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令嬢だって怒ります

「リアム様、マギー様」

「う…ん」


優しい男性の声が聞こえ、私は目を覚ました。金色の髪が顔をくすぐり、ふと隣を見ると


「ひぃッ!?」


リアム王子が私にもたれかかって目を瞑っていた。大きな声が出そうになり、慌てて口を押える。


(なにしてんのこの人は!婚約者とはいえレディーにもたれかかるなんて、あっ睫毛ながーい…じゃなくて!)


本当に寝てるのか怪しくなって、顔を覗き込んでみる。こんなに近くでリアム様のお顔を見たのはきっと最初で最後かもしれない…綺麗なお顔をたっぷり堪能しとかなくては…いやいやそうじゃなくて。


「おやおや、リアム様がこんなに気持ちよくお眠りになられているとは」


そう言いながら、くすくすと笑うのはリアム様専属執事のサム。

王子専属の執事は誰しもなれるものではない、先代の王からずっとサムは王子専属だという。教養、作法、何から何まで全て王子はサムに教わるらしい。


「それだけリアム様がマギー様の事を信頼されている証拠でしょうか」

「サム、私をからかうのはやめてちょうだい」

「でもマギー様も私が声をかけるまではぐっすりとお休みになられておりましたよ」

「…もう!」


穏やかで優しいサムは私も大好き。サムと話をすると、なんだか落ち着くの。


「私はこのままでも構いませんが、リアム様とマギー様に食べていただこうと腕を振るった料理人たちががっかりします。マギー様、どうかリアム様を起こしていただけないでしょうか」

(なんで私が…)


サムの言葉に私はしぶしぶ頷いた。


「リアム様、着きましたわよ」

「……」

「そんなにお疲れになっているのなら本日の昼食会は中止になさいますか?」

「…ん…」


リアム様は目を開けて、私を見上げた。リアム様のこの美しい美貌、そこら辺の令嬢も負けてしまうわね、そんな事を思っているとリアム様は私を勢いよく突き飛ばした。


「え」

「あ」


びっくりした様子のリアム様。なんで貴方がびっくりされてるのかしら。

私は窓に思いっきり頭をぶつけた。


「マギー様!」

「いったーい!」


サムの慌てた声と私の悲鳴が重なる。


「あ、ちが…」

「一体なんですの!?そちらからもたれかかってきたくせに!せっかく起こしてさしあげたのにあんまりですわ!リアム様なんて大嫌い!!」


痛くて涙が少し出る。ジンジンする頭を押さえてリアム様を睨みつけると、リアム様は気まずそうに俯いた。そんな可愛らしい仕草をされても無駄ですわ!

サムの手を借りて馬車から降り、私はさっさと宮殿へ向かう。

いつも食事をしている庭には、私とリアム様専用の椅子とテーブルが並べられている。私はあからさまにリアム様の椅子と距離を取って音を立てて座った。

少し遅れてやってきたリアム様は、椅子の距離を見て驚き、黙って座る。

その様子にリアム様の使用人たちはおろおろしていたけど…


リアム様がちゃんと謝るまで絶対許しませんわ!



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



無言での食事会のあと、すぐに帰っても良かったけど私はなんとなく食事後の散歩をした。

王子と食事が終わるといつも2人で散歩をする。特別なにか会話があるわけではないど、宮殿の庭に咲く花や野生の小動物を見るのが好きで、私はこの散歩を楽しみにしていた。


ちらりと振り返ると、王子は適度な距離を保って付いてくる。


(よく考えたらリアム様が私に謝るなんてあり得ないわね、大人気なかったかも)


「リアム様」


私が声をかけるとリアム様はパッと顔を上げた。


「私、そろそろお暇いたしますわ」


スカートを持ち上げてお辞儀をする。リアム様はまだ何か言いたそうだったけど、私はくるりと踵を返した。早く帰ろう...そう思ってた時。


「マギー!!」


可愛らしい声が聞こえたかと思ったら前から強い衝撃があり、私はそのまま後ろに倒れ込みそうになった。


「危ない!」


ギュッと目を瞑って痛みに備える。だけどいつまで経っても痛みがこない。私は不思議に思って目を開けると、ふわりとした上品な匂いが鼻をかすめた。

この匂いは先程馬車で嗅いだ香り...振り返るとリアム様が私の両肩を抱きとめていた。


背丈はあまり変わらないと思っていたけど、リアム様はやっぱり男性。リアム様の体と比べると自分の体は随分華奢に見えた。


「だ、大丈夫かい...?」


リアム様は困ったような、なんとも言えない顔で私を見つめた。


(こんな近くでリアム様に見つめられたら、普通のご令嬢はすぐに夢中になっちゃうわね)


私は普通の令嬢でなくてよかった、いや普通だけど。悪役令嬢って普通じゃないか。


そんなことを考えていると、前から声がする。


「マギー!ごめんね!大丈夫!?」


私の腰くらいの高さから心配そうに顔を見上げる将来有望なこの美少年は第二王子のライ様。ギュッと私の腰に抱きつき、離れない。


「ライ様、大丈夫ですわ」

「ごめんね、僕マギーに会えたのが嬉しくてつい...」


しゅんっと目を伏せるそのお姿に、私は抱きしめ返したくなる思いだったけど相手は小さくても王子様。

冷静を装ってライ様の肩に手を置いた。


「私もライ様にお会いできて嬉しいですわ」

「本当ー!?やったー!」

「この間会ったばかりだろう」

「むぅ!兄様だってこの間マギーに会ったばかりじゃないですか!」


ライ様は小さくリアム様を睨む。


「兄様!早くマギーから離れてよー!」


ライ様に言われて、リアム様は私から離れた。


「リアム様、ありがとうございます」

「いや...」


口数が少ないリアム様と違ってライ様は喜怒哀楽の激しいお方。ライ様はまだ7歳、少し幼さも残っていらっしゃる。


「いいなぁー兄様は。マギーと結婚できて」

「まだ結婚したわけではない」

「でも婚約者なんでしょ?それってもう変更できないの?」

「それは...」


2人して言葉を濁していると、ライ様はキラキラとして眼差しで私の手を握った。


「じゃあもしマギーと兄様が結婚しなかったら僕と結婚してねぇ!」

「ら、ライ様、歳の差がありすぎますわ」

「えー!愛に歳の差は関係ないんだよ!」


ぷくっと頬を膨らます愛らしいお姿ににやける顔が止まらず、私はきっと今情けない顔をしているはず。それにしてもずいぶん大人っぽい事を言うライ様。


「どなたにそのような事を?」

「父上だよ」

「陛下が!?」


意外な人物の名前に声が裏返る。あの陛下もそんなこと言うのかと思っていると、


ゴンッ


リアム様がライ様の頭を叩いた。

叩かれたライ様、そして叩いたリアム様、それを見ていた私。3人の間に少しの沈黙が流れ、


「う、うわああああん!」


ライ様は頭を押さえて大きな声で泣き出した。


「リリリアム様!?」

「あ、すまない...ライ」


リアム様も目をパチクリさせながら、謝る。まるで手が勝手に出たかのような反応だった。


「兄様のばかあああ!」


ライ様は私に抱きつき、泣き止む気配がない。どうしていいか分からず私はとりあえずライ様の背中をさすった。


「ライ」


後ろから声がする。


今まで泣いていたライ様は泣き止み、しゃっくりをあげながら私から離れる。声の聞こえた方に顔を向けると、陛下が立っていた。

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