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「今朝? いえ。連絡があったのは昨日ですよ」

 オイルの染み込んだ黄色いつなぎを着た修理工は、革の手袋を外し、帽子を取ると、髪を掻き上げながら言った。

「バンパーが破損してたから交換して欲しいって。でも新品は直ぐには手に入らないんで、納品まで中古を取り付けることになったんです。それでゆうべ、仕事帰りにいらっしゃいましたよ」

 間宮が車を持ち込んだ修理店は直ぐに割れた。高瀬がピックアップした店を回って2軒目だった。店は小さいが、外国産、とりわけドイツ車に強く腕がいいと、車好きの間では穴場的な店だ。

「なんか、誤って何かに引っ掛けたって話でしたね。実際、バンパーが下から上に向かって外れてました」

「そのバンパーはもう処分しちゃったのか」

「いや、まだありますよ」

「見せてくんねぇかな」

「どうぞ」

 こっちです。そう言うと、修理工は寒そうに背中を丸めて歩き出し、高瀬と柴田がそれに続いた。

「今朝の新聞見てって可能性は消えましたね」

 柴田はハンカチで鼻を押さえると言った。柴田の敏感な鼻には、塗料やオイルの臭いは刺激が強すぎるようだ。

「ああ。みてぇだな」

 店の後ろに建てられたトタン屋根のガレージに入ると、修理工は、ちょっと待ってて下さいとパーツの山に駆け寄り、黒光りするバンパーを抱えて戻ってきた。

「これです。ここに――」

 言ってバンパーの底部分を指さすと続けた。

「削られたような傷がありますんで、何かに引っ掛かけた拍子にガツンとやっちゃったんでしょうね」

「例えばどんな?」

「う~ん。そこまではちょっと。段差を降りる時にバンパーやっちゃう事もありますけど、それとも違うし」

「だな」

 高瀬は頷いた。

 傷は、ほぼ左のタイヤの位置から外側にかけて、凹みと、引っ掻くように削った後があった。

 横向きの傷なのである。

「あんまり見ない傷ではありますけど、ウチは口コミでなんとかやってる修理とカスタマイズの店なんで、あれこれ詮索する訳にも」

「わかるよ」

 そう言って、高瀬が申し訳なさげに眉を下げる修理工の肩を叩いた時だった。

「わっ。来たっ」

 戦隊モノの着信メロディが鳴り響き、柴田が携帯を開いた。

「どうした?」

「へへ。さっきニュース配信を申し込んでみたんです。メールも来ないし寂しいなーと」

「バッカじゃねぇのか」

 何事かと思えばそんなことか。高瀬は馬鹿らしいと肩をすくめた。

「いいじないですか。……あ。高瀬さん、ニュース、ニュース!」

「いいよ」

「よかないですよ。ほら!『ミナミ建設、談合発覚』」

 ミナミ建設。

 そのひと言で高瀬の反応は一変した。

 柴田から携帯をむしり取り、ニュース概要に目を通す。極短いものだったが、議員とミナミ建設の談合が発覚したと報じられていた。

 よくある話だ。天下りを条件に受注する。大方これもそんなところだろう。

「これ、明日の朝刊のトップですね」

「……なんで明日なんだ。夕刊がまだだろ」

「だってホラ。夕刊の記事の締め切りは1時半じゃないですか。それを過ぎると翌日の朝刊になるんです。さっき間宮にそんなそぶりもなかったですし、あの時点ではニュースになってなかったって事でしょ?」

 高瀬は時計を見た。午後3時になろうとしている。

 確かにあの時点でニュースになっていれば、間宮ものんびり休みを取ってはいられなかった筈だ。

「だから、明日の朝刊なんですよ」

「……でも、ブン屋のケータイニュースには直ぐ流れるのか」

「やっぱ便利ですねぇ。そう思いません?」

 柴田は嬉々として聞いてきたが、高瀬はそれに答えず思考を巡らせていた。

 間宮は、新聞社のニュース配信を掻き集めるかのように受信してた。ひょっとして、あの記事も前日に配信されていたのではないか。

「おい。あのスッパ抜きが、昨日のうちにケータイに配信されてなかったか調べろ」

「あ、はい」

 西川小春の死と間宮のバンパー。

 これらは点だ。だが、これを繋ぐ糸がきっとある。

「このバンパー、預かっても構わねぇかな」

「いいですよ。でも、あのスカイラインに積むんですか?」

「いや」

 後で取りに来る。そう続けようとした時、今度は高瀬の携帯が鳴った。

「もしも――。ああ、栞ちゃん?」

 高瀬は二言三言交わすと通話を終了した。否応なしに期待が膨らみ、笑みがこぼれる。

 月見里は何か見付けたに違いない。長年の付き合いから、高瀬の勘がそう言っていた。

「柴田。月見里ンとこ行くぞ」

「え? どうしたんですか?」

「多分、月見里センセーの法医学推理ショーが見れるぜ」


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