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9-6 大会開始!

「うおーっ!」


 控室を出ると、大歓声が俺達を包んだ。ビーチ沿い、海と反対側に十段もの観客席が作ってあるが、いつの間にかそれが満席だ。一番下は広いテラス状になっており、そこにはテーブル席が横に八つほど並んでいる。明らかに大金持ち用で、いかにもなそれっぽい連中が、優雅に酒など飲んでいる。


「今日もランちゃん、かわいいっ!」


 ギャラリーは大喜びだ。


「マルグレーテ様の大人な水着を見ろ。くあースタイルも抜群じゃん」

「レミリアちゃん、嫁になってくれーっ。体型最高っ!」


 やっぱレミリアにもちゃんと需要があるな。世の中はよくできてるわ。


「モーブさんっ!」


 スタッフ制服姿の女の子に呼び止められた。見るとビーチサイドカフェの娘達だ。


「なんだ、みんな駆り出されてるのか」


 近寄ったら握手攻めにされた。


「ええ。観客の方々にお酒を提供するのでてんてこまい」


 溜息ついてるな。そりゃ、あのマネジャーが商売チャンス逃すはずはないか。


「モーブ様の裸、素敵……」


 まぶしそうに瞳を細めたのは、ジャニス。そう、居眠りじいさんと一緒に旅行に行くはずだった娘だ。そういや、俺の水着姿をこの娘達に晒したのは初めてか……。


「胸も腕もたくましくて……」

「頑張るから応援してくれな」

「ええもちろん」


 離れたところでこっちを見ているランやマルグレーテに、ちらと視線を投げてから。


「あたし寝室で毎晩待ってるのに、来てくれないのね」

「ちょっと忙しくてさ」


 現地妻立候補されたからなー。でもまあレミリア救出クエストで、それこそランやマルグレーテとさえ、実際そういうことできなかったわけで。


「あたし、もやもやしちゃって……えいっ」


 抱き着かれた。同僚の女の子が、冷やかして歓声を上げる。この子、ランやマルグレーテと違ってスレンダーだけど、ちゃんと胸は出てるしいい匂いがするな。


「いいよね。ちょっとだけなら」

「んむっ……」


 唇を塞がれた。前回はマルグレーテの目を盗んだ一瞬だったけど、今回は長い。甘えるように、俺の舌を吸っている。


「……ふう」


 ようやく解放してくれたが、ジャニスの瞳はしっとりと濡れていた。


「夜がダメなら、ランチタイムね」


 俺の首に腕を回したまま、こそこそ呟く。


「あたししばらく、自宅でランチにするから。そのとき、役立つ情報を教えてあげる。……待ってるね」


 もう一度きゅっと抱くと、離れた。


「……なにをしていたのかしら」


 マルグレーテは、腕を腰に組んでいる。


「いやあちょっと、強引にキスされちゃって」

「わあ。モーブもてるねー」


 ランはうれしそうだ。


「強引にされたにしては、長かったけれど」

「いいだろマルグレーテ。もう済んだことだ」


 お詫びの印に、マルグレーテを強く抱いてやった。


「モーブ、みんな見てる……」


 マルグレーテの白い肌が、赤くなった。


「ほら行くよ、みんな」


 焦れたように、レミリアが俺の手を引いた。


「モーブ様チーム、ご登場ぅーっ!」


 魔導マイクを持って手を振ったのは、すごろくのゴール後に凱旋司会してくれたバニーちゃんだ。あのときと同じく、ちゃんと賑やかしの太ったおっさん芸人も引き連れている。


「皆様、ポルト・プレイザーの英雄がまた、皆様の前に姿を現しましたっ」


 バニーの煽りに、満座は大喜び。ひときわ高く歓声が上がっている。


「いやー、すごろくのときは上品なお嬢様ウエアでしたけど、ランちゃんとマルグレーテちゃん、肌もあらわな水着ですねえ。俺もう抱き着いていいですか」

「いいわけないでしょ」

「すんません」


 芸人がバニーにツッコまれ頭を叩かれると、笑い声が巻き起こった。


「それに新加入のレミリアちゃん。エルフならではの線の細い色気……」


 バニーに睨まれて、マイクを握り直した。


「せ、線の細い高貴さがあって、肌まるだしのビキニがソソりまく……じ、上品で……。ウチのかみさんと代わってほしいくらい。いやかみさんはいい女ですもちろん」


 しどろもどろになってるな。まあほぼほぼ裸同然のレミリアの水着姿を見たら、こうなっても仕方ないか。


「ご観覧の皆様、時間となりました」


 ぐだぐだになった芸人にひじ鉄を打って前に出ると、バニーがマイクを握り締めた。



「いよいよ本リゾート特別開催、『マジックビーチバレー、モーブ五番勝負』開幕ですっ」


 歓声が巻き起こる。


「校長先生の長々挨拶はないので、ご安心を」


 なんとか立て直した芸人が笑いを取る。


「さあ、一番勝負。相手はポルト・プレイザーのイーストサイド貿易港湾地区、力自慢沖仲仕チームですっ」


 相手側控室の扉が開くと、黒いお揃い海パン姿が五人、ぞろぞろ出てきた。全員、ムキムキゴリマッチョ。もう、どこのボディビルダーかってくらい。みんな顔や腕は、日焼けして真っ黒だ。港湾作業着で隠れる胴体だけは真っ白だから、パンダのビルダーといったとこ。


「うおっ。マジで相手がおる。噂のランちゃんとマルグレーテちゃんが」


 ひとり小さな奴が、叫びながらこっちに駆けてきた。慌てすぎて転けたけれども。


「かわいいーっ。夢かこれ」


 転んだまま、砂まみれの顔で呟く。


「毎日仕事仕事で、ウエストサイドのおちゃらけたイベントとは縁がなかったらなあ、俺達」


 リーダーと思しき四十前くらいのムキムキは、感慨深げだ。


「そんな俺達でも、モーブさん、あんたの噂でもちきりですぜ」


 コートを分けるネット越しに手を出してきたから、握り返した。


「強そうなチームですね」

「ええまあ。沖仲仕でも体力自慢ばかり選んだんで」


 頼もしげに、仲間を振り返る。


「皆さん、毎日お仕事ご苦労さま」


 ランが声を掛けると、転んでた奴が飛び起きた。


「うーっ! 俺もう死んでもいい。ランちゃんの水着姿、こんな近くで見られただけで、もう天国だし」


 まあ、楽しんでいただけて結構だ。


「ところで、最近、こっちからひとり、中年が沖仲仕に入ったはずですが」

「ああ、あの偉そうな態度のチンピラね」


 苦笑いしている。


「ウエストサイドでアウトロー張ってたって話で、最初は一目置かれてたんですが、へっぴり腰でねえ……。部下相手にふんぞり返るだけで、男としての修養をないがしろにしてたんでしょうな。今じゃすっかり三下扱いで」


 そうか。あの人買い親分も、真の男の前では雑魚扱いか。


「おいおい。いつまでくだらねえ話、してやがる」


 顔に傷のある、いかにもヤバそうなおっさんが割り込んできた。


「早くやろうぜ。とっととこいつら潰して、賞金で女を買いたいからな」


 俺を睨む。


「わかったわかった」


 リーダーは溜息を漏らした。


「こいつ、狂犬ってあだ名でな。体力と運動神経は抜群だからモーブさん、悪いがウチが勝ちますよ」

「お手柔らかに」


 もう一度握手をすると、仲間の元に戻った。


「どうする、モーブ」


 先程から、レミリアは柔軟体操をして待っていた。ほぼ裸がぐっと体を反らして胸や下半身を突き出すから、ギャラリーが思わず黙り込んで覗き込んでたけどな。最前列の金持ち席連中なんか、魔導双眼鏡でガン見してたし。


「そうだな……」


 相手チーム五人は、前衛三人の後衛二人配置か……。冒険者でもないし肉体派だ。だからおそらく魔法は使ってこない。純粋にビーチバレーの感じで来るだろう。


 この大会でのルールは単純。三タッチ以内で相手コートに返せばいい。十点先取したチームの勝利。両チーム合計得点で五点ごとに、コートチェンジする。ビーチバレーだけに足元は砂。どうしても荒れるから、コートチェンジは重要だ。


 もちろん、最大の特徴は、「マジック」ビーチバレーであることだ。ビーチバレーのボールに魔法感受性が付与してあり、魔法によってボールに様々な魔法効果を与えることができる。コースを変えたり、ボール自体を炎で包んだりとか。


「相手は魔法なしだろう。どう思う」

「わたくしもそう思うわ、モーブ」

「私も魔力を感じないよ」


 マルグレーテとランがそう思うなら、間違いないだろう。魔道士ふたりの判断だ。


「ならちょうどいい。こっちの戦略の練習役になってもらおう」

「いいわね。相手のいる練習はしていないもの」

「そういうことだ、マルグレーテ」

「なら標準戦略ね。こっちが決めた」


 レミリアは頷いている。


「それでいこう。相手には悪いが、練習のつもりでいろいろ試してみる」

「わかった」

「うん」

「がんばろうねーっ」


 みんなコートに散った。


 俺達の前衛は、ランとレミリア。ランはメインアタッカー。野生の勘があり、魔道士としては体力もあるほうだ。山村育ちで野山を駆け回っていたからな。レミリアは小さいからバレーボールのアタッカーには向かないが、練習ではセッターとして意外な才能を発揮した。


 後衛は俺とマルグレーテ。マルグレーテは体力はないが、マジックビーチバレーでもっとも重要な、魔法術者として活躍してもらう。球を拾う必要はない。後衛のメインとしては俺が動き、後ろから見ての司令塔役もこなす。


「では、試合開始っ!」


 バニーの合図に、ひときわ高い歓声が巻き起こった。


「さて……」


 白と黄に染め分けられた革ボールを、俺はぽんぽんと叩いた。普通に小ぶりのバレーボールといったところだ。


「いくぞ、みんな」


 試合は俺のサーブから始まる。今一度声を掛けてからボールを軽く上げ、思いっきり叩いた。真っ青な南国の空に、ボールが高く吸い込まれてゆく。


「さあ、ファーストサーブが上がりました!」


 バニーがひときわ声を張り上げた。



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