7-8 添い寝
「じゃあ寝ようか」
いの一番に寝台に飛び込むと、レミリアはブランケットに潜り込んだ。
「モーブ、早くぅ」
いや「早くぅ」とか甘え声出されてもなあ……。特になんかするわけでもないんだし、おねだり的なサムシンは違うというかさ。
「なら寝るか。ほら」
「うん」
「はい……」
裸になったふたりの手を取って、寝台に入る。例の位置取りをして、ランとマルグレーテを抱き寄せて。
「モーブ、手をちょうだい」
レミリアはうきうき声だ。
「ほらよ」
指を絡めてやる。
「わあ、モーブの手って、あったかいんだね。ランがいつも言ってるとおりに」
「酒飲んだからな。末梢血管が開くから表面体温が上がってどうのこうのとかいう」
「へえモーブ、お医者さんみたい」
指を絡めたまま、俺の腕を胸に抱え込んだ。肩に口を着ける。
「いい匂いがするね。これがモーブなんだ」
「そうだよ、レミリアちゃん。落ち着くでしょ」
ランの声だ。
「うん。……女の子とは、違うね。たくましくて……あたしを引っ張ってくれるような香り……」
うっとりと瞳を閉じている。
マルグレーテはもう俺の右胸に唇を着けている。夢中だから、話には加わってこないようだ。
それにしても……。
暗い天井を、俺は見つめた。ランプはもう消した。緞帳から漏れるわずかな月明かりに、天井がぼんやり浮かんでいる。
それにしてもレミリアの寝巻きっての、結構刺激的だったな。この街で買ったって言ってたけどさ。
緑色が好きなみたいだから、そんな色のパジャマかなんかだと思ってたけど、全然違ってた。なんての、透き通ったレースのようなふわふわ生地で、丈が極端に短い。前世童貞の俺は女子のナイトウエアとか全然わからんが、ベビードールとか、ああいう感じ。正確にはなんというのか知らんが。
「モーブ……」
腕を抱く手に力を入れると、顔をすりつけるようにして、うっとりと瞳を閉じている。多分、俺の体の匂いを味わってるんだろうけどさ。胸が当たるんだわ、腕に。
いやそりゃランやマルグレーテに比べたら控えめの極地とはいえ、一応膨らんでいて柔らかい。それに寝巻きがなかば透けていて、いろいろな形や色がわかったし。
馬車野営のときは野暮ったい普段着のまま寝てたのに、リゾートだと随分羽伸ばすんだな。まあこの街で青春を謳歌するとうきうきしてたから、浮かれて「女子っぽい」ナイトウエアにしたんだろうけどさ。せめてパンツくらいは穿けっての。うっすら透けてるからなんとなくわかるし、ちょっと寝乱れたら、朝なんか丸出しになってるだろ、これ。この部屋だと朝日が緞帳の隙間から漏れてくるから、結構丸見えになるぞ。寝るときエルフは下着なしって、初めて知ったわ。
毎晩ランやマルグレーテと二、三回いちゃつくのがもう日課になってたのに、今夜はこの体勢で禁欲僧だからなあ……。色々溜まっているというのにレミリアの奴、想像以上に刺激が強いわ。三人に挟まれて、早くも俺の下半身がアレだし……。
「早く寝ろよ、レミリア」
なるだけさり気なく言うと、手を振り払って右側を向いた。そのままマルグレーテとランを腕に抱く。これならレミリアにバレないで済む。バレたらあいつ笑いそうだし。マルグレーテは硬いものが腹に当たっても、今さら騒いだりしないからさ。もうすっかり俺の体に慣れたから。
「モーブ……温かいわ」
「ほらおいで、マルグレーテ」
「ええ」
ブランケットに潜ると俺の腹に手を回し、胸に口を着けた。
「ランも」
「うん」
マルグレーテと俺を抱くようにしてきた。ランはブランケットに潜り込んだりはしないので、普通に目の前に顔が来る。そのままふたり、唇を重ねた。ランの温かな口が、俺の唇と舌を受け入れてくれる。ブランケットの中では、マルグレーテの頭が動いている。
「モーブったら、まーたマルグレーテやランともぞもぞしてる。馬車と変わらないじゃん」
腕を抱けなくなって、レミリアは不満げな声だ。悪いな。硬いの触ってドン引きされても困るからさ。
「脅されて怖いから、添い寝を頼んだのに……」
「なら後ろから抱いていいぞ、レミリア。それなら安心するだろ」
「うん……まあ」
密着すると、腕を回してきた。胸はマルグレーテがいるので、入り込む余地がない。やむなく腹を撫でていたが、拍子にふと俺の下半身に当たって、びっくりしたように手を引っ込めた。
あらーこれバレたわ。
「……」
それでもいつものように茶化したりはしないな。おずおずとまた手を伸ばしてくると、腹を撫でているから。まあ……下に行かないように注意はしているようだが。
「モーブ……ありがとう」
ぼそっと呟く。
「あたしなんかのために、危険に飛び込んでくれて」
背中に、レミリアの唇を感じた。
「わかったから寝ろ。明日から忙しいぞ」
「うん」
また顔を寄せてきた。ちゅっという感触が、何度もした。
●明日公開の次話からは、新章「第八章 迷いの森攻略クエスト」に入ります。
新参エルフ「レミリア」の命を懸けて、帰らずの地「迷いの森」攻略に挑むモーブ一行を、ループの罠、中ボス「ククノチ」が待つ。苦労してようやく辿り着いた「古代の祈祷処」には、謎の仕掛けがあって……。
レミリアの命を削るタイムリミット内に、モーブはクエスト攻略に成功するのか、そしてその果てにある秘密とは……。新展開にご期待下さい。




