが、水着姿ではない。黒いマントを体にまとって。観客席にざわめきが広がった。
「なんでマント姿……。あのままじゃ球技なんか無理だ」
「だから、試合になったら取るんだろう。中身を想像してみろ」
「そういうことか。……ごくり」
「それは後のお楽しみとして、髪を見ろよ。いっつもきりっとアップにまとめているのに、今日は全員、長い髪をストレートに下ろしてるぞ」
「ああ……あのさらさら髪、一本でいいからくれないだろうか」
「イベントが終わったら、コートの中をさらおう」
「なら俺はモーブ組のコートにする。マルグレーテ様の高貴な髪や、もしかしたら謎の毛髪が落ちてるかもしれないし」
「忘れてた! 俺もランちゃんの毛を狙う」
まあ勝手にしろ。知らんだろうがランもマルグレーテも、ないからな。見たことはないからわからんが若いし多分、レミリアも同じはずだ。
「あなたがモーブね」
コートに陣取ると、リーダーと思しき美女が、メガネを直した。
「ふーん……。顔はイマイチだけど、なかなかいいオーラがあるじゃないの」
「本当だ」
もうひとり、身をかがめ、下から俺を見上げるようにする。
「私、一度くらいなら晩ごはんに付き合ってあげてもいいわ」
「あらシヴォーン、あなた男嫌いじゃなかった?」
「それは違うわ。……今まで、これはという男に巡り会えてないだけ」
「そう……。なら私もひとくち乗ろうかしら」
「では、わたくしも」
なんか知らんが、モテてるな。まあメガネをきらめかせて全身舐めるように見られるのは、どえらく恥ずかしいが。検分するかのように遠慮なく下半身もチェックしてるからなあ……。さすがエリートというか、度胸あって神経太いわ。
「さあ、いよいよ開始時間です」
司会者バニーの声に応じて、審判が笛を吹いた。
「両チームとも、準備はいいですか」
「あら、これがいいように見える?」
自分や仲間のマント姿を、リーダーが審判に見せつけた。
「今、準備します。……みんな」
「うん」
「わかってる」
肩の留具に手をやると、一斉にマントを外し、放り投げた。
「うおおおおおーっ!」
観客が総立ちになる。
「見ろよあれ」
「マジか。エリートだぞ、あの娘たち……」
大騒ぎする奴、絶句する奴と、さまざまだ。当然だろう。なんせ五人とも、レミリア以上に過激なビキニだったからな。特に下半身。もう上から見える寸前というか。胸の水着はそこまでではないが、胸自体、微乳から巨乳、爆乳まで、バラエティー豊か。もう世界の殿方全員の欲望を、五人で全て叶えます――って勢いよ。
「ま、魔導カメラは誰が持ってる」
「持ってる奴を探せ。写真を買い取るんだ」
「うおーっ」
観客席を駆け回ってるな。
「メガネはいいんですか」
「忘れてた……」
審判に確認され、全員メガネをベンチに置く。
「これでよし……と」
自陣を見回して、リーダーは頷いた。
「いい。相手が英雄モーブとはいえ、手加減はなし。みんな全力で行くわよ」
「はい」
「はい」
「任せて」
「そうね」
鋭い瞳だ。
「どういう作戦かしら……」
マルグレーテが首を傾げた。
「頭脳派ばかり五人だよ」
レミリアが続ける。
「多分、全員高レベルの魔道士。魔法で自由自在に球を操るつもりなんだ」
「そうだろうな。五人もいれば、ビーチバレーの狭いコート内では動きにくい。つまり肉弾攻撃というより、動かなくても戦える魔法中心なのは間違いない」
「モーブが言うほどは魔力を感じないけれど。……どう、ランちゃん」
「マルグレーテちゃんの言うとおり。私もあんまり感じないよー」
「気をつけろみんな」
俺は注意を促した。
「なら逆に、全員そこそこ魔力に超絶球技技術で揃えたチームかもしれん。第二戦と異なり、五人の役割分担が全く見えないしな」
なんせ第三戦だ。俺達が何戦まで勝ち進むかがキモのイベントなんだから、後半になるに従って、相手が強くなるはずなんだ。
「わかった」
「いいか。一点なら献上して構わん。最初だけわざと魔法なしで球を回そう。それで相手の戦略をはっきりさせ、タイムを取る。そこで作戦会議だ」
「いいわね」
マルグレーテも賛成してくれた。
「さすがはモーブ。策士だわ」
「では試合開始っ!」
審判が笛を吹いた。
「それっ!」
俺のサーブは、少しばかり球の中心を外した。そのため、ひょろひょろと勢いのないまま、ボールが相手のコートに飛ぶ。
「ラッキーボールだ! 強いのが返ってくるぞ」
俺が叫んだ瞬間、相手チームにとっての絶好球はしかし、敵リーダーすぐ前のビーチに、ぽとんと落ちる。敵は身動きもしなかった。
どういうこと……?
●エリート女子チームの戦略とは?
次話、リゾートマネジャーの恐ろしいw企みが姿を現すwww
次話「イーストサイド・エリート女子戦」、決着!




