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9-9 第二戦「冒険者ギルド選抜チーム」戦

「ランっ!」

「浮遊レベル一っ」

「あたしが!」


 レミリアが拾い、俺が後衛から駆け込む。スパイクの瞬間、マルグレーテが宣言する。


「火球レベル三っ!」


 燃え盛る火の玉となったボールが相手コートに飛んだが、受付嬢が氷結魔法を放ち消火した。


「行けっ」


 スカウトが拾い、ゴリマッチョが強いスパイクを放つ。その瞬間、ヒョロガリ魔道士が宣言した。


「荷重変換レベル一」


 と、球のコースが激変し、コート右隅に突き刺さった。


「ピッ!」


 審判が笛を吹く。


「スコア四VS四」

「くそっ! ……タイムだタイム」


 審判にタイムを要求した。


「みんな集まれ」


 コート脇に呼び集めた。


「相手もなかなかやるわね」


 発泡水をごくごく飲むと、マルグレーテはタオルで首の汗を拭った。


「荷重魔法を使えるのは、魔道士でも特殊な方面にスキルを伸ばした人だけよ。わたくしは王道方向だから、使えない」

「手応えがあるねー」

「レミリアちゃんの言うとおりだね。だから楽しいよ」


 実際、ランはにこにこ顔だ。そりゃまあ、死臭漂う湿った地下ダンジョンで生きる死ぬの戦闘をしてるわけじゃないからな。常夏ビーチで、ボール遊びしてるだけだし。


「でも暑いや」


 水着の胸を大きく広げるようにして中に風を送り込むと、悲鳴にも似た叫びが、ギャラリーから上がった。


「ランちゃんっ!」

「ラン様天使!」

「無邪気にもほどがある……っ」

「い、今、胸、半分くらい見えたよな」

「ああ。真っ白の膨らみがほぼほぼな」

「お、俺、胸の谷間から、かわいいおへそまで見えた」

「嘘つけ。そんなに体倒してなかったろ」

「こんなこともあろうかと、魔導ドローンを飛ばして上空からズームしてたからな」

「この野郎……うらやまけしからん。殴れ殴れ」

「イテッ、いてててっ」


 もう大騒ぎだ。


「暑いあつーいっ」


 外野は全く気にせず、ランがまた水着の胸を広げた。


「予想どおり、魔法戦になったね」

「ああ」


 またしても阿鼻叫喚のギャラリーを後目しりめに、レミリアは相手チームを見つめた。


「魔法力はランやマルグレーテのほうが上だよ。……ただ相手はどちらも攻撃魔法と補助魔法を駆使できる。同時に効果を掛けてくるから、厄介だね」

「マジでそうだよな」

「ここまでは様子見もあって、速度重視で詠唱してきたけれど……」


 マルグレーテが俺を見上げた。


「ここからは威力重視に切り替えるわ。相手がふたりがかりなら、こっちは三人分の魔法を使えばいいのよ」

「なるほど……」


 たしかに、その手はある。


「ならマルグレーテは、火球レベルを八まで上げろ。それなら相手も消火し切れない」


 ボールに直接手で触れなくてはならないビーチバレーでは、ファイアボール系の魔法付与は鉄板だ。どんなに球技力があろうとも、触れなければ無力だからな。


「相手スパイクの瞬間から詠唱を始めるわ。それなら間に合う。モーブとレミリアは高くボールを上げて時間を稼いでね」

「マルグレーテもランも、すごろくアイテムでAGIを特に上げたからな。敵はそこまで速くないから、レベルの高い魔法を射つ時間はないはず。それは俺達だけの利点だ」

「そうだね、モーブ」

「いいか、これは来たるべき居眠りじいさん戦の練習にもなる一戦だ。ゼナスの魔力は、こんなもんじゃないぞ」

「たしかにそうね。ゼナス先生はエッチだけれど、魔力だけは侮れない」


 マルグレーテが苦笑いを浮かべた。


「まあエッチ方面については、モーブもたいがいだけれど……」


 余計なお世話だわ。そんなこと言うと、今晩激しくアレするぞ。


「ラン、お前はとにかく打ち込まれるボールを浮遊させろ。荷重魔法だろうが敵火炎魔法のダブル掛けだろうが、砂浜に着地しなければ点は取られない。浮いている間に対処して拾えばいい」

「わかった」


 頷くと、俺の手を取る。


「ほら触ってみてモーブ。私、汗まみれ」


 水着の中に俺の手を導き、胸を握らせる。


「ぎゃあーっ!」


 観客席から凄い叫び。今、誰か死んだな。多分。


「ラン、あんまり煽り立てるな。観客がどんどん死ぬぞ」


 そっと手を抜く。


「暑いねー」


 なにもわからいのか、けろっとしてやがる。ランの無自覚煽り、たいしたもんだわ。無邪気も極めると凶器になるんだな。


「タイムアウト!」


 審判が宣言する。


「よし、この線で行くぞ」

「はい」

「わかった」

「いいよー」


 ポジションに散る。


「モーブさん、モテるねー」


 受付嬢はにやにやしている。


「ランちゃんがうらやましいわ、あたし」


 じっと、熱の込もった瞳で見つめられた。


「あたしも汗まみれなんだけど……」


 ネットに近づくと、上目遣いにビキニをわずかにまくってみせた。


「どれ……」


 思わずふらふらと伸ばした手に、マルグレーテが噛みついてきた。


「いてっ! なにやってんだマルグレーテ」


 こいつ、マジ噛みしてきやがった。「ガブッ」て、漫画みたいなフキダシが出るかと思ったわ。


「モーブこそ、なにやってるのよ」

「おーいて……」


 見ると、前腕にくっきり歯型がついている。マルグレーテ、歯並びいいな……。


「モーブだって、わたくしの胸を強く吸って印をつけるでしょ、毎晩。あのお返しよ」


 つんと、横を向いた。


「あらー……素敵」


 受付嬢は大喜びだわ。


「今度あたしにもつけていいよ、モーブさん」

「いやそれは……」


 なんか俺、顔が熱いわ。マルグレーテの奴、寝室でのあれやこれやは秘密だろ。俺がいろんなことをするといっつも恥ずかしがるくせに、なんでいきなり暴露するんだよ。


「あー君達」


 審判が、困惑したような声を上げる。


「いつまでいちゃついておる。……そろそろいいかな」

「す、すみません……」


 これは恥づい。


「気を取り直していくぞ、みんな」

「うん」

「モーブこそ」

「いいよー」


 頷くと、審判が笛を吹いた。


「プレイっ!」


 相手がサーブを上げると、受付嬢が火球の、ヒョロガリは荷重の効果を与える。ランが浮遊させマルグレーテが効果を消すと、レミリアが高ーくトスを上げた。


「えーいっ!」


 ランのスパイクは中心を捉えられず弱かったが、胸だけはバルンバルン揺れ、ギャラリーの絶叫を誘った。


「火球、レベル九っ!」


 マルグレーテの奴、俺が頼んだレベル八を超える効果を与えやがったか。


「うそっ!?」


 隕石のように真っ赤に燃え盛るボールを見て、受付嬢が目を見開いている。


「ひ、氷結レベル二っ」

「氷結レベル四」


 魔道士ふたりが続けざまに消火にかかったが、ボールの炎は弱まりもしない。ギャラリーすら絶句する中、ボールは敵コートのど真ん中に突き刺さった。相手は拾いにも行かない……というか、むしろ全員逃げ出している。


 ボールは跳ねもしなかった。ビーチに着弾すると高温で周囲を熔かしながら、砂の中にずぶずぶと沈んでゆく。まるで底なし沼のように。


「ピッ!」


 審判が笛を吹いた。


「ポイント、モーブ組」


 ぶすぶすと煙を上げるボールを見て……。


「マルグレーテさん、消火して下さい。――あと、次のボールを持って来い。こいつはもう使い物にならない」


 静まり返っていたギャラリーから、うおーっという大歓声が上がった。


「マルグレーテちゃん、かっこいい……」

「マルグレーテ様、結婚してくれ」

「俺のおっかない母ちゃんをその魔法で消してくれ」


 なんか物騒な依頼もあったけれど。


「さて、次はこっちのサーブね」


 マルグレーテは涼しい顔だ。


「モーブ、頼むわよ」

「任せろ、マルグレーテ」

「さっきは噛みついてごめんなさい」


 歯型の残る俺の腕を取ると、そこにちゅっと唇を着ける。


「モーブ、大好き……」


 俺を見た。


「おわびのしるしに、今晩、わたくしのことをどう扱ってもいいわ。いくら恥ずかしくてもわたくし、絶対に逆らわないから」






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