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5-2 カジノでバグ確認

 酒や茶を飲みながら三人で、カジノの各コーナーを冷やかして回った。


 実は原作ゲームでも、ここ海岸都市ポルト・プレイザーには、カジノがあった。コンピューター相手のポーカーやスロット、モンスターレースやトーナメントといった、いかにも「ゲーム世界のミニゲーム」といったコーナーがいくつも。さらに割とガチで長時間ハマれる、作り込みの凄い「すごろく」まであって。


「うーん……」

「どうしたの、モーブ」

「コーナーがちょっと、原作とは違うな」

「原作?」


 ランが首を傾げた。


「ああこっちの話だ、気にすんな」


 ただ、システムは原作と同じようだった。ここでは全て、現金でなく、交換したコインを使って遊ぶ。たとえいくら増やしてもコインの現金化はできず、賞品に交換できるだけだ。交換カウンターを覗いてみたが、多少の違いこそあるものの、賞品は原作ゲームと大差ない。


 少ないコインでも交換しやすい、各種ポーションなどの消費アイテム。それにSTRやMPなど基礎ポイントをわずかに上げるための、特殊な消費アイテム。さらに中盤からそこそこ終盤まで使える武器や防具、アクセサリー――。そんな感じさ。


 もちろんここで交換できる高額武器防具の類は、街場の武器商などでは入手できない。中ボスクラスのレアドロップ品を、特別なルートで仕入れているだろうからな。


 最高額のアイテムで、コイン数万枚ってところ。コイン数万枚を現金で買うとなると、レアドロップ固定効果という特殊能力を持つ俺達でさえ、毎日狩りして一年はかかりそうだ。それくらい高額。つまり基本、このカジノで運に乗ってとてつもなく勝ちまくるしか、現実的な入手方法はない。


「どれを遊ぶ、モーブ」

「慌てるなラン。もう少し考えよう」

「でもカジノとか、胴元が勝つように設計されているわよ、モーブ」


 飲み終わったグラスを集めると、マルグレーテが近くのスタッフに戻してくれた。


「まあ統計的にはな。でもある程度はテクニックというのもある。それに加えてツキさえあれば、勝ち越すことも可能だよ、マルグレーテ」

「それはそうだけれど……」


 ちらっと俺を見る。


「あんまりハマっちゃだめよ、モーブ」

「わかってるって」


 それに実は……原作ゲームでは、ここカジノに復数のバグ技が、ユーザーによって発見開発されていた。それを使えば、確定で勝ち越すことが可能だ。


「とりあえず少額だけ試してみるか」

「そうね」

「楽しみだねー」


 現金をコインに両替し、バグ持ち遊戯コーナーに向かう。


 なにバグったって、やることは割と簡単よ。ルーレットで「二の目、二、三、三、四、四……」と同額を賭け続けると、二回目の五の目で大当たりした上に確率上の倍率をなぜか超える百倍の払い戻しがあるとか、そんなん。


 このルーレットに限っては、発動条件からしてバグでなく、運営の動作チェック用隠しコマンドと言われている。ヘクトール夏の遠泳大会で俺とランが利用した、ショートカットルートとおんなじようなもんさ。


 俺は、最低額コインの一枚賭けで試してみた。これでバグの再現性が確定すれば、次の段階として、高額コインの大量賭けに変えればいい。


 だが……ルーレットに限らずどのコーナーでも、バグはすでに全て潰されていた。


「くそっ、運営め。……こんなとこだけ手を回すのが早いわ」


 そもそも主人公ブレイズは、まだ初級冒険者編をちょろちょろしてる。ここに来るのはもっとずっと先なんだから、バグ潰しも他を優先すればいいのに。クソつまらんわ。


「運営って?」

「ああ、気にするなマルグレーテ」


 腰に手をやり、ぐっと抱き寄せる。


「また酒でももらってやろうか」

「それは夜の楽しみに取っておきましょう……。夜、寝台に入る前にわたくしやランちゃんが軽く酔うと、モーブも楽しいみたいだし」


 言ってから、ぽっと赤くなった。


「嫌だ、わたくしったら……。さっきのお酒のせいね」


 頬に手を当てる。


「い、今の忘れて」

「わかったわかった」


 頭を撫でてやった。


「ねえモーブ、あそこに階段があるよ」


 ランが指差す先、たしかに階段が見えている。派手派手なカジノ内にしては妙に地味で、脇にブラックスーツの大男が立ち、鋭い瞳で目を光らせている。


「行ってみるか……」


 俺達が近づくと、大男は営業スマイルを浮かべ、階段のど真ん前に移動した。にこやかではあるが、ここは絶対通さない……という決意を感じる態度だ。


「お客様……」


 なんせ笑顔でも、目が笑ってないしな。スーツの上からも、発達した筋肉がわかる。スーツの胸、左側だけ膨らんでいるのは、なにか懐に隠し持っているからだろう。短剣とか警棒の類を。


「この先は、特別なお客様しかお通しできません」

「はあ……」


 まあそうだろうな。でなければ、立ち塞がる理由がない。


「戻ろうよ、モーブ」

「そうね。ランちゃんの言うとおり。遊ぶならこのフロアに、いくらでもコーナーがあるし」

「いや待て、マルグレーテ」


 ふと思いついた。スーツの内ポケットから、ゴールドカードを取り出す。昨日、マネジャーにもらった奴を。


「これでどうですか」

「少し、お預かりします」


 大男はカードを受け取った。眉を寄せ、唸っている。さらに裏返してマネジャーの書き込みとサインを発見すると、驚いたように目を見開いた。


「これは……」


 体を縮めるようにしてうやうやしく、俺にカードを戻してくれる。やっぱりあいつ、シニアマネジャークラスだな。間違いない。最低でもレセプションフロアとカジノの責任者で、もしかしたら支配人レベル。


「失礼いたしました、お客様。どうぞお通り下さい」


 すっと脇に寄る。


「ところで、階段の先はなんですか」

「この下は、特別なすごろく場です」

「へえ……」


 そういや、一階にはすごろく無かったわ。それも違和感の理由だったか……。


「すごろく……」


 ランが瞳を細めた。


「それ、楽しいの」

「ええ、お嬢様……」


 いかつい大男なりの、精一杯の営業スマイルを、ランに向ける。


「交換賞品が全然違います。いろいろありますが、この世界にひとつしかない、幻のアイテムもございますよ」


 俺に視線を移して。


「未だかつて、誰ひとりとして手にできていない品でございます……」

「マジっすか」

「ええ」


 頷いた。


「なにしろそれを取ろうとするなら、交換コインが一億枚必要ですので」




●交換コイン一億枚という桁外れのすごろく賞品を前に、モーブはとある必勝法を思い付く……。

次話「アーティファクト、従属のカラー」明日公開!



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