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俺とやっくり  作者: クスクリ
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若禿(大谷渓谷Ⅲ)

 キャンプ場らしき施設の右横を抜けてじゃぶじゃぶと川の中に入る。俺ら、先頭は必ず宮川さんに任せる。どうも俺はここが苦手だった。所々深みがあって嵌ったらビビる。俺は義足のため川の中に入って状況確認ができない。深みは車の中からは見分け難い。その点、宮川さんは慣れている。後ろに続く三台、宮川さんの軌跡を辿りながら進む。


 焼肉ビールパーティーができる中洲は上流入口と下流入口の間の中程くらいだ。途中、見るからに車が水没しそうな深い箇所があるが、ここは川岸を迂回する。どうしてかって、俺らは挑戦に来たのではなく、あくまでも、女子を乗せて得意になるためにやって来たのだから。


 本格的な渓谷の岩登りをするなら野郎ばかりでくる。当時、俺が出入りしていた四駆中古車屋のファミリー自動車のグループは車を水没させるような激しい遊び方をしていた。古庄さんを紹介してくれたMBの先輩、西村の顧客でジープJ53を買った矢野さんが、四駆で本格的な遊びをしたいと言うのでまた俺にお鉢が回って来た。タイヤ・アルミなどのドレスアップは4✕4ショップ小野のオヤジに紹介したが、遊び仲間としては、四駆中古車屋のファミリー自動車のオヤジに引き合わせた。

 ファミリー自動車のオヤジは、前年、平尾台に四駆のコースを造成してくれていた。俺も初中、そこを走って腕を鍛えていたが、そこに矢野さんを呼んでオヤジを紹介した。矢野さん、大谷渓谷で調子に乗って、俺たちが避けていた深みで水没。ウオーターハンマー現象でジープJ53のエンジン、お釈迦にしてしまった。


 余談だが、俺が北九州に出て来て付き合った友人・仲間は、そのほとんどがお客だ。パジェロを買って貰ったらそのお返しとしてツーリング焼肉に誘った。手前味噌ではないが、そんなセールスマン、勿論、北九州のMBでは俺だけだ。嫁も四駆絡みで結婚したようなものだから。


 こうやって無職になって車業界から完全に足を洗った今、改めて思うに、俺は人間ができたセールスマンだったんだな。

 今はお客とそんな関係を構築出来るような、生活を一変させるような夢のある車は皆無。はっきり言って、高価・豪華・速さを誇り競うだけの、こう言っては語弊があるが、時代に踊らされた走る箱。セールスマンも生活するためにただ車を売るだけの自分の扱う商品に何の拘りもない的屋。


 すいませんと一応謝ってはおくが、時代の変化には抗いようがないのは分かる。でもほんと、しょうもない世の中になったものだ。夢も希望もあったものではない。早いとここんな業界におさらばできてよかった。序でにこの世からもあと十数年でおさらばか。心残りは嫁のことだ。


 冒頭の写真は平成7年だ(小説家になろうは画像を投稿出来ません。元のアメブロにはちゃんと写真貼ってあります)。真ん中に映る女性はダイワハウス・福岡工場の三浦さん。俺は顧客の仙道さんの紹介で、同じ会社の彼女を紹介して貰って、当時大人気だったパジェロ・ミニを販売した。付けるメーカーオプションを間違って、本人に黙って注文し直して納期が長くなってしまったのはご愛嬌。この間違った車、在庫になって、暫く展示車としてショールームに飾られてしまった。


 女子が一緒ということで、宮川さん、簡易トイレを用意してくれていた。地面に穴を掘って簡単な囲いを設置する。

 廣井さん、にやにやしながら、「名倉さんちゃんと向こうに女性用トイレ作っとるけんね」

 焼肉の準備中、廣井さんの会社の女子、陣内さんがトイレを利用しに席を外した。

 廣井さんぽろっと、「ティッシュになりたい」

 男ども一斉に、「廣井さんイヤらしい!」

 本人頭をかきながら、「つい本音が出てもうた」に、場が爆笑に包まれる。

 この陣内さん、同じ職場の桑田さんと婚約中だった。廣井さん、桑田さんにパジェロメタルトップワゴンのガソリン3000を勧めてくれ、商談のため、雁ノ巣の砂浜で落ち合った。パジェロの魅力を知らしめるために廣井さんが設定したくれた。その期待に応えた俺、ディーゼルスポーツターボを砂浜で縦横無尽に操り、見事受注した。


 この頃の俺の思い出作りの必殺技は「写るんです」だ。前回の志賀島もスナップショットを撮り捲った。デジカメなんかなかったこの時代、気軽にたくさんの思い出写真を収蔵できたのは全て「写るんです」のお陰だ。感謝してもしきれない。撮り終わったレンズ付きカメラの「写るんです」、写真の焼き増しなんか全くしないで全て俺の手元にあった。俺は物持ちが良いから。

 ただ一つ残念なことが。平成6年に結婚したとき、間違いなく、大量の現像済みのネガも新居に持ち込んだ筈なのだが、紛失してしまった。懸命に捜し捲ったのだが、無駄だった。物持ちが良いと自負している俺としては後悔してもしきれない大失態だ。

 みんなで盛り上がって、廣井さんの会社のビール、キリンを浴びるほどかっ食らった俺たちは一種のハイ状態だ。


 帰途、助手席の名倉が叫ぶ、「YMRさん行っけ〜」

「合点!」と答える俺。

 四台のパジェロ、フロントショックアブソーバーをフランス製の高圧ガスショック、ド・カルボンに換装していた。大自然の中の道をレース気分でぶっ飛ばして、後続が見えなくなるくらい差が開いたらほっと一息、車を止めて待つことを繰り返す。


 曲がりくねった山道から、一目八景展望台の先、相当玖珠町寄りの、県道28号線、通称・森耶馬渓線に合流し、深耶馬渓の大駐車場まで戻って落ち合い、隊形を揃える。再び走り出した俺らが次に揃うのは、耶馬渓湖を望むドライブレスト・アイビーの駐車場だった。

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