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6-7 獲得コイン「全額没収」の、さらに先

――獲得コイン 0000000――

――オーディエンス・ファンディング 00403392――

――持ち点 98――


――残探索時間 0:28:19――

――探索物 奇跡の鍵/愛の徴/魂の絆――

――探索報酬 獲得コイン返還 3795547――


 無慈悲に表示されたスコアボードを、俺達は見上げていた。


「なにこれ……。苦労して手に入れたコインが、ゼロにされてる」


 マルグレーテは早口になっている。


 ここまで苦労に苦労を重ねて得た四百万近いコインが没収されたのは痛いが、リタイアなどできない。報奨はあくまでゴールしてのもので、途中リタイアだと裸で放り出されるだけ。しかもすごろく挑戦権は年一度しかない。せっかくサードループゾーンまで辿り着いた。ここは辛くともなんとか死ぬまで足掻くしかない。


「残探索時間ってなに」


 ランが呆然と呟く。


「そもそも探索物ってなによ」


 マルグレーテはまだ早口だ。


「だいたい――」

「慌てるな、ふたりとも」


 ふたりを抱き寄せる。


「とりあえず落ち着こう」

「うん」

「ええ……」


 俺に抱かれてふたり、じっとスコアボードを見つめている。


「『探索報酬』って欄に、獲得コイン返還とある。枚数も三百八十万枚弱だから、俺達が失ったコイン枚数と同じだ」

「そうね、モーブ」

「つまり『探索』して成功すれば、コインを返してくれるってことだよね」

「ランの言うとおりだろう。その探索物ってのが、上に書いてある『奇跡の鍵/愛の徴/魂の絆』とかいう、三つのアイテムだろう」

「それを三十分以内に集めろってことかしら」

「そういうことだ、多分」

「無理よ。たったの三十分よ。もう二分以上経っているし、ひとつあたり十分もない……」

「このアイテム、どこにあるのかな」


 ランも首を傾げている。


「このサードループゾーンなのかな。でもそうしたら、ワープマスを踏んでファイナルループゾーンに跳んじゃったら、二度と手に入らないよね」

「待て。よく調べてみよう」


 部屋を見回してみた。……と、部屋の横の壁、入り口や出口のない壁に、四角い切れ込みがある。人がちょうど抜けられるくらいの、扉の形に。


「あそこだ」


 近寄ってみると、やはり扉だった。蝶番ちょうつがいやドアノブまで見えている。扉の表面には、長々と説明書きが書かれていた。……というか光の形で浮き出ている。


「これが……条件ね」

「そういうことだ」


 色々書いてあったが、まとめるとこうだった。何人パーティーだろうが、ここを潜ると分割され、三つの空間に跳ばされる。リーダーを含む何人かが跳ばされる空間が、最初の空間。そこで「奇跡の鍵」を手に入れれば、次の空間への道が開ける。そこで「愛の徴」を入手すれば、最後の空間に跳ぶことができる。最後の空間で「魂の絆」をゲットすれば、条件クリア。この部屋に戻ってきて、報酬を受け取れる。


 ただし、合計三十分以内という条件がある。時間切れになれば、三つのアイテムのうち、そこまでで手に入れたものを持ったまま、この空間に戻される。もちろん挑戦失敗扱いだから、コインは取り戻せない。全額没収の罰を受けた状態のまま、すごろくの続きに挑むことになる。


 探索中の行動ではコインを獲得することはできないが、持ち点が減ることもない。ただし、HPMPは通常どおり増減するので、三人が全滅すれば、普通にすごろく失敗となる。


「うーん……」


 どんな空間が待つかはわからんが、空間が三つある以上、全員別空間に跳ばされるのは決定だ。ひとりだけってのは痛い。戦闘とかもあるかもしれないし……。


「私、モーブのお嫁さんだよ」


 俺の肩に、ランが額を寄せてきた。


「いつでもモーブと一緒だもん」

「わたくしも……。離れるのは心細いわ」

「心配するな、ふたりとも。俺がすぐお前達を見つけてやるから」

「うん……」

「お願い……」


 祈るような瞳で、ふたりが俺を見つめてきた。


「ほら、ランはこれ持ってろ」


 手持ちの攻撃ポーションを、ランのバッグに入れてやる。


「お前は一番攻撃能力に欠ける。もし戦闘になれば、アイテムが必要だ」

「わたくしのも、あげるわ」

「じゃあ、私が持ってる回復ポーションは全部、ふたりにあげるね。私は魔法で回復できるし」

「ありがと、ランちゃん」


 ごそごそとアイテムを移し、バランスを少しでもいい方向に変えておく。


「それに、成功してここに戻ってからも厳しいわよね」


 マルグレーテは眉を寄せた。


「先生が大きな戦力だったのは明白よ。先生なし、三人だけでこの先、サードループとファイナルループをクリアしないとならない」

「それはまだ考えるな。眼の前の課題に集中しよう」

「……そうね。モーブの言うとおりね」


 ほっと息を吐いている。


「考え過ぎると不安になるわ」

「俺達は、ゼニ……ゼナス先生から加護の魔法を受けた。あれは強力だぞ。当面、戦闘があっても無敵に近い防御力のはずだ」

「それを忘れていたわ」

「でも油断するな」


 改めてふたりを抱き寄せると、スコアボードを見上げた。


――残探索時間 0:21:57――


 くそっ。淡々と減らしていきやがる。もう二十分しかない……。


「さあ行こう。扉を開けるぞ」

「その前に……」


 ランが俺の首筋に唇を着けた。


「私を勇気づけて、モーブ……」

「……」


 強く抱くと、キスを与えた。瞳を閉じたまま、ランは俺の唇を受け入れている。続いて、マルグレーテとも唇を重ねる。


 ふたりの鼓動が、落ち着いてくるのがわかった。今頃またカジノフロアは大盛りあがりだろう。音声まで放送されているとしたら、なおのこと。だが知ったこっちゃない。無責任なギャラリーが喜ぼうが騒ごうが、こっちはこっちで粛々と進めるだけだ。


「さあ行こう」

「ええ」

「うん、モーブ……」


 扉を開くと、先は真っ黒だった。なにも見えない。


 俺達は、異空間に吸い込まれていった。




●なにもない異空間。そこはすごろく参加プレイヤーのメンタルを攻撃する、試練の場だった。今、モーブとラン、マルグレーテの絆の強さが試される……。

次話「ロストの探索者」

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