3-6 ランとの甘々生活、同級生にバレてしまう
「おいモーブ」
「はい先生。なんでしょうか」
仕方ないんで、返事する。
「お前とランは旧寮暮らしだったな」
「そうです」
「廃墟寸前のあのボロ屋で、どうやって寝起きしている」
「それは……適当に修理して」
「なぜ学園に修理を頼まなかった」
「それは……」
俺はランを見た。椅子を寄せてくると、ランが俺の手を握ってくる。
「俺達は孤児で、金が無い。だから男子寮と女子寮を辞退して、寮費の分を現金でもらって生活費にしている。自分の勝手で旧寮を選んだんだ。修理くらい当然でしょう」
「モーブの言うとおりです。直せば私達、気持ちよく住めますし。……でも」
ランが付け加えた。
「でも、寝台が腐ってて」
「ほう」
教師が首を傾げた。
「あの寝台、雑魚寝用だからかなり大きいだろ。わしの時代は学生が多くてな、ひとつの寝台に八人も寝ておった」
なんだよ学園の卒業生かよ、このじいさん。ヘクトールに入学できるようなエリートとは、とても思えないんだが。
「はい。だから傷んでいない場所をなんとか見つけて、モーブとふたり、くっついて寝てます。そうしないと落ちちゃうので」
「えっ……」
「部屋同じなの?」
「しかも寝台まで……」
教室に大きなざわめきが広がった。王立学園ヘクトールは基本、授業以外は男女別生活だからな。そりゃ驚かれるだろ。
……てかラン、余計なこと言うなよ。本当に無邪気だわ、この娘。俺が前世所属していたブラック企業なんかだと、そういうこと口にすると、嫉妬されるんだわ。で、嫌な仕事押し付けられたりいじめられたりとか、日常茶飯事だからな。
まあZの連中は負け組コンプでやる気皆無に落ちてるから、いじめる気力すらないとは思う。それにランは実力SSSクラス。この学園は、実力が全てだ。ランなんかいじめられっこない。もちろんランがべったりの俺にだって、手を出す勇気のある奴なんかいないはず。
「そうかそうか。仲が良くて何よりじゃ」
じいさんはニコニコ顔。あら、てっきり不健全だとか不純だとか怒られると思ったけどな。
「お前達、今の話を聞いてどう思う」
「どうって……。ずるいの一択」
「別の部屋で寝るべきだと思います。それがこの歴史ある学園の秩序というものです」
「う、うらやましい……」
いろいろだな。変な話になったせいか、これまで白け気味だった教室なのに、ようやくみんな、なにか口にするようになってきた。
「なんじゃ、そこなのか……」
教師は、ほっと息を吐いた。呆れたような表情だ。
「修理のほうに注目せい。これが自助ってもんだ。わからないのかのう……」
「いえ、授業中ずっと寝ている先生に言われても……」
例の口の立つ奴が、とうとうそれを口にした。
「そうか。これは一本取られたわい」
自分でハゲ頭を叩いて大笑いしてるな。
「たしかにそうじゃな。さすがは伝統あるヘクトールの学生じゃ。鋭いわい」
いや鋭いもなにも、全員口まで出かかってた台詞だし。
「……どうじゃモーブ」
俺を見る。
「床を直してみたら」
「いいっすよ。教科書読むだけよりは面白そうだし」
本音だ。ブラック社畜時代と比べりゃこんなんぬるすぎて、体も心もなまっちまうわ。冒険者になるつもりなんか、ハナからない。だからそもそも、教科書読む意味だってないし。少しは体を動かしたい。
「私も手伝います」
ランが口を挟んできた。
「よし」
教師は頷いた。
「ふたりには営繕の労賃を出すよう、わしから学園長に進言しておこう」
おう。なかなかいいとこあるじゃん、じいさん。これ、俺達が金に困ってるの知ってて、恩を売らない形で助けてくれたんだよな。
とはいえZクラス配属で干されてる学園内ニートみたいな扱いの教師なのに、雲の上の学園長なんかに、口利けるのかよ。学園長って、国王にも一目置かれてる元冒険者って話だし。どんだけ吹かすんだ。受けるわー。
「労賃出るの」
嬉しそうに、ランが首を傾げた。
「じゃあ、モーブにパンツ買ってあげられるねっ。モーブったら、私には下着買ってくれるけど、自分のは一枚でいいって遠慮してるし」
「でもランが毎日洗ってくれるからな。助かってるよ」
「いいんだよ」
恥ずかしそうに、頬を染めた。
「モーブだって、お……お風呂で……背中、流してくれるし」
「風呂……」
「どういうこと?」
「パンツ洗わせてるのか」
「こ、混浴……」
今日イチ、教室がざわめいた。
「そうだな。ランに毎日洗ってもらうのも悪いし、労賃でパンツ買うわ」
「かわいいの選んであげるね。購買部で」
「ありがとな、ラン」
「モーブ、下着姿も素敵だもんね……」
俺の腕を胸に抱えると、恥ずかしそうにイヤイヤした。
「やーん。想像するだけでかわいいっ」
「あー。そろそろいいかな」
鼻の下の髭を撫で整えながら、教師が苦笑いしている。
「もちろん。もう始めてもいいっすか」
「頼むわい。用務員室と工作室で言え。教室の床が抜けた。わしの用向きだとな」
「はい」
「あの……僕も手伝います」
誰かが手を上げた。
「たしかに考えてみれば、自分達の教室だし」
「そうだな。俺も」
「じゃあボクも」
五人くらいが立ち上がった。学園が修理するならともかく、同じクラスの学生がやるなら、なんもせんのは気まずい、ってのがあるんだろう。あと多分だが、ランの近くにいたいのと。
ランの心は俺全振りで、売り切れてるのはミエミエだ。だから彼女にしたいとかは諦めてるはず。だが学園一の美少女の側で同じ空気を吸えれば……くらいは考えるよな。落ちこぼれとはいえ男なら。名前呼んでもらえるチャンスだし。
「では始めよ」
教師が宣言した。
「営繕に参加しない学生は、邪魔にならんよう、適当に席を移動して教科書を読め。修理でうるさいのが嫌なら、今日は自主休講して構わん。出席扱いにしておく」
「おっラッキー」
これ幸いと、数人教室を出ていった。寮でごろごろするか、近くの山でも散策する気だろう。
残った連中も、適当に席を移動する。
「どうする。モーブ」
「そうだな、ラン……」
営繕組の視線が、俺に集まった。
「なら三人くらい、俺と工作室に頼む。残りはランと用務員室に行ってくれ」
「わかった」
「おう」
「任せろ」
って全員、ランの側に寄ってるじゃん。やっぱこうなるか……。
「せめて誰かひとりは俺と来いよ」
思わず笑っちゃったよ。
営繕組は、無言で互いの顔を見回している。そのうちじゃんけんが始まり、負けたふたりが涙目になった。
「では頼むぞモーブ。わしは指導で疲れた。ここで少し昼寝するでのう」
ほっほっと笑うと、教師は教卓に突っ伏した。
いやじいさん。これから木を切ったり釘打ったりで、やかましくなる。なのにあんた、眠れるんか。どんだけやる気ないんだよ。てか神経太いわ、このハゲ。
●次話から新章「第四章 令嬢マルグレーテ、ボロ寮に来襲」開始。
本来の主人公ブレイズがSSS「ドラゴン」クラス内でヘイトを集めつつある展開。さらに本来ブレイズのハーレム要員のはずだったマルグレーテを寝取ることに。
それに続く第五章は、モーブが隠された能力で大活躍する、真夏の遠泳大会。ブレイズがやらかして落ちぶれる、連続各話ざまぁ展開です。
いつも応援ありがとうございます。応援に力を得て毎日更新中。




