3-3-2 水着跡
「やっぱり焼けちゃったわ……」
その晩リゾート自室の内風呂で、マルグレーテが左腕を伸ばしてみせた。
「天蓋の日陰にいたし、半日しかビーチで遊ばなかったのに」
「私も焼けちゃったー」
なぜかランは楽しそうだ。今はふたり、俺に背中を向けて座っている。ちょうど背中を洗い始めたところだからな。
「たしかに焼けたなあ。背中も凄いぞ」
「でしょう」
マルグレーテは溜息を漏らした。
「日焼け止めはさっき買ったから、明日はちゃんと塗っておくわ。……南国の陽射しって、凄いのね……」
「でも焼けた姿も、かわいいぞ」
「うそ」
「嘘なんかつくもんか」
実際そうだ。ふたりとも白い肌に日焼け跡がくっきり浮き出ていて、かわいい。
面白いのは、ふたりの焼け色が違う点。ランはそれこそ収穫期の小麦というか、落ち着いた濃い色に焼けている。さすが健康優良田舎娘といった感じ。それに対しマルグレーテは、薄い桃色。おいしいアイスクリームのような焼け方だ。
「ほら、こっち向いてみろ」
「……なんだか恥ずかしいわ」
言いながらも、俺の腿に跨ってくる。本当に恥ずかしいのか、手で胸を隠したまま。
もちろん左腿にはランが跨ってきたが、こちらはなにも気にすることなく、いつも通り無警戒に俺に裸を晒している。
石鹸を手で泡立てながら、俺はふたりの裸を観察した。
小麦色の肌のランは、まるで真っ白なワンピースの水着を着ているかのよう。胸の先や脚の付け根だけわずかに色づいているのが、妙に色っぽい。白い水着が濡れ透けてしまったかのようにすら思える。
「マルグレーテ、手を外せよ」
「いやあよ、恥ずかしい」
いやいやと体を振る。
「それじゃ洗えないだろ」
「そうだけど……」
上目遣いに、ちらと俺を見る。
「恥ずかしいから、あんまり見ないでね」
そっと、手をどけてくれた。
「……」
うおーっ。なんだこれ。ソソるわ……。
なんといっても、マルグレーテが着ていたのは、布地面積極小のトライアングルビキニだ。だから体のほとんどの部分が淡桃。なんだか痛々しいというか、被虐的にすら思える。それで胸の、寝台で俺の手にちょうど収まる部分だけが白雪のように純真なんだからな。下半身もそうさ。いろいろ複雑な形になる、その寸前までは焼けているのに、そこからは真っ白。まるで俺に触れられるのを待っているかのように……。
「あ……あんまり見ないでってば」
言ったものの、手で隠すようなことはしない。
「……ふたりとも、行くぞ」
立たせると、腕を掴んだ。
「なあに、モーブ」
「眠くなってきたんだよ、ラン。寝室に行こう」
「うそっ。まだ晩ごはんだって済ませてないし」
「マルグレーテ、とにかく俺は眠いんだって」
腕を掴んだまま、ずんずん進む。浴室を出て、続き部屋の寝室に向かい。
「まだ背中しか洗ってないじゃない」
「いいんだよマルグレーテ。新婚旅行みたいだって、エリク家を発つとき、お前も言ってただろ」
「それは……そうだけど……」
「新婚旅行なら、どうなると思ってたんだ」
「モー……ブ」
恥ずかしそうに下を向くと、黙った。ランはにこにこと俺に手を引かれている。
「ほら、横になれ」
というか待ち切れずに、もうふたりとも寝台に押し倒した。
「やだ、モーブ……」
俺の下半身を見て、マルグレーテが顔を逸らす。また手で両胸を覆って。
「いいだろ、ふたりとも」
考えてみれば、ランやマルグレーテとは、この間の宿で一度したきり。毎晩一緒に過ごしてるにしては俺、禁欲僧も同然じゃん。真面目かよ>俺
もうふたりのR18フラグは立てている。そろそろ幻のR18版シナリオに踏み込んでもいいじゃないか。というか俺自身、もう一秒たりとも我慢できん。昼だって危なかったくらいだし。
「モ、モーブが望むなら、わたくしは――んむっ」
襲いかかると、マルグレーテの唇を奪った。胸を隠したままいやいやと体をよじっていたが、執拗に唇を攻略していると、そのうち体からすっと力が抜けた。




