6-4 歴代スコア一位をぶち抜いてやったぜ!
「くそっ!」
最後に残ったリッチーの頭を剣で斬り飛ばすと、少しくらっとした。剣を地面に刺し、もたれかかる。
「はあ……はあ……」
そこそこダメージは食らったが、なんとかこの戦闘マスをクリアできた。
「モーブっ! 大丈夫?」
ランの声が聞こえた。
「平気さ。退屈すぎて眠くなっただけだ」
ランを心配させたくはない。
「今、回復するから」
ランから回復魔法が飛んでくると、楽になった。
「スコアはどうだ」
「コインはたくさん増えたわよ、モーブ」
駆け寄ってくると、マルグレーテが飛び着いてきた。
「良かった、モーブが無事で。わたくし……」
きれいな瞳が、潤んでいた。
「平気さ。たとえ死んでも、すごろく上だけの話だ」
「でもモーブがダメージを受けてるのを見たら、胸が苦しくて……」
「モーブっ!」
ランも抱き着いてきた。俺の肩に頬を擦り付ける。
「ごめんね。リッチーで手一杯で、モーブを回復させてあげられなくて……」
ランも涙ぐんでいる。
「俺がそう命令したんだ。気にするな」
ふたりの体を抱いてやった。
「ふむ。モーブもなかなか戦闘指揮がうまくなったのう……」
じいさんがにやにやしている。
「それになかなか、連れ合いとも仲良いようじゃし」
「スコアは……」
「たった一戦で五十六万も稼いだ。歴代一位を突破したぞよ。喜べ」
見上げた。
――獲得コイン 3795547――
――オーディエンス・ファンディング 00316774――
――持ち点 98――
歴代一位はコイン三百九十万枚程度。今の俺達より十万枚ほど上だ。だが投げ銭分を加えれば、俺達の持ち点はすでに四百万超え。歴代一位は入れ替わった。今や俺達こそ、堂々たる歴代一位だ。
それに今の一戦だけで、投げ銭が十万コインも増えた。これは確実に、ポルト・プレイザー全体が大騒ぎになってるな。後は無事、ゴールさえすればいい。だが……。
「持ち点が……」
「ええ、モーブ……」
俺に抱き着いたまま、マルグレーテも眉を寄せた。
たった一戦で、持ち点を三十六も減らしてしまった。もう残り百を切っている。今と同じ戦闘マス、今と同じ戦闘展開があったとしたら、三戦も持たない……。ここはまだサードループ。このゾーンをクリアした上で、さらに凶悪なファイナルループゾーンが待っているというのに。
「ダメージを避けるより敵撃滅を選んだモーブ、お主の戦略は間違っておらん。瞬時に適切な判断を下したお主は、リーダーとして優れた素質を持っておる」
じいさんは髭を撫でた。
「お主が曖昧な指示をしておったら、ランが回復とリッチー攻撃の双方に手を取られ、このパーティーは全滅したことであろう。ランは優しい娘だからの。お主の怪我を無視はできんわ」
じっと俺を見つめてきた。
「諦めい。持ち点が減ったのは、結果論じゃ」
くそっ。エロじじい、時々まともなこと言いやがる。いや、俺だってそう思う。そうは思うんだが、この先を考えると厳しい。
「息も整ったようじゃな。さて、次に進むとしよう。……もうすごろく開始から四時間近く経っておる。途中、休憩マスや宿屋マスがあったとはいえ、パーティーの疲労は隠すべくもない。あまりの長期戦は、此の方の不利じゃぞ」
「わかっています、先生」
「ここでのわしの言葉を覚えておけ。いずれ役立つ」
「はい」
なんだじいさん、リーダーとしての戦略や判断のポイントを教えるために、俺のパーティーに加わってくれたのかな。それならエロハゲ居眠りじいさんでなく、やっぱり立派な教師だわ。
大賢者ゼニスの実地教育を受けられるとか、考えてみたらこんな貴重な機会、無いよな。王立冒険者学園ヘクトール、ブレイズやマルグレーテが所属したエリートのSSSクラスだって、ゼニス級の英雄に習う授業なんて皆無だったんだから。
「モーブ……」
心配そうに、ランが見上げてきた。
「大丈夫だよ、ラン。それにマルグレーテも。おいで……」
「モーブ」
「モーブ……」
抱き寄せると、ふたりにキスしてあげた。じいさんが見ているが、知ったことか。ふたりを安心させることが、なにより重要だ。いつもと同じ、柔らかな唇の感触――、それは俺も落ち着かせるし。
「ほう。今この瞬間、おひねりが一気に五万も増えたのう……」
スコアボードを見上げて、じいさんがにやにやしている。
あっ……。
何百人だか何千人だか知らんが、ギャラリーが興味丸出しで観ているの俺、すっかり忘れてたわ。亜空間の外側、ポルト・プレイザーのカジノ地下で。
恥……。
●次話、モーブたちは「分岐マス」で強制停止させられる。右のルートを選ぶか、左か……。十マス先まで見通せる「分岐マス」ならではの戦略を、モーブは考える。決断したモーブが振ったサイコロは……。
次話「分岐マスの戦略」




