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9-7 第一戦「イーストサイド沖仲仕」戦

「俺だっ!」


 俺のファーストサーブは、例のお調子者っぽい小柄な男が拾った。ポーンと前衛の位置にうまい具合に上がると、ワンタッチのまま、跳んだアタッカーが、俺とマルグレーテの中央を狙って鋭くスパイクしてきた。さすが力自慢チームだけあり、球速は速い。


「浮遊レベル一っ」


 一歩も動けない俺とマルグレーテの間に着地したと思われたボールは、ランの宣言と共に、宙に浮いたままになった。浮いたまま、スパイクされたままの勢いで高速回転している。


「よしっ」

「はいっ」


 俺が拾い、レミリアが球をきれいにコントロールする。


「任せてっ!」


 跳んだランが、ボールの中心を捉え、思いっ切り打ち下ろす。ぼすっという鈍い音と共に、ボールは着地した。相手コートの右隅に。審判が笛を鳴らす。


「一対ゼロ。モーブ組先制ですっ!」


 実況席から、バニーちゃんが身を乗り出した。


「見事な攻撃。マジックビーチバレーでは、浮遊魔法は普通、使われません。詠唱中に着地してしまうので。でもランちゃんの詠唱速度見ました? ほとんど一瞬ですよ」


 興奮気味にまくし立てる。色気を振り撒くバニー姿ながら、この娘、魔法詳しそうだな。……まあだから実況に取り立てられたのかもしれんが。


「すごろくでもわかったことですが、彼女の魔法適正は極めて高い。しかもすごろく景品アイテムでアジリティーを限界まで上げているようですし。……どうですか、そのへん」


 脇に座るコメディアンに振る。


「いやー見ました? ランちゃんのアタック。ばるんばるんですよ」


 見開かれた目は血走り、ガンギマリの様相。


「ああなぜ神はこのような物体を地上の人間にお与えになったのか……。まさに天使。まさに大砲。まさにエロ――」


 バシンという大きな音が、マイクに拾われた。バニーちゃんが頭をはたいた音だ。かなり大きかったから、ツッコミというよりマジ殴りだろう。


「モーブ、汚いぞっ」


 例の「狂犬」がわめく。いや知らんがな。これはマジックビーチバレーだ。ボールに魔法効果を与えていいルールだし。


「みんな行くぞーっ」


 野郎を無視してチームに呼びかける。そのまま、二回目のサーブを打った。


 それからはほぼ一方的。相手のスパイクは浮かせて返し、こちらのスパイクには、練習方々、マルグレーテがファイアボールやアイススパイクの魔法効果を与える。


 氷の棘が生えた球なんか、受けるだけで精一杯だからな。怪我しない程度の棘にはしてあるが、痛いからまともにレシーブも上がらないし、たとえ上がっても力いっぱいのアタックなんか無理だわ。


 一度こちらが連係をミスって点を与えた以外は楽勝で、あっという間に四対一でコートチェンジを迎えた。


「くそっ」


 すれ違うときに狂犬に睨まれたけど、知るか。他のメンバーはむしろ、ランやマルグレーテに触れそうなほど近づいて、握手を求めてきたりしたし。握手しながら、ランの首に浮かぶ汗をガン見してるからな。ほっとくと舐めそうなくらい。


 さらに点が開いて七対二。あと一点で再度のコートチェンジというとき、珍しく相手がレシーブに成功し狂犬の前に飛んだとき、そいつは海パンのケツからなにかを取り出した。棒のようなものを。そのまま鞘を投げ捨てると、ボールに突き刺す。短剣だ。


「ざまあ見ろ」


 串刺しにしたボールを焼き鳥の串のように掲げ、勝ち誇っている。


「ピピーッ!」


 審判が鋭く笛を吹いた。


「重大反則。モーブ組、勝利」


「ああーっ!」


 例のお調子者が砂に崩折れた。


「なにやってるんすか! あとまだ十分はランちゃんのばるんばるんアタックを間近にできたのに……」

「そのときに広がる、ランちゃんのいい匂いも」

「汗だって飛んでくるのに」

「この馬鹿野郎っ!」


 あっという間に、狂犬は袋叩きになった。それなりに人格者っぽいリーダーまで一緒になってタコ殴りにしている。


「お前は明日から一か月、荷運び小屋の便所掃除だ。首にならないだけ、ありがたいと思え」

「ほら、モーブさんに謝れ」


 頭をぐいっと下げさせられる。


「す……すまねえモーブさん……。つい熱くなって」

「気にしないでいいよー」


 ランが微笑んだ。


「だって面白かったもん。ねっ、モーブ」


 スタッフが持ってきてくれたタオルで汗を拭い、水を飲んでいる。


「そうだな、ラン」


 ランがいいなら、俺もそれでいいや。


「一か月便所掃除はかわいそうです。許してやって下さい」

「あ、ありがてえ」


 青タンで膨れ始めた顔を、狂犬は起こした。


「モーブさん、あんたは男の中の男だ」

「いいんだよ。今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ってくれ。……そうだ、これ」


 手荷物に入れてあったカジノコインをひとつ、リーダーに渡す。


「これで一晩、うまいもんでも食ってって下さい」

「こんなに……」


 手の上で輝くコインを、リーダーは見つめた。


「たしかにモーブさん、あんたは男だ。俺達沖仲仕は今後、あんたを応援する。なにか困りごとがあったら、言ってきてくれ。殺人以外なら引き受ける。……いや殺人でもいいか」

「気持ちだけありがたく受け取っておきます」


 苦笑いだわ。


「みんなありがとー。またねーっ」

「ランちゃん、あんたは女神だ」

「モーブさんがうらやましいぜ。ランちゃんにマルグレーテ様まで、恋人だってんだから」


 ワイのワイの言いながら、退場していく。それなりに敢闘した姿に、ギャラリーから温かい拍手が送られた。


「さて、次は誰かな」


 レミリアが、ほっと息を吐いた。対戦相手は教えてもらっていない。そのほうがハプニングが期待できて面白いからだと。まあイベントを盛り上げたいんだろう。俺達は、居眠りじいさんが参戦してくることしか知らない。


「ゼナス先生かな」

「いいえレミリア、それはないと思うわ」


 コート脇のベンチで寛ぎながら、マルグレーテは水のボトルを置いた。


「先生はとてつもなく力のある魔道士よ。かなりの強敵だから、きっとトリに持ってくるに違いないわ。イベントを盛り上げるために」

「なるほど。あたしゼナスさんの力って知らないんだけど、きっと強いんだろうね」

「ああ強い。なんせ前大戦の――」


 英雄だと言いかけて止めた。一応、王国の厳秘事項だからな。大賢者ゼニスについては。


「さて、次の対戦チームの情報が手元に来ました」


 司会バニーちゃんが、手元の紙をペラペラとめくった。


「では発表をお願いします」


 コメディアンに振ったが、返事はない。誰から借りたのか、魔導双眼鏡を眼に押し当てたまま、口をあんぐりと開けてるからな。視線を辿ると、多分だがマルグレーテの下半身だ。スクール水着……じゃないか、紺のワンピース水着からすらりと伸びる脚、その付け根あたりをガン見してやがる。


 ぼこっ。


 またしても殴りつけると、双眼鏡を取り上げた。


「あっそれは!」


 取り返そうとしたが、バニーは双眼鏡をスタッフに投げ渡した。


「ちゃんと仕事して下さい」

「してるよー。今は休憩時間だからちょっと目の保養をしてただけなのに」

「はあ」

「いやー、マルグレーテちゃん。ランちゃんのけしからんボディーの陰に隠れがちだけど、とてつもなくスタイルがいいですな。ランちゃんは胸の破壊力半端ないけど、全身のバランスとしてはむしろ、マルグレーテちゃんのほうがいいと語る紳士も多いはず。あの水着姿のまま寝台に横たえて、脚をこうぐっと開かせ――」


 ぼこぼこぼこっ。


「それのどこが紳士ですか」


 殴り倒して吐き捨てると、紙を取り上げ直した。


「仕方ない。私から発表しますね。モーブ五番勝負、次の対戦相手はえーと……」


 ぱらぱら……。


「ポルト・プレイザー冒険者ギルド選抜チームですっ」


 おおーっという声と共に、観客席から拍手が巻き起こった。


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